PERFECT MEDICINE -REN

From -MARRIED

繋がっていたいと思う。そういう気持ちは、
彼女のことを好き…な気持ちからくるんだと思ってた。
好き、愛おしいという想いが心と身体を動かす。
彼女に触れたり、抱きしめたり、唇を重ねたり。
好きだから、触れたい。
好きだから、抱きしめたい。
キスをして…身体ごと繋がりたい。

だけど、どうやらそれだけじゃあ、ないみたいだ。
つまり、俺の彼女に対する行動の原動力は、想う気持ち「だけ」ではないということ。
に、この間、気づいた。
気づいた、というよりも、思い知ったというほうが正しいのかもしれないけれど。

…何が言いたいんだろう。

「敦賀さん?」

考えてももしかしたら明確な答えはでないであろうことに、
思いを巡らせていたからだろうか。
すぐ近くで俺を呼ぶ声が耳に入って、我に返る。

「うん」
「難しい顔、してる…悩み事、ですか?」
「ううん…違うよ、大したことじゃない」

一言で言ってしまえば多分簡単なこと、なんだろう。
彼女と一緒にいる時には、極力そんな風に彼女に心配をかけるようなことは
しないようにしているつもりだけど…今日は少し気持ちに余裕があるというか、
そういうことをあれこれと考えたくなるような、そんな精神状態なんだろうか。

明日は、ふたり揃って久しぶりにゆっくりできる日だから、なんとなく俺も彼女も
気持ちがふわふわしているんだと思う。
俺の方は帰宅時間がかなり遅くなったけれど、彼女もまだ起きていて、
高揚した空気がただよう中で、どちらからともなく、抱き合う形になっていった。
今、その嵐から抜け出した静寂の中で、彼女の感触をただ楽しんでいる、
そんな雰囲気の、真夜中。

「忙しそうだったから…心配、してたの」
「そう、だね…その割には明日丸々休めて、ちょっと意外だったよ」
「オフ、合わせられたの、奇跡みたい…嬉しいな」
「うん…明日、何しようか?」

そんな俺の言葉を受けて、彼女は「敦賀さんのしたいこと、何でも言ってね」と
照れくさそうにはにかむから、嬉しいやら可愛いやらで…また、したくなってくるから困る。
一日中、君を抱いていたい、なんて言ったらどんな顔をするだろうか。
…半ば真剣にそんなことを考えてる。

キスしたいとか、触れたいとか、彼女相手にそんなことを望むとき、
愛情と一緒に、本能の部分も大きく関わっているんだろうと思っていた。
だけど例えばこんな時に、彼女を抱いたら…さっき実際にそうしたんだけど、
身体よりも先に、心が満たされていく感覚を覚えた。
…それはもう、俺はとっくに知ってるはずで。
実際に彼女とそう、するだけじゃなくて、ただもう手を繋いでも、
抱きしめても、もしかしたら彼女をひと目見ただけでも、そうなってる自信はある。

そうして実際に彼女に触れた時に、何よりも先に来るのは、実は安心感だったんだ。
感情や性欲よりももっと奥深いところで、驚くほど単純に。

「敦賀さん…」
「ん…?」

彼女に呼ばれて、もう一度、目線を合わせた。
ややあってから、ゆっくりと彼女が俺に手を伸ばし、その指が俺の頬をそっと撫でる。
指を掴んで口づけたら、彼女が一瞬驚き、恥ずかしそうに目を閉じる。
なんだろう…もう一度、したい、のかな。
でもあえて、口には出さないで少しずつ伺いながら進めてみることにした。

外に出ると、思うようにはいかないことも多い。
求められていることに応じて形を作っていくのが基本だし、
いつも相手のあることだから、それに合わせて足したり引いたり。
フラットであることは、むしろ少ないんだ。
もちろん、この世界で…この世界でなくとも、そもそも人の中で生きていくということは
そういうことなのだと理解しているし、それは俺にとって耐えられないほどのことではない。
折り合いの付け方だってわかるし、上手くやれてるつもりだと思う。

でも。
こうして彼女とふたりきりでいると、実は普段の生活が少しはストレスになっていることもよくわかる。
帰宅して、可能な限りまず彼女を抱きしめると、腕は彼女のことをぎゅっとつかまえているのに
心はすうっと解放されていく。
取り繕う必要のないところへ帰ってきたんだと、ほっとする。
こうして、いつも何度も彼女を抱いて、身体はもしかしたら疲労しているのかもしれないけど、
精神的には驚くほどリフレッシュされる。
生活の中で忙しく振れる感情のざわつきや、自分でも気づかない心の澱まで取れていくようで…
性欲が満たされるから、なんていう単純な言葉では片づけられない。
ありのままの自分でいることが許される、ということの喜びが…じわじわと俺を支配していく。
それを…何度でも味わいたくて。

君のことを利用しているんじゃ、ないんだよ。
隣にいること。触れること。
そして…俺の中のあふれるくらいの想いをぶつけること。
そのすべて、言ってみれば何もかも無条件に、俺という存在がただ、許されているということ。
世の中にこれほど…揺るぎない安心感を得られることが、あるだろうか。
それに、俺を受け入れてくれているということは、彼女だって…それを望んでいるからなんだと思える。
これが幸せじゃなかったら…なんだというんだ。

「もう、いれて…いい…?」

利用しているとは思わない。でもある意味、依存しているのかもしれない。
それくらい俺は、君なしじゃもう、いられないと思う。
そばにいてくれないと社会的な生活もままならないなんて。
言葉にしたら君はきっと恐縮してしまうだろう。もしかしたら逆に怒ったりするだろうか。
とにかく、下手な言い方で混乱させてしまうのは本意ではないし、
はっきりと言葉にしてしまうと、
ただそれだけの意味で終わってしまいそうで、それも嫌だ。

君とのことについていろいろ考えると、いくら考えたところで突き詰めれば同じことなのに…
日々新たな想いが生まれて、大きく育っていく。
だからキョーコ。それを、君の負担にならないよう、小出しにしていくから
それも含めての俺、なんだと、大目に見ていて欲しい。

「あ、あぁあ…ん…も…うっ…」

身体を揺すりながら、そんなことをぐるぐると考えていたけれど…
あぁもう、ごめん、キョーコ。
どうすれば…君に追いつけるのかな…
君がくれる以上の喜びを君に、あげたいと…思うのに。
あとどれくらいあるんだろう…この想いに、言葉が追いつくまで。


2017/10/13 OUT
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