ブランコ -REN

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*PIECES OF 12 SEASONS

自分の住むマンションの近くに公園があることは知っていた。
だけど、仕事とマンションの往復が常の毎日で、
特にそのことを気に留めたりもしなかった。
最近気がついた、というわけでもないけれど、だからといって
1人で行くということをするでもなく、ただ、そこにあるだけの存在。

「じゃあ何で今日は来たんだろうっていう話でね…」

誰に聞こえるわけでもなく、1人呟いた。
そう、今まさにその近所の公園というところに1人で来ている。
しかもこんな夜中。
誰かがいるわけじゃない。この広い公園の中に、1人。

恋人が出来てから、というよりも、好きで好きでたまらなかった女の子と
恋人同士になってから、明らかに世界を見る目が変わってきた。
愛にあふれて見えるだとか、景色がより色鮮やかになったとか、
そういう抽象的なことも、言ってみればそうなんだけど、
現実的なことなら、例えば、彼女の好きそうなお店を見たら一緒に行ってみたいとか、
綺麗な景色が見える場所があったら、彼女を連れて行こうとか、
とにかく、いろんな思いを彼女と共有したいと思うようになった。
好きだと囁いてキスをしたり、2人きりの場所で隙間なく抱き合ったり、
そういうことはもちろん、2人でどこかへ出かけたり同じ景色を見たりして、
2人共通の体験や想い出を増やしていきたい。

とりわけ、彼女が好きそうなもの、に対してのアンテナが異様に働く。
好きそうなもの。
普段気に入って使っているものはもちろん、
メルヘン好きな彼女がもしかしたら気にいるんじゃないかという、
ちょっと装飾過多な小物なんかを見ても、即座に恋人の顔を思い出す。
もしかしたら喜んでくれるんじゃないかと思ったら、もう止まらない。
そんな感じでよく彼女にちょっとしたものをプレゼントするのが習慣になっていて、
それも特に理由も何もなく突然渡すもんだから、彼女も戸惑ったり呆れたり。
高価なものは、特別な理由がないと受け取ってくれないことは知っているから
価格は抑え目のはずなんだけど、それでもときどき怒られる。
けど、最後にはとても嬉しそうに受け取ってくれるから、もうクセになってる。
君が喜んでくれるのが、何よりも嬉しいから。喜ぶ顔が見たいから。
そんな顔をさせられるのが自分だけなんだと、確かめたいから。

「やっぱり…」

真夜中の公園を散策している途中に、見つけたものは、ブランコ。
いつか、彼女が俺の部屋のベランダから外を眺めていて、
あの公園、ブランコってあるのかな、と呟いていたのを、不意に思い出したのが、
今こうしてこの公園にいることの理由。
多分、ブランコがあったからって、すぐに乗りたいとは言わないだろうけれど、
とりあえず確認しておけば、いつか一緒に乗ろうと、彼女に言えるから。

そうは言ってみたものの、実物を見つけてしまうと、
これを見た彼女はどんな顔をするんだろうかとか、
わざわざブランコがあるかどうかを気にしていたくらいだから、
見つけたら嬉しそうに乗ってみたりするんだろうかとか、
そんな想像が頭をぐるぐるとめぐってしまう。
想像と言うよりも、もはや妄想の域かもしれない。

「よ…っ、と…」

とりあえずひとりでブランコに腰掛けてみた。
漕ぐことはせずに、座ったまま、空に光る月を見上げる。
夜の公園というのも、なかなかいいものだ。
公園で遊ぶと言えば昼間というイメージがあるけれど、
街灯と月明かりに照らされた遊具と、木のシルエットがなんともいえない雰囲気を醸し出している。
女の子が1人で、となるとこれはもう言語道断だけど…
そういえば、どこかの大きな公園は、夜はデートスポットになっているんだったか。
そんなところへ行けば、俺と彼女も他のカップルに紛れてしまって、
バレるからなんて心配するようなこともないのかもしれないな。
…多分、彼女には反対されるだろうけれど。

とりあえず、ここなら夜でも大丈夫かな。
もともと夜は人気もそんなにないところだし、闇も少しなら覆いの役割をしてくれるに違いない。
それに、バレてしまったって別にいいじゃないか。
恋人だと、世界中に宣言して廻りたいくらいなんだから、その手間が省ける。
勢いで、結婚にだってもっていけるかもしれない。

「本当、ワンパターンだな…」

堂堂巡りな頭の展開に苦笑する。
いつだって、着地点は同じ。経過も同じ。
最近は何を見ても、彼女のことを思い出してそんな考えに至ってしまうから
俺はずいぶんと重症患者なのだろう。
だけど今すぐは許されないことでも、夢ぐらいは見ていたい。
それに、このまま日陰の関係で終わることなんて絶対にしたくない。
昼間のブランコにだって2人で乗れるように、なってみせるさ。

ブランコ、見つかったよ、キョーコ。
今度2人で乗りに来よう。そう…いつか、そのうち。
いや、夜なら大丈夫だから、次に逢えた時、晴れた夜空の日にでも。

車での夜の外出にも少し渋る恋人を、どうやって説得しようかと、
ブランコに乗りながらそんなことを考えている、真夜中。


2008/02/24 OUT
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