「つーるがさんっ!」
「わあっ」
突然声をかけられて、集中して台本を読んでいた俺は、
思わずすっとんきょうな声を上げた。
声音で…というか、俺の部屋でこういうことをするのは1人しかいないから
予想はすぐについたんだけど、とりあえず振り向いてみると、予想通り
彼女が少しだけ驚いた様子で立っていた。
「ご、ごめんなさいっ、そんなに驚くなんて思わなくて」
「や、いいんだ、ちょっとびっくりしただけ…いらっしゃい」
「台本、ですか?」
「うん、もうすぐ始まるドラマのね」
彼女の手を引いて、ソファに座っていた俺の膝の上に誘導する。
立ったまま交わすそれよりも少し長くて甘さを帯びたキスを終えた後、
開いていた台本を閉じようとしたら彼女が笑ってそれを制止した。
「読んでてください」
「いや、でも」
「お茶いれてきます。そしたら私もちょっとだけ台本読もうかな、って」
なんとなく彼女の意図が読めた気がして嬉しくなった。
例えば同じ部屋にいて別々のことをしていたとしても、
彼女の気配やぬくもりを感じていられれば、それだけで十分に幸せだ。
2人で過ごすことが特別であって特別じゃない。
それがいつか、特別だけど自然になる日が来てくれたら、
やっぱり今日と同じように、こうして2人リビングで台本を読んだりしているんだろう。
互いの気配をすぐ近くに感じながら。
…本当にそうなってくれたら、いいのにな。
2009/05/07 OUT