何度も目が覚めてしまって、その度に時計を見て苦笑い。
別に眠れないほどの悩みを抱えているわけではなくて…理由は他にあるの。
敦賀さんが、私のお部屋に来るって、それだけで、こんなにドキドキしちゃう。
早く来ないかな、とか、どこに車停めてくるのかな、とか。
多分、夜中だからと思って連絡をしてこないのよね。
それとも…まだ東京に着いてないのかな。無理してなければいいけれど。
ねえ敦賀さん…早く逢いたい、な。
時計は夜中の4時半を回った頃。
観念した私は、ベッドから抜け出した。
敦賀さんと逢っている時と同じくらい、ひとりで彼のことを考えている時が幸せ。
彼のことを密かに想っていた頃は、そんな気持ちの中にも少しあきらめに似た感情が混じっていたけれど、今は違う。
もちろん、この先いつ何が起こるかわからないってことは知ってる。
それもみんなひっくるめて、敦賀さんを好きでいられることが本当に嬉しいの。
好きでいることを許されてる、って感じかな。
私と敦賀さんは恋人同士で、多分お互い一番近いところにいる。
他の人には許されないことが、私だけには許されてるっていうのがたくさんあって、
こうしてお部屋で敦賀さんを待つことができる、っていうのもその中のひとつ。
だから、待っていることも本当に幸せなの。
お湯を用意して、お茶をいれた。それを持ってベッドに戻る。
私のお部屋は敦賀さんのお部屋に比べたら本当にこじんまりしてて、独立したお部屋もふたつだけ。
モノもそんなに多くないし、私1人だったらこれで十分。
敦賀さんと逢う時は、ほとんどが彼のお部屋だし。
だけど、敦賀さんを初めてこのお部屋に招待した時、
彼がすごく嬉しそうだったのが印象的だった。
狭いかなって思ってたんだけど、2人で一緒にいたらそうでもなくて
むしろ敦賀さんのことをずっと見ていられて、私も嬉しかった。
ベッドがセミダブルで、それだけは何だか敦賀さんに悪いなって思ったけど、
ぴったりくっつけばそんなに狭くは感じなかったし、
いつも敦賀さんのお部屋でしていること、
キスとか…セックスしたりとか、そんなことをしてるのが自分のお部屋だってことにすごくドキドキして…
って!
何思い出してるの私っ!
慌てて頭を振って蘇る記憶を振り払おうとしたけど
かえって鮮明に浮かんできてしまう。
別に、嫌な記憶っていうんじゃなくて、ただ恥ずかしいだけ。
でも、敦賀さんとそういうことをする、のが、本当は好き…なんて、ヘンかな。
気持ちいいとか、そんなのを越えたところで、とても安心する。
自分の気持ちがすごくシンプルになっていくの。
普段、敦賀さんのことだけを考えてるっていうわけにはいかない。
お仕事のこともあるし。
それが…ふたりきりでキスをしたりお話をしたり身体を繋げたりすることを経て
純粋な気持ちに帰っていける。
敦賀さんのことが、好きで好きで仕方がない、って改めて気づくの。
関係を公表していないから、余計かな。
隠さなきゃいけない場面が多い分、ふたりでいるとどうしても気持ちがあふれ出してしまう。
それでも、敦賀さんよりは…私の方がちょっと控えめかな。
大好き、って思っててもなかなか言葉にするのが難しいんだもの。
敦賀さんは臆面もなくそういうことをよく口にする。
聞いてる私の方が照れてるくらい。
それが、本当に嬉しいのにね。やっぱりちょっと恥ずかしいかな。
好き、って不思議な言葉。
チョコレートが好き、とか、オレンジジュースが好き、とか
そんな風に使うときには大して意識もしていないくせに
敦賀さんが好き、って、思ってても、口にしようとすると本当に照れちゃう。
でも敦賀さんが、好きって言ってくれる以上にその気持ちを態度で示してくれてるのがわかるから、
言葉で言うだけが「好き」の気持ちの表し方じゃないっていうこともわかったの。
抱きしめあうとか、キスするとか、そういうこと以外にも、
触れるときの力加減とか、交わす言葉の柔らかさとか、眼差しとか。
何気ない会話や仕草の中にある互いを思いやる気持ちすべてが、「好き」に繋がっていく。
時計をもう一度見る。5時過ぎ。
お茶もさっき飲み終わっちゃって、本当に手持ち無沙汰になってしまった。
ひとりで夜中に起きてると、昔はいろんなことを考えていたけれど、
今はほとんど敦賀さんのことを考えてる。
敦賀さんと一緒にいる時…例えば敦賀さんが眠ってる横で私がひとり起きてたりとか、
そんな時も、それから、今日みたいに本当にひとりきりでいる時も。
それくらい…敦賀さんは私の中で大きな存在に、なってる。
一緒にいる時のほうが寂しいっていうことも世の中にはあるけれど、
敦賀さんと恋人になってから、そんな思いをしたことは一度もない。
ふたりいても、ひとりでいても、彼のことを想えば誰よりも幸せ。
私にそんなかけがえのない大切な気持ちをくれたのは、あの人だけなの。
うっすらと夜が明け始めた景色を眺めながら、胸に手を当てた。
そして、もう一度、布団の中にもぐりこむ。
ねえ、敦賀さん。
私が起きてたらきっとあなたは心配するだろうから、眠って待ってるね。
逢えたら真っ先にぎゅっと抱きしめて、キスをして…それから、逢えなかった間のことを聞かせてね。
一緒に2日もお休みなんて、本当に久しぶりだから、とっても楽しみにしてたの。
疲れてるだろうあなたがゆっくり過ごせるように、がんばるから、ね。
おやすみなさい、敦賀さん。
もうすぐ…もうすぐ逢えるよね。
2007/12/31 OUT