日付が変わっちゃった。
ある程度予想はしてたけど、それよりもなんだかもう精神的にへとへと。
食事は済ませてきたから、眠る用意をしてベッドへ行けばいいものの…
そっとリビングをのぞくと、電気はついてるけど無人。
これももちろんわかってて…敦賀さんから連絡がきてた。
先に寝るけど、音は気にしなくていいとかそんなこと。ごめんね、ともあった。
謝らなくてもいいのに…敦賀さん、また明日も早朝ロケだもの。
…大丈夫かな。
三日くらい一緒に夕飯を食べてないの。
変なもの食べてたり、絶対的に食物摂取量が足りてなかったり…しないかな。
心配しながら、こっそり荷物を片付ける。
家にいる時間が少ないから洗濯くらいしか家事はないけれど、これは明日やろう。
私、明日は少しゆっくりできるし。
早く眠る準備を終えて、敦賀さんに会いに行かなくちゃ。
ベッドルームのドアを開けたら、敦賀さんが見えた。もちろん静かに夢の中。
なるべく音を立てないようにそーっとベッドへ上がると、微かにきしんで私を受け入れてくれた。
彼の隣に横たわってみる。
顔が近くて…嬉しい。
だって、こうしてまじまじと見るなんて何日ぶりなのかな…。
あぁ…寝顔、かわいいな。何度見てもかわいい。
最近とくに忙しそうで、昨夜は私と敦賀さんが逆。
ひとりで眠りについたのに、朝、目を覚ましたら敦賀さんの腕の中だった。
そして敦賀さんのほうが先に出ていったからろくに会話もしてない。
動いてしゃべってる敦賀さん、あんまり見てない気がする。
テレビでは目にするけど、そういう意味じゃなくて…
私だけに話しかけてくれて、名前を呼んでくれて、微笑みかけてくれて…
つまり「私だけの」敦賀さんが足りない。
今日はおはようと行ってきますのキス、だけ。昨日もそう。
まだ、お互い東京にいてとりあえず家に帰ってくるから、それでよしとしなくちゃダメなんだろうけど…
でも…一緒にいるときはもうちょっと触れあいたいっていうのもあって…うん…やっぱりチューしちゃお。
だってただいまのキス、したいもん。
おやすみのキスもさせてもらおう。
…起こしちゃうかな。
起きちゃったとしても、キスしてただいまとおやすみを言って、ふたりでくっついてすぐ眠ればいいよね。
先に謝っとくね。ごめんね敦賀さん。
そーっと唇を敦賀さんのにくっつけた。
触れたところですぐ離す。
起こしたいわけじゃないから、なるべく起こさないように、とは思いながら。
起きない…よね?
もいっかい。
なんだか楽しくなってきて、5回目くらい、したところで敦賀さんの目がぱちっと開く。
あ…!
「ご、ごめんなさ」
「…どうしたの?おかえり」
や、やだ、やっぱり起きちゃった。
だけど私が慌ててる間、完全に覚醒したらしい敦賀さんが姿勢を変えて、何度も私にキスをする。
何度も唇が触れあううちに、それだけでは済まなさそうな感じになってきた。
さっきの私のキスがお遊戯みたいで。
どうしよう…
「いいの?…キスだけで」
「え…」
「…俺は他のこともしたいな」
キョーコはどう?
最後の言葉はささやくように。
だけど、ささやきさえも大きく聞こえるくらい近いところ。
や、なわけ、ないよ敦賀さん。
だって…しばらく「して」ない…し。
抱かれることが目的ではなかったのに、そのときの幸福感を思い出すと急に自分が「そういう」モードに切り替わる。
大丈夫?
明日に響かない?
そう言おうとして口を開いたら、すぐにそこをふさがれた。
敦賀さんの吐息、よく聞こえる。
今日はいつにも増して敦賀さんとぴったりしてたな。
心までおなかいっぱいっていうか、触れて触れられて、ってすごくリラクゼーション効果があるんだって実感した。
疲れないわけじゃないけど、心が満たされると、それがきっと身体に還元されるんだと思うの。
「…大丈夫?」
「ん、大丈夫」
「キョーコ」
「なぁに?」
ありがとう、と唇が動く。
なんだろ…ありがとうって…。
「起こしてくれてありがとう…今日はちゃんと会いたくて…起きてようと思ってたんだよ」
あ、そういうことなのね。
明日も早いあなたのためにはよくなかったかなぁって…思ってるんだけど。私も会えて嬉しいな。
「…起こさないように、とは思ってたの」
「いつの間にか眠ってたんだね」
うん。眠ってるあなたもすごくかわいくて…それをじっくり見れたのはよかったなって。
「…明日も早いんだよね?」
「そうだね」
「寝不足にしちゃってごめんなさい」
そんなことないよ、と敦賀さんが笑う。
「大丈夫…今のでかなり充電できたし、今夜は…よく眠れそうだよ」
…ふふ、敦賀さん、私とだいたい同じこと、思ってる。
ニマニマしてたら、おでこにキスをもらった。
離れていく敦賀さんの極上の笑顔に、とろけてしまいそう。
眠りにつく前、その日の最後の記憶が敦賀さんの笑顔と言葉。
結婚してからはそんなに珍しいものでもなくなったけれど、
こんなとき改めて、それが何物にも代えがたい贅沢なものなんだって実感する。
あって当たり前なことにしたくない、日常にある贅沢な瞬間。
敦賀さんといるとそういえるものがいっぱいになるから、うっかり慣れてしまいそうになるんだけどね…。
そんなことを思いながら隣を見ると、敦賀さんとまた目が合う。
ふたりで笑いあって、もういちど、唇をくっつけた。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
おやすみなさい…敦賀さん。夢でも会いたいな。
2019.03.31 OUT