秋の体温 -KYOKO

From -MARRIED

少しずつ空気が乾いてきて、ひんやりとする日も増えた。
空が高くなって…夜景も澄んできて…季節が変わりゆく、そのちょうど狭間。
明日は少し冷え込むみたいだし、そろそろ季節に合う服も真剣に考えなくちゃいけない、
と、思いながらクローゼットに来て悩むことしばし。

なんといってもこの時期はすっごく難しい。
冬、ではないから寒暖差があって、着こんでしまうと裏目に出たりするし。
インナーを薄手にしたら、羽織ったものを脱ぐと寒くなったり。
…かといってそもそもそんなにバリエーションがあるわけでもないのが悲しい。
センスもそんなにないし…なぁ…。

「うーん…」
手持ちの駒を眺めながら、何分過ぎていったかわからない。
冬まであと少しなんだけどな…かといって今から真冬仕様のアウターだと浮きそう。
それ以前に多分、暑すぎると思うの。
脱いだら寒くて、結果風邪を引いても困っちゃう。
この季節に着てる服…他にどんなのがあったっけ…?
手も乾燥してきたけどまだ手袋するほどではないし…。
首元は何か巻いてみてもいいけど…あ、そうだ。
敦賀さん、は、何着てたっけ?今日。
えーと…とりあえず彼のワードローブを改めて…見てみようかな。
なんたって職業柄、私よりもぜんぜんセンスがある(と私は思ってる)し。

「それはさすがに大きいんじゃないかな?」
「あ」
「なかなか戻ってこないから」
共用のクローゼット、敦賀さんのスペースを引っ掻き回していたら、背後から声がした。
ち、ちがうの。私が着るんじゃなくて。
「服を見てたの」
「俺の?」
「うん、どんなの着てたかなって思って」
「そっか」
心配したよ、と笑いながら敦賀さんが私を抱きしめる。
あー…あったかい。
さっきからこのルームウェア、なんとなく寒いかも、って思ってたの。
お部屋も基本はまだ暑すぎず寒すぎず、な空気ではあるけれど、でもここは少しだけ肌寒い気がして。
だから…薄手のルームウェアだと敦賀さんの体温がよくわかるのかな。
この季節ならでは、なのかもしれない。
本格的に寒くなる前だから、例えば眠ってても、おふとんに敦賀さんの体温がプラスされてちょうどいい、みたいな。
あ…なんでいま、ベッドでのこと考えちゃったんだろう…やだな…欲求不満みたいで。

口には出せない思考を胸に抱えたまま、敦賀さんの腕の中で目を閉じる。
あったかくて…いい香り。
いつもの変わらない敦賀さん、て感じ。
彼の体温を感じるのは私の身体だけれど、それが身体だけではなくて心まであたためてくれるみたい。
触れたり触れられたりするのって、自分が思うよりずっといろんなところに影響してくるんだなぁって実感してる。

季節がこのさき移っていくと、きっと寒い方が先に来てしまうから。
そうしたら、こんな風に敦賀さんの体温をのんびりとは感じていられなくなる。
だからもう少しだけ、こんな柔らかな季節のなかにいたいな、なんて、ぼんやりと思う。
でも…この人と抱き合っていたいのは、どの季節でも同じ…かな。
いつでもこんな風に、ぎゅっとされてたいな。
私も、ぎゅってしてたいな。

2019/11/25 OUT
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