お昼寝の恋人 -KYOKO

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*SEASONS OF LOVE2 LOVERS

「お姉様、大丈夫?」

ぼんやりした視界の中、少し遠くにマリアちゃんの声が聞こえる。
以前から約束していた、マリアちゃんのお部屋にお邪魔してのお茶会、
前日の撮影が押してしまったせいで、あまり眠れないまま来てしまった。
それでも職業ゆえ…というより元々の体力が幸いしてか、しばらくは普通にしていられたけれど、
さっき美味しいお茶とケーキを頂いてから、なんだか頭がぐらぐらしだした。
明らかに寝不足の症状だわ…せっかくのご招待なのに…ダメ…

…だけどごめんねマリアちゃん…ちょっと、眠い…かも…

「お姉様っ、こんなところで眠ってはダメよ、ベッドを用意させるからもう少しだけ待って」

んーん、いいの、ここでいいからごめんね、ちょっとだけ…5分だけ、いい…かな…。
そう呟く前に、私はテーブルの上で真っ暗な世界に吸い込まれていった。

*

「ほらほらキョーコ、風邪引くからベッドで眠らなきゃダメだよ」

そう言って私の頭上からいつもの声が降ってくる。
あー…敦賀さん、だ…
敦賀さんのお部屋、部屋主を待ってて眠り込んでしまった私を
そう言って敦賀さんはひょいっと抱えあげてベッドルームまで運んでくれるの。
あぁ、また眠っちゃったんだ私、っていう気持ちと、
敦賀さんに抱きかかえられてるのが嬉しいっていう気持ちが混ざって、
本当はこうやってお姫様抱っこされたくて眠っちゃうんじゃないか、とまで思ってしまう。
きっと、お願いしたらいつだってやってくれると思うんだけどね。

私、また眠っちゃったのね。敦賀さん。
ごめんなさい。でもどうしても逢いたかったから…。
そう言う私に敦賀さんは優しく微笑んでからキスをしてくれた。
額にひとつ。それからほっぺにも。
大きな手が頭をするするとなでて、うっとりしてしまうほど優しい動きに
私はまた目を閉じてしまう。
敦賀さんの手を握ったまま…。

疲れて帰って来て、お風呂にも入りたいはずなのにね。
ごめんね敦賀さんもうちょっとだけ…。
もう少ししたらコーヒー入れてくるから一緒に飲んでくれる?
お仕事のお話も、教えてね…。

って。
私、マリアちゃんと遊んでた…わよね?
それも、夜じゃなかったし。まだ明るくて…。
そういえば、ベッド、敦賀さんの部屋で眠るのよりも狭い気がする。
だって手をぐーっと伸ばしたらベッドの端に辿り着いちゃうもの。
でも…反対の手を握ってくれてるのは、敦賀さん、だよね。
どう、なってるんだろう…?

「おはよう、目、覚めた?」

自分の置かれてる環境の矛盾に悩むことしばし、
目を開けた私のすぐ隣には、やっぱり敦賀さんがいて、いつものように笑ってた。

「おはよ…ございます…って!敦賀さん?」
「そうだよ」
「あれ、ここ…」
「ゲストルームだって。マリアちゃんが用意してくれたんだよ」

あぁ…そっか…。それでベッドがいつもと違ったんだ。
でも、私、確かマリアちゃんのお部屋で眠りこけちゃってた気がするんだけど…
そこまで考えて、やっと私の頭は結論を見出した。
さっきの夢。敦賀さんが…ここまで私を運んでくれたのね。

「敦賀さん、お仕事…」
「早く済んだ。というか、トラブル発生で、今日はお休み、かな」
「と、トラブル?いいんですか?こんなとこにいて」
「うん、俺が現場にいたところでどうしようもないんだ。みんな、お開きになったから」
「そうですか…」

良かった、と言いかけて口をつぐむ。
ここのところ夜も少ししか逢えなくてちょっぴり寂しかったから、
思いがけずにもらった敦賀さんの時間に、良かった、なんて。
仕事が予定通りいかなくて大変だったはずなのに。
だけどそんな私の心を見透かしたかのように敦賀さんがふっと微笑みながら続けた。

「マリアちゃん、2時間くらいしたら起こしてくれるって」
「え?」
「心配してたよ。疲れてるのにムリヤリ自分が呼び出したって」
「そ、そうじゃないんです。私もすっごく楽しみにしてて…なのに」
「だから、しっかり眠って欲しい、って」
「そうなの…」
「せっかくだから、2人で少し昼寝、しようか」

唐突な提案。頭の回転がついていかない私を、敦賀さんがぎゅっと抱きしめた。
マリアちゃんの優しさに心があったかくなって、それから…

「お、昼寝…?」
「うん。君もまだ眠そうだから、ゆっくり眠りなさい」
「敦賀さん…も?」
「つきあうよ」

すぐそばにある彼の顔を見上げた私のおでこに、敦賀さんがもう一度キスをした。
まるで、2人きりで…そういうことををした後みたいに距離が近くて、
ここが敦賀さんのお部屋じゃないってこともあいまって、いつもよりもドキドキしてしまう。

「その間…こうしててもいいかな」
「はい」

私がそう答えると、敦賀さんが照れくさそうに笑う。
そしてその続きが、私の耳にだけ聞こえるような小さな声で届けられた。

キョーコが足りなくて、干からびてしまいそうだったよ。

そんな言葉に、私も顔が真っ赤になりながらも、つられて微笑む。
同じこと、思ってたんだ、私も敦賀さんも。嬉しいな。
ふいに神様がくれたお昼寝の時間。
私も、敦賀さんが足りなくて干からびちゃうかと思ってたの。
だから、私にも「敦賀さん」を、いっぱい、充電させてね。


2007/03/01
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