朝の恋人 -KYOKO

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*SEASONS OF LOVE2 LOVERS

いつもと同じような時間に起きて、いつもと同じような時間に用意をする。
軽くシャワーを浴びてから着替えて、身支度を整えてから簡単に食事の準備。
その合間に、洗濯物を畳んだり、家事みたいなことをちょっとだけしてみたり。

お部屋の中には早い朝独特の、少し冷たくて透明な空気。
そんな空気が、また今日も1日がんばろう、って思わせてくれる。
うん、今日もお仕事がんばらなくちゃ。

「まだかな…敦賀さん…早く帰ってこないと先に食べちゃうんだからね」

朝食を2人分並べてから、こっそり呟いた。
そう。
今日は朝起きてからずっと1人だったの。でも、ここは敦賀さんのお部屋。
昨夜ここに来たときから、ずーっと私1人で過ごしてた。
逢う約束をしてて、私は時間通りに来たんだけど、
敦賀さんはロケ先での撮影がすっごくズレ込んでしまったせいで、朝にならないと帰れないってことになっちゃったの。
今でも、電話越しの声を思い出したら笑っちゃいそう。
すごく沈んでるっていうか…トーンが低くて、思わず私の方が宥めるくらい。
私だって、すごく逢いたかったのよ、敦賀さん。
だけど、お仕事なら仕方ないし…私だってそうなっちゃうことが何度もあったし。
あ、でもそれもやっぱり敦賀さんの方が多いかな。
他の理由で約束を破ったっていうわけじゃないから…私は大丈夫。
それに、そうやって少し寂しそうに拗ねる敦賀さんも、ちょっぴり可愛い。
だって…敦賀さんだって私と同じくらい逢いたいって思ってくれてるってことでしょう?
社さんにワガママ言ったりしないでね、って釘を刺しておいたの。

愛する人の帰りを待つって不思議。
逢えた時のことを考えてドキドキしたり、早く姿を見たくてそわそわしたり、
無事に帰って来てくれるかな、って心配したり。
複雑な気持ちが絡み合って、とても説明しにくいものになる。
そしてやっぱり、敦賀さんをそんな風に待つことができるのが、一番嬉しい。
大切な人が自分のところに来てくれるのを、想いながら、心配しながら待てる。
それだけは他の誰にもできないでしょう?
敦賀さんを「好き」な人はたくさんいるけど、でも、私が「世界で一番好き」なの。
そうやってうぬぼれてもいいよね。その気持ちは、誰にも負けない。

ん…早く逢いたいな。
顔を合わせたら、きっと敦賀さんが申し訳なさそうな顔をして「ごめんね」って言うから
大丈夫です、って…言う暇もなく、キスをねだってしまいそう。
そっか…私も敦賀さんと同じくらい、ほんとはがっかりしてたのよね…。
逢うこと自体が、すごくひさしぶり、だったんだもの。

お皿を並べ終わって、だけどやっぱり落ち着かなくてリビングとキッチンを行ったり来たりしてたら
やっと待ちわびたチャイムが鳴った。
玄関に走って行ったら見えたのは…あぁ良かった…敦賀さん。

「おかえりなさい…っ」
「あー…キョーコだ…いてくれた」

敦賀さんの言葉に思わず笑ってしまう。
待ってないと思ったの?
もう…自分だけが寂しかったなんて思ってないわよね?

「約束したんだもん、ちゃんといます…昨夜は1人で寂しかったんですからね?」
「俺もだよ…」

ちょっとだけ照れくさいけれど、そうやって敦賀さんの顔を覗き込んだら
敦賀さんが微笑む。
同時に抱きすくめられてから、キスさせて、という声にならない声が聞こえた。
返事をする前に唇を塞がれる。
最近、こんなパターンが多いな、と思いながら…
だけど触れてる敦賀さんの唇が熱くて、それが身体の奥をゆっくりと溶かしていくような気がして
私は次第に自分を保っていられなくなりそうに、なる。
ああもうダメ…これから出かけなきゃいけないっていうのに。

「ん…」
「…もう出かける?」
「あ、朝ごはん…食べて行こうかなって…」
「一緒に食べるよ」
「いいの?」
「うん」

2人で手を繋いでリビングに向かう。
敦賀さんの嬉しそうな顔がなんだか眩しい。
でも私も同じくらい嬉しそうな顔してると思う。
朝からこんなにメロメロで大丈夫かな私…繋いだ手もいつもより熱い気がするの。

「ん?」
「…なんでもないです」
「そう?」

答える代わりに、敦賀さんの腕にぎゅっとしがみついた。
ちょっと疲れた感じが色っぽいとか…もう、やだな私…。

*

「じゃあ敦賀さん、私出かけるからね」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「…キスしてくれないの?」

なんとか朝ごはんを食べた後で、ソファに横たわる敦賀さんにそう告げたら
久しぶりにストレートな言葉でキスをせがまれちゃった。
触れるだけのキスをして、顔をゆっくり離してから目に入った敦賀さんの顔。
正直なところ、寝不足の敦賀さんがあんなに可愛いなんて思わなかったわ…。
フェイントもいいところ。
どうしよう、もうしばらく一緒にいたいとか、思っちゃったり。
ダメダメ。
次に敦賀さんに逢うのは…お仕事をがんばったごほうびよね。
敦賀さんだって昨日お仕事がんばってたんだもの。
こうやって、朝に逢えただけでも感謝しなきゃ。
恋人時間もらえて、充電できたわよね。うん。

行ってきます、敦賀さん。
すぐに充電切れちゃいそうだから…また逢いにくるね。


2007/05/01 OUT
Home