溺れてる -REN

From -LOVERS

「会いたかった…久しぶり」
「うん…っ」

約1ヶ月。
撮影で東京を離れたきりだったから、こうして実物の彼女に触れるのは本当に久しぶりで、
何も変わらない感触が素直に嬉しい。
会いに来てくれた彼女を玄関で迎えたあと、挨拶もそこそこに腕に閉じ込めてじっくりと確かめる。
体温とか、呼吸とか…匂いとか。
とにかく同じ場所にいることの幸福が、身体中を満たしていく。
会えなくて恋しく感じる期間が次第に短くなっていってるようで、
さすがに1ヶ月近くまったく触れられないのはキツかった。
情けない話だけど。

「何度も夢に出てきたよ…よっぽど帰ろうかって」
「そうなんだ…」

俺と彼女の回りにただよう空気を吸い込んで、嗅覚を通じてダイレクトに自分の脳を納得させた。
彼女の香り。
ほら…ちゃんとそこにいるだろ?
画面越しの彼女だってそのときはちゃんと堪能してたけれど、何たって「本物」には敵わない。
とりあえずキスをして…それから。

「…ただいま」
「おかえりなさい」

唇と身体を少し離してそう呟くと、上目遣いで俺を見つめた一瞬の後、満開の花があたりに飛び散るように彼女が笑う。
いや…俺の目には少なくとも花が四方八方に飛んでいた。
あぁもう、本当に可愛い。
可愛いと思った瞬間、反射的にもう一度ぎゅっと抱きしめていた。
よかった、こういう関係で。
だいたい思ったように行動できる間柄でいられて…よかった。
そうじゃなければいつか、犯罪と呼ばれるような行為に及んでしまっていたかもしれないな…。
物騒なことをのんびりと思いながら、今ならこういう行為も犯罪と呼ばなくてすむことの幸せを噛みしめる。
触れることも、キスをねだることも、彼女の「奥」へたどり着くことだって…なんだって。

*

どうやってこの展開まで持ってきたかはもうわからない。
我に帰ったらベッドの上で、服があたりに散らばっていて…
同じように何も纏わない彼女の身体が目の前で、自分の方はとっくに準備ができていて。
あちこちを唇でなぞると、そのたびに彼女が小さく声をあげる。
伝わる肌の感触が、彼女の存在を俺に物理的にも教えてくれているみたいで
それを何度も確かめたくて、何度も何度も触れる。

声が少しずつ大きくなるのと同じくして、声を殺すように手の甲を唇に押し当てているのが見えた。
…帰ってきていきなりだったから、彼女のほうは本当はそんなつもりじゃなかったのかもしれない。
とにかく…自分がまずもう触れたくて、止められなくて…
でも、無理強いだけはさせたくないといつもは思っているはずなのに。

「んん…」
「イヤだった…?」

動きを止めて、そう問いかけた。自分も呼吸が少し荒い。
イヤだと言われても止められないし、もしほんとにそう言われたら全身で立ち直れないだろうけど、
君はきっと、そうじゃない、イヤじゃないって言ってくれるはずだという根拠のない自信だけはある、か、ら。
ああ、もうそこまでしか、考えられない。

「ん…イヤじゃない、って思っちゃうのが、ちょっと…っイヤなだけなのっ…恥ずかしいから…」
「…うん」
「だから…イヤじゃない、から、ね?」

頬を紅潮させて途切れ途切れに口を開く様子が…たまらない。
俺、いま多分すごく顔が緩んでると思う。
つまり、俺とこうするのはイヤじゃなくて、どっちかといえば多分好きなほうで、
その行為に対してそんな風に「好きかも」と思う自分が少しだけ、恥ずかしい、ってこと。
なんてかわいくて君らしい表現で…俺の予想のはるか上を行ってくれる。
そんな風に冷静に分析しながら、でももう身体が限界だ。

「…わかってるよ…もいっかい動くね」
「っ…や、あ、あっ」
「キョーコ…」
「あ、ん…っ…あ、あぁ、や、だ」
「…気持ちいい?」
「は、あ、あぁ…やっ…ん、あっ、そこだめぇ…あぁああ…っ」
「ここ…すきなんだ?」
「んあ、あんっ、も…つるがさ…っあ─」

ほどなく、彼女が大きく身体を震わせて、達した様子を見せた。
瞬間、引っ張られるようにして自分も駆け上がっていく。
ごめんね、少しだけタイミング、合わなくて。
ベッドにもう一度彼女を寝かせて、身体ごと覆いかぶさると、その唇にかみついた。
すごく気持ち良さそうだね、キョーコ…俺もそこへ連れていって。
唇をつなげたまま追い付きたくて身体を揺する。
何度めかの大きなストロークのあと、締め付けられるままに彼女の最奧へ意識を飛ばした。
頭がクラクラする─やばい、気持ちよすぎて……

静かな部屋にふたり分の荒い吐息だけが響く。
彼女の余韻が、ゆるやかではあるけれどまた俺を誘っているような気がして、その微かな感触に少し身震いしてしまう。
多分…また…そうなると思うんだけど。
何度こうしても、最後は余裕がなくて…自分のペースで強引に付き合わせてしまっているのが心苦しい。
君からしたら慣れてるように見えるかもしれないけど、いつもいっぱいいっぱいで、必死。
どっぷり甘えてる。君なら受け入れてくれるはずだって…勝手に思い込んでるよ。
君にとってはきっと迷惑な話なのかもしれない…でも。
ダメなんだ…もう、君じゃなきゃ。君とじゃなきゃこんなことしたいと思わないんだよ…。

「ん…へいき…大丈夫」

ごめんね、と呟きながら彼女の額や頬へキスをしていると、それに応えてくれたのか、彼女が口を開く。

「うれしい…」
「ん?」
「すごく…気持ち良さそうだったから」
「俺?」
「うん…」

そうか…そんな風に、見えるんだ。俺が君を見てるのと同じくらい、君もそういう風に俺を…見てるんだね…。

「気持ちよかったよ…よすぎておかしくなりそうだった…」
「よかった…」
「キョーコとしててよくなかったことなんて、ないよ…」
「ん…うふふ…」

再び顔を近づけて、しばらくじゃれついてみる。全身を通り越して、気持ちがくすぐったい。
こんな時間が一番、ピュアな気持ちに包まれている気がして、なんとも言えない幸福感で満たされる。
彼女との関係では何をしててもそう思うけど、やっぱりこうして直に肌を合わせることは特別。
ハードルが高い分、満足度だって段違いだ。
ね…俺だけかな、気持ちよかったのは。君は…どうだったのかな。
なんて、聞かなくてもわかってるんだけど、でもあえて言ってみて欲しいという、
なんともいえない自己中心的な感情が頭をもたげてきたのをいいことに、そのまま彼女へボールを投げ掛けてみる。

「キョーコはどうだった?」
「う…」
「気持ち、よかった?」

顔を真っ赤にして照れる様子がなんとも言えず、俺の中のあまりよろしくない種類の感情がふつふつと煮えてくる。
過去に何度もこの手の質問をしては彼女を困らせてきた。
でも…わかってるよ、わかってるんだ…全身で俺を感じてくれてて、いつも本当に気持ち良さそうにしてくれてるから…
君を抱きたいと思うのは、そういう君に会いたいからだっていうのも、あるんだよ。
それくらい俺は君に許されてて、そんな君に会う特権が俺だけには与えられてるっていうのを確かめたい、何度でも。
もちろん、ふたりで気持ちよくなりたいっていうのが一番、だけど。

「ん」
「…ん…」

身体をそっと撫でながら、軽くキスを繰り返すと、まだ繋がっている部分が、互いの熱で少しずつ快楽を帯びてくる。
さっきから遠くで静かに揺らめくそれに、手を引かれるようにして、もう一度そこへ行こうと決めた。
ちょっとだけ動くよ、とささやくと、小さくうなずいたと同時に彼女の腕が俺の首に回る。
うん…ありがとう。連れていっていいかな…今度は落ち着いて、あまりがっつかないように気をつけるから。

「ちょっと…待ってね」

動こうとしたら、そんな言葉が聞こえて、すぐに彼女が俺の唇をふさいだ。

「久しぶり、だから…」

繋いだ唇の隙間から舌先をゆっくり何度も絡めて、彼女のペースでのキスにしばらく没頭していく。
もっとキスしたい、ってことなのかな。
俺だってまだまだキスもしたいし、セックスもしたいし、もどかしい。
時間…今日は気にしないでいいけど、なんだかこの感じだと朝までいけそうで…どうしようか。
いいかな…今日はもう離れたくない。眠りに落ちるその時まで…いや、夢の中でも、ずっと君とくっついていたいよ。

「キョーコ…」
「ん…?」
「ごめん、なんか…おさまらなくて」
「うん…」
「まだいいかな、このままで」

唇を離してから、どちらともとれるように曖昧に濁して問いかける。
とりあえず、もう一度、いいかな。
そこからは流れにまかせてみて…いいかな…?

「うん、大丈夫」
「ん…」

まったくもって溺れてる。
自覚はずいぶん前からあるけれど、こうして彼女と過ごす度にどんどん悪化していくような気がして、
さすがに自分でも自分のことが心配になる。
そのうち仕事に支障をきたすようにでもなったら…でも…今は、やっとプライベートで誰にも邪魔されないでこうして彼女を独占できるから…
まぁいいか。もう余計なことは考えないで、思い切り触れさせてもらおう。
君のことで限界までいっぱいになりたい。頭だけでなく、身体も…何もかも。
だから君も、いつも以上に俺のことでいっぱいにさせてあげる。

俺と同じくらい…きっと大変だよ、キョーコ。
でも、溺れてみて?


2019.03.14 OUT
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