エントランス -REN

From -PatiPati's Thanks TEXTS

大きく息を吸い込んで、足りなかったものを埋めていく。
帰ってきてから慌しく過ぎていった時間がやっと一息ついたという感じで、
身体の力がすうっと抜けるのがわかった。
ただ、ここは慣れた場所とはいえ、一応は公共の場所なわけだけど。

「もうすぐお部屋なのに…」

腕の中で大人しくしてくれている彼女の抗議のような声も、音色が優しすぎて
逆の意味にも取れてしまう。
うん、わかってるよ。でも、今、こうしていたくて。
だって。

「やっと2人きりになれたんだよ?」

逢えばすぐにでも抱きしめたりキスしたり、そういうことをしたくなるのに、
本当に2人になれるまで、今日は時間がかかりすぎたよな…なんて。
それにしても俺はしばらく彼女に逢わないでいると、
妙に身体に力が入ってしまっているらしい。

「疲れた…な」

だからかな、どれくらい疲れていたのか今わかった気がする。
もう少しだけこうしていたい。
彼女がそれを許してくれているのが嬉しくて、なんとなくくすぐったくて、心地良い。

「お疲れさまでした」

まるで女神か何かのように慈愛をにじませて、彼女がそう呟いた。
座っている俺を立っている彼女が抱きしめてくれているから、
いつもと少し勝手が違うけれど、彼女の手が俺の髪をなでている感触が気持ちよくて
改めてうっとりと目を閉じてみる。

「うん、ただいま」

やっと帰ってきた、という実感が沸いたような気がする。
だから、もう少しだけこうしていたい。
まあ、部屋に入っても多分、同じことをしたいと思うんだろうけど。


2009/03/31
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