エントランス -KYOKO

From -PatiPati's Thanks TEXTS

ここにはカメラはないのかしら。ぼんやりとそんなことを考える。
ドアまであともう少し、なのに。私達、何やってるんだろう。

「やっと2人きりになれたんだよ?」

うん、そうね。それはわかってるの、私も。
でもね、敦賀さん。
ここは、私達しか使わないとは言え、一応は公共の場所だと思うのよ?
と言ってみたけど、何だか私も抗えるわけじゃなくて、されるがまま。
おみやげと称した大きな紙袋も、敦賀さんの荷物も、そして私のカバンも床に置いたまま
ぎゅっと抱き合う姿はまるで何年も離れ離れになってた恋人か家族のようにも見えるんじゃないかしら。

「疲れた、な」

敦賀さんが、私の頭上でぼそりと呟いた。
そんなストレートな言葉を聞くことができるのも、こうしてまた逢えたから、よね。

「お疲れさまでした」

エレベーター脇の椅子に座った敦賀さんを、もう一度ぎゅっと抱きしめる。
頭が胸のあたりで、ここぞとばかりに彼の髪の感触を愉しんでみたり。

「うん、ただいま」

敦賀さんも私の身体に腕を回した。
帰ってきた敦賀さんと最初に逢ったときより今の方がずっと、久しぶりに逢う実感がわいてる。
そうよ。やっと2人きりになれたんだもの。
急がなくったって、もう少しここでこうしていてもいいのかも。
今日はこのまま、ずっと一緒にいられるんだし、ね。


2009/03/31 OUT
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