テレビ局がアウェイなら、ここはホームということになるのかしら。
確かにここに来ると落ち着くし、見知った顔もたくさんいるからなんとなく嬉しい。
それに…ここは敦賀さんと私をつなぐもうひとつの大切な絆。
ここがなければ始まってもいなかったんだろうな、と思うと、感慨深い。
社長さんにも入ったときからずーっとお世話になりっぱなしだし、
敦賀さんとお付き合いを始めてからはもっとだし。
「キョーコちゃん!」
何とはなしに歩いていたら、聞きなれた声が私を呼び止めた。
敦賀さんのことを一瞬でも考えたから、だとは思わないけど
なんだかすごい偶然。
この人が…社さんがここにいるのなら、多分…。
「こんにちはっ、社さん、事務所に用事ですか?」
「ああ、うん、そうなんだ。俺だけちょっとね。だから…」
挨拶もそこそこに社さんの声がひそひそモードになって
社さんに手招きされるままに、私と社さんは隅っこのほうへ移動する。
こういう会話はもう慣れてはいるんだけど、さすがに事務所でも
普通の声量でするのはちょっとマズイ。
でも、誰も怪しまないとは思うのよね。
私と社さんが話をするのだって今に始まったことじゃないから、
今更どうってこともないし。
「今用事があるのは俺なんだけど、もうちょっとかかりそうなんだ、それでね」
「はい」
「あいつ、どこかで時間潰してるはずだから、もしキョーコちゃんさえ良かったら…」
「あ、ありがとうございます…いつもすみません」
「ううん、俺のほうこそありがとう」
お礼を言うのはこっちのほうなんだけど…とりあえず社さんと別れて歩き出す。
気を使わせてしまって申し訳なくなりながら、それでも不謹慎にも顔がちょっと緩んじゃう。
敦賀さんがどこかにいるんだ、と思ったらなんだかドキドキする。
どこにいるのかな。
人気のない…上の方かな。
なんとなくアタリをつけて歩きながら、人が少なくなるのを見て、携帯電話を取り出した。
「敦賀さん?どこですか?今、事務所なんですけど」
2010/01/10 OUT