ときどき、敦賀さんの手をぼんやりと見る。
起きている時も、眠っている時も、動いている時も、止まっている時も、
その指に収まっている指輪を見ているのが、大好き。
私のことが好きだって…24時間絶えず教えてくれているような気がするの。
言葉もたくさんもらっているけれど、私と敦賀さんの間にある絆…
その存在を確かに証明しているみたいで、言葉とは別の次元で嬉しい。
角度によってはキラキラ光って眩しくて、小さな存在なのに強く印象を残してくれる。
私にも。
そしてきっと…他の人たちにも。
「なに…どうしたの?」
見ている私に気づいた敦賀さんが、嬉しそうな顔で私を抱き寄せる。
そのまま頬にそっと手が添えられて、顔が近づいてきたからから、
あ…と思ったけど、唇は敦賀さんのそれに触れながら
その手に自分の手を重ねてみた。しばらく、敦賀さんのしたいようにキスを続ける。
手が重なったところから感じる温かさと、敦賀さんの肌の感触。
それから柔らかい唇。いろんなところが敦賀さんに触れているけれど、
今は一番、手が繋がっていることに意識がいってる。
こういう風に重なると、左手と右手なのよね。敦賀さんの手と、私の手。
私の右の頬に触れる敦賀さんの手を、上から私の手が包む。
もちろん敦賀さんの手を包めるほど私の手は大きくはないけれど、
こうすれば、私の右手で敦賀さんの左手の指輪まで確認できる。
さっきから指輪のことを考えていたせいなのか、
なんだかそれを狙ってたみたいになって、今になって少し気恥ずかしい。
だけど、嬉しいな。
「どこから見られてたんだろう…恥ずかしいな」
「何言ってるの…」
唇が離れて、敦賀さんがそんなことを言うから思わず笑ってしまった。
それから、さっきまでやってたことを放り投げて、真剣に私の方を向く。
ああ…ヘンなスイッチ押しちゃったかも、しれない。
でも、こうでもしないと敦賀さんの指輪に触れないんだもの。
並んで手をつなぐと、右手と左手。こうしてても自然に重なるのは、右手と左手。
向かい合って手をつないでも同じだし、
だからといって触らせて欲しいとお願いするのもちょっと違う気がするし。
今日のこれは何となく、私の中の問題というか…ミッションというか、
ひとりでこっそり試してみたい、そんな気分。
*
真夜中のベッドの上。
ふと目を覚ますと、敦賀さんの寝息が後ろから聞こえてる。
さっきまでは確か敦賀さんの方を向いていたと思うんだけど、きっと私が寝返りを打ったのね。
そのあとは敦賀さんと同じ向きで眠ってたみたい。
どちらを向いていても、隣で感じるあたたかさは変わらない。
…もうちょっと、敦賀さんの近くに行ってみようかな。
そう思って少し後ろ側に下がった瞬間、敦賀さんの腕が私の身体を覆うように伸びてきた。
身体も少しかぶさる感じ。
びっくりしたけれど、起きてるわけではないのよね?
すぅすぅ言ってるもの。
でもこれでかなり近くなったかな。
感じるあたたかさがより大きくなって、寝息も本当にすぐそこから聞こえる。
こんな風に夜中に目が覚めると、少し得をした気分。
隣に敦賀さんがいて、彼は眠ってて、まだ起きるまでに時間があると思うと嬉しい。
眠っている時間はあっという間に過ぎてしまうから、
やっぱりちゃんとひと晩中、敦賀さんと一緒にいるんだってことが確認できるというか。
とはいっても、明日もいつも通りお仕事だもんね。
存分に敦賀さんを堪能したことだし、私もまた眠ろうっと。
そう思って目を閉じる前に、何気なく敦賀さんの腕を眺めると、ふと気づいた。
私の目の前にあるのは左手。左手だ…指輪、はまってる。
ひとりでこっそりテンションが上がってきた。
敦賀さんの腕に自分の手を絡ませて、その左手の上に自分の左手を乗せてみた。
そうなのね、こうすれば…左手同士が近くなれる。
顔は見えないけれど、そのぶん手から伝わってくる「敦賀さん」で満たされる。
特別なお揃いなのに、滅多に近づくことのない指輪同士をぴったりくっつけた。
見つめていると、胸がいっぱいになる。
ほんとに、私と敦賀さんって「そういう」関係なんだ。
実感がないわけじゃないのに、こんな瞬間にふと思うと、より深く感じられる。
こんな気持ちのまま、眠ってしまうのがもったいないくらい。
ねえ、敦賀さん。
私、自分の指輪を見るのもすごく、好き。
何気ない瞬間、ふと視界に入るたびに、あなたを想う。
強く想い合える相手がいるっていうことがとても嬉しくて、
その相手がほかの誰でもないあなただっていうことがとても幸せ。
敦賀さんに対しては、いろいろな種類の感情が呼び起こされるけれど、
その感情をたどっていくと、最後にはみーんな「幸せ」っていう解答になる。
だから…こんな風にして私と敦賀さんの指輪が揃っていると…わかるよね。
幸せって言葉じゃ足りないくらい。言葉では追いつかないほどの感情が渦巻く。
ああ…もう少し、見ていたいな。
私と敦賀さんの絆をカタチにしたものが、重なってるところ。
こうやって重ねていたらいつか溶け合って…永遠の絆に、ならないかな…。
2018/01/15 OUT