キッチン -REN

From -PatiPati's Thanks TEXTS

玄関に入ると、綺麗なパンプスが揃えてあった。
浮き足立つ気持ちが抑えられなくて、そわそわと靴を脱ぐ。
もしかしたら迎えに出てきてくれるかもと思いながら廊下を歩いて、
リビングに入っても姿がなかった。
少しあたりを見回すと、見慣れたカバンが視界に入って思わず顔がほころぶ。
その時、キッチンから物音が聞こえてきた。
そうか、食事の用意をしてるんだ。

「ただいま」

半ばのしかかるように、だけどつとめて静かに恋人の身体を包んだ。
俺の身体にすっぽりと収まってくれるサイズの彼女のぬくもりが、とても優しい。
気づかなかったことを慌ててあやまる彼女を制して、ぎゅうっと抱きしめる。
彼女が俺に気づかなければ、俺の方から行けばいいんだし、
何より、そこに…手の届くところにいてくれるだけで、幸せだ。

「はい?」
「好きな時に…こういうことができるって幸せだな、って」

触れたいと…抱きしめたいと思った時にそれができるのは、
何より、俺がそうすることを許されていることに他ならない。
誰より彼女のことを想いながら、それがままならない頃に比べたら、
どれほどの幸福を俺は手に入れたんだろう。
命をかけてもいいくらいの、幸せを。

「キスしてもいいかな」
「…はい」

彼女が頬をそめてはにかむのを目に焼き付けてから視界を遮り、唇に触れた。
キッチンでもどこでも大丈夫。君に逢いにいくよ。


2009/03/03 OUT
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