冬の恋人 -REN

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*SEASONS OF LOVE2 LOVERS

「風邪引くよ、キョーコ。こんなところにいたんだ」

それは東京に久しぶりに雪が降った日のこと。
俺の部屋で一緒に過ごす約束をしていた彼女がやってきて、
2人で食事を済ませた後、しばらくしてから、彼女の姿が見えなくなった。
広い部屋だから四六時中お互いの動きを把握しているわけではない。
だけど部屋の中だからといっても、彼女が不意にどこかへ行ってしまって
なかなか戻ってこなかったりすると少しだけ心配になる。
過保護だと思われるかもしれない。
実のところ、過保護と言うよりも、俺がただ寂しいだけなんだけど。

そして今日もそんな寂しさに何となく耐えられなくなって
家の中だというのにキョロキョロと彼女を探し回ってしばらくした頃、
ベランダの向こうでひとり楽しそうに雪と戯れている恋人を見つけた。
今日最初に逢った時、雪が降ったと言ってとても嬉しそうにしていたのを思い出す。

雪がどっさりと積もることは滅多にないけれど、
それでも時々世界が白くなるくらいには東京にも雪が降る。
夜の闇と白い雪とのコントラスト。
それから、階下に広がる無数の光がまるで宝石箱の中のようでとても美しい。
そして多分それにすっかり感動しているだろう恋人のことを思って心が温かくなった。
自分の世界に入ってしまっているんだろうけど、それがとても可愛い、なんて。

一途なところも、猪突猛進なところも、それでいてとても女の子らしいところも
乙女趣味なところも、みんなみんな大好きだよ、キョーコ。
誰かのすべてを支配することができないように、君のすべてを自分の思い通りにしたい、なんて思わない。
君の持っている世界ごと、君を愛してる。
その一部を共有できていることは、ちゃんとわかっているから、
そこからときどき君の世界を眺めていられれば、俺はそれだけで十分だよ。
性格も、生まれ育った環境も、何もかもが違うことばかりなのに、
自分以外の誰かをこんなにも大切に思えること、そしてそれが君だったことが、本当に嬉しい。
並んで歩いたり、手を繋いだり、キスをしたり、身体を繋げたり、
何かに対して嬉しそうに駆け寄ったりする君の後姿を見守ったり。
自分に許されている権利を思うと顔が緩んでしまうくらいだ。

雪の中で遊ぶ君を見ているのも楽しいけれど、
やっぱりそれだけじゃ物足りなくて、ベランダへ通じる窓をそっと開けた。
冷たい空気が身体を包み込む。
こんな寒い中を何分も上着も着ないでいられるなんて、本当に夢中だったんだな。

「こんなに冷えて…」

名前を呼んだ後に、そう声をかけてからぎゅっと抱きしめた。
彼女に触れている部分からじわりと温度が上がってくる。
さっき少し離れたところから見ていた彼女が、今は自分の腕の中にいる。

「雪が夜空に…すごく綺麗だなあって、思ったんです」

俺よりも身長が低い彼女のことを見下ろすと、そう呟くのが聞こえた。
うん、わかってるよ。
君は気づいてないだろうけれど、しばらく見てたんだ。
景色に感動してるんだろうなあって、何だかそれを見てる俺の方が嬉しかった。
何かに夢中な君の姿を眺めていられるのも、
そんな君を捕まえて自分の腕の中に閉じ込められるのも、俺だけの特権。なんて。

「髪も冷たいよ、ほら、中入ろう。それとも、もう少しここにいる?」

ここにいたいなら、コートとあったかい飲み物でも持ってくるよ、と続けたら
彼女はふるふると首を振った。
そのまま様子を見ていると、俺の方を見上げて、あっためてくれますか?、と呟く。
ストレートな言い方に少しビックリしたけれど、
それも、雪にうっとりしていた、その延長なのかなと思えば彼女らしい。
普段の君ならそんなこと、滅多に言わないのにね。

もちろん、あっためてあげるよ。
こうして抱きしめるだけで足りなければ、お風呂か…それともベッドか。
君の好きなほうでいい、なんて言ってみたりして。
ああ、でもどっちも俺が好きな方、なのかもしれないな。
2人でお風呂に入って…それからベッドへ行こう?
君を包む冷たさが消えてなくなるくらいいっぱい、あっためてあげる。

「お風呂にしようか?それとも…ベッドがいい?」

彼女の答えを聞く前に、その身体を抱き上げた。
自分がどんなことを口走ったのか、今頃気付いた彼女が慌てているようだけど、
気にも留めないでバスルームへと歩き出す。

君に触れていたいとか、身体を繋げていたいとか、そういうストレートな欲求もだけど、
空気が冷たい季節になってからは、その体温に触れていたいと強く思う。
君という存在がいつもそばにいてくれること、そのぬくもりを確かめたい。

冬と俺と君を繋げていうならば、きっとそんな季節だ。
もちろん、いつだって君に触れていたいという気持ちは変わらないけれど、
周りの冷たい空気が、君の存在をより強く俺に伝えてくれる、そんな気がする。

だから今日も、隙間なく君に触れていたい。
いいだろう?


2007/12/30 OUT
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