夜話 -REN

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*PIECES OF 12 SEASONS

ことが済んだ後、うとうとしているうちに彼女が眠ってしまうことが多い。
大抵は俺も一緒に眠るんだけど、ときどき彼女の寝顔を見ていると
そのまま眠ってしまうのが惜しくなってしまう。

今日も満足してくれたのかな、と思えばやっぱり嬉しい。
気持ち良さそうに眠っていたら、どんな夢を見ているんだろうと、笑みが零れる。
眉間にシワを寄せていたら、起きた後で見ていた夢を訊ねてみようとわくわくする。

月の光が綺麗だ。
静かに眠る彼女の顔を優しく照らす。
目の前で眠っている彼女は確かに、大人になっているのに
こうして無防備な寝顔には、かすかに幼い頃の面影が残っているようで嬉しくなる。
まあ、結局彼女は彼女なんだから、当たり前なんだけど。
だけど今も、昔触れたぬくもりそのままでいる彼女が、俺には何よりの宝物だと、思う。

「昔々あるところに…金髪の男の子がいました」

うん。
その金髪の男の子は、偶然訪れた川べりで、
自分より少し小さな女の子に出逢うんだ。
長くそこにはいられないのに、彼女とはとても仲良くなる。
その記憶が、長い間消えない大切な想い出になるほどに。
そして別れなくちゃいけない日、悲しがって泣くその子を前にして、
なんだか自分もとても悲しくなって、だけど彼女の涙を止めたくて…

「…持っていた青い石をあげました。泣き止んだ女の子は、色が変わるその石を魔法だと喜んで…」

大切な、だけど記憶の中に仕舞われていたままだった想い出が
現実に動き出したのは、それから10年後。
青い石が2人をまた繋げてくれた。
そんな彼女との関係が、まさかこんな風になっていくとは、さすがに想像しなかったけれど。
言葉にしてみたら自分が思うより少しロマンチックな感じがして照れくさくなった。

「…その魔法の石を、とっても大切な宝物にしました」
「…起きてたんだ」
「敦賀さんが、何か言ってるなあ、って…」

微笑む彼女の頬に手をやると、彼女が俺の手に触れて、それからうっとりと目を閉じる。
誘われるようにそのまま顔を近づけて、月明かりに浮かぶ閉じられたまぶたに口づけた。

「言葉にすると…おとぎばなし、みたいだろう?」

まぶたから滑らせた先の耳元でそう呟いてから、彼女の柔らかな唇にたどり着く。
柔らかさと、それから彼女のぬくもりを味わうように何度も自分のそれを重ねてから唇を離すと、
微笑む彼女が、遠い記憶の中の幼い姿と重なって、胸に沁みた。
想い出の中の大切な女の子とそういう行為をすることに、戸惑いがまったくなかったと言えば嘘になる。
愛おしくて、それ故にしたいと思うことと、触れてはいけないような神聖さがないまぜになって
密かに自問自答したこともあったけれど、
そうすることが、彼女を穢すことにはならないんだと、彼女自身が教えてくれた。
彼女にしたいと思うどんなことも、すべては彼女を愛おしいと思う、そこから始まる。
それを、一生かけて彼女に伝えていきたい。

「立派なおとぎばなしですよ?少なくとも…私にとっては」

うん、そうだね。俺もそう思ってる。
ああいう風にして出逢った君と俺だから、こうなることもきっと運命だったんだよ、って、
おとぎばなしの最後は、そんな言葉で締めくくればちょうど良いのかな。
いや、君と俺の物語はまだ終わってはいないから…
運命の再会を果たした2人はいつまでも幸せに暮らしました、の後に、つづく、と入れればいい。

君がそばにいる、そんな幸せな毎日がこれからもずっと続くように。


2009/01/12 OUT
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