「ん…」
体重を預けたシートがわずかにきしむ。
彼女の唇の感触が気持ちよくて、離れがたいのをなんとか宥めてキスを終えた。
暗くてほのかにしか見えない彼女の表情の変化を見ていたくて、少しの間様子を窺う。
それに気づいたらしい彼女が、恥ずかしそうに微笑んだ。
「今日はどうでしたか?疲れてない?」
深夜を示す時計を見て、彼女が心配そうに呟く。
うん、ちょっと疲れたかな。今日はいろいろな現場に行ったから。
でも、君の顔を見ることができたら、そんなのすぐに飛んでいってしまう。
仕事をがんばったささやかなご褒美みたいなものかな。
もちろん、こうして君に逢えるのは、俺にとっては至上の喜び。
「少しだけ、遠回りしようか」
「え…でも敦賀さん明日早いんじゃ…」
「キョーコは休みだろう?」
久しぶりに逢ったんだし、できれば少しでも長く君との時間を過ごしたい。
ドライブくらいしかできないけど、逆に言えば2人きり外を出歩くのは今のところは無理でも、
車でなら一緒に出かけられる。
「ちょっとだけ、でいいですよ?無理しないでくださいね」
お部屋でも十分楽しいし、と彼女が笑う。
大丈夫。君のためなら俺は何だってできるから。
手始めに、君を隣に乗せての、ささやかなランデブー。
車は、移動できる部屋、ってところかな。
2人なら、車だって部屋だって、同じくらい幸せで楽しい。
そういうことだ。
2009/03/05 OUT