ブランコ -KYOKO

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*PIECES OF 12 SEASONS

本当に、敦賀さんは私のことをよく見ていると思う。
私が何気なく言ったことをちゃんと覚えていてくれて、
何かにつけてプレゼントをくれるなんて、もはや日常茶飯事になってしまった。
理由もなく受け取れないと固辞しても、結局はそんな敦賀さんの気持ちが嬉しくて受け取ってしまうのだけど。
誕生日とか、そんな特別な日以外にただあげたいからという理由で
しかも私の欲しいものをピンポイントにくれる敦賀さんは、本当に魔法使いみたい。
って、前にも思ったかしら、ね。
受け取れないと2度3度も断るのは、その状況に慣れてしまうだろう自分が想像できるからなのに。
ああ、でも今まさに私はそんな状況に慣れつつあるのかもしれない。
だって、敦賀さんからもらえるものは、やっぱりそれが何であってもとっても嬉しいものだから。

それは決して形のあるものだけじゃない。
私を好きだと言ってくれる敦賀さんの気持ちだけでも十分嬉しいし、満足。
敦賀さんが私を好きだと言うたびに、自分がとても素敵なものになった気がしてくるの。
誰かにこの上なく大切にされることが、私にとっては本当に珍しいことだから、余計かな。
そして敦賀さんは他人が見たら多分呆れるくらいに私のことを大切にしてくれている。
その一部がつまり、敦賀さんが私に逢うたびに好きだと何度も口にしたり、
何かにつけて私が欲しいものをプレゼントしてくれたり、ということだったりするのよね。

敦賀さんがくれたもの、の中でも形のあるもの、は、アクセサリーが多い。
多分、私がそういうものが好きだってことも理由のひとつ、だと思うの。
私の好みは、ほとんどが敦賀さんの知るところにあるから、くれるものはほとんど外れがない。
もちろん、それだから嬉しい、っていうわけじゃないのよ?
もらえるものなら何でも、って思ってるんだもの。私の好みじゃなくても、嬉しい。
ど真ん中ストライクでも、大外れでも、きっと私はそれを身につけて、敦賀さんを思い出す。
一緒にいられないことが多いのは慣れてるから、寂しさを少しだけ軽くできる方法も、私はちゃんと持ってる。
その手助けをしてくれるのが、敦賀さんがくれたもの、なの。
ああ、これは敦賀さんがあの時にこんな風にしてくれたものだ、って想えば、
まるで敦賀さんと一緒にいるみたいじゃない?
他の人から見たらただのアクセサリーだったとしても、私にとっては、ひとつずつが大切な想い出の欠片たち。
そうして、敦賀さんとの記憶を共有して、2人の思い出を増やしてる。

「こんなところにいたんだ?」

敦賀さんのお部屋にある洗面台で、鏡に向かいながら首に収まるネックレスを愛でていたら、
いつの間にか敦賀さんが横に立っていた。
鏡の奥でニコニコしながら私にそう話しかける。
私も、鏡の中の敦賀さんに向かってにっこりと笑いかけた。

「これ、憶えてます?」
「もちろん」

そして隣の敦賀さんに向き直って、ネックレスを指さして問いかけた。
私の問いに敦賀さんは間髪入れずに即答した。
こんな風に、私達はときどき、お互いを通して2人の想い出と会話をする。
その度に、過ごしてきた時間の存在と、お互いの想いと愛情を確かめて、
2人の中では確固たるものでも、世間に出すにはあまりにもあやふやな関係を、改めて繋ぎ直す。
うん、大丈夫。こんなにも幸せ、なんだもの。敦賀さんがそこにいてくれたら、それだけで。

「散歩に行こう」
「お散歩、ですか?」
「うん」

少しだけぴったりと抱き合った後、身体を別々に分けると、敦賀さんがそんなことを口にした。
反射的に問い返して、そしてもう一度敦賀さんの言葉を聞く。
お散歩って、つまり、外を歩こう、ってことよね。
車でどこかに行くんでは、ないのよね。
別にお散歩が嫌なわけじゃないんだけど、なんていうか、こんな時間でも、
2人で並んで外を歩くのは危険極まりないわけで…えっと。

「大丈夫だよ」
「…大丈夫、ですか?」
「見せたいものが、あるんだ」

私の不安を見て取った敦賀さんの言葉に、なんとなく説得された。
見せたいもの、って何かしら。
それも気になるけれど、何より、敦賀さんがとても嬉しそうな顔をして誘うから、つい手を取ってしまった。
どうしてだろう、そんな風に言われたら本当に大丈夫な気がして。
敦賀さんとこうしてプライベートで逢うだけでも危険な橋を渡っているのに
そのことはちゃんと理解していて、普段は敦賀さんより私のほうがよっぽど気にしているのに
今日は、何故だか、大丈夫だって思えた。
大丈夫じゃないかもしれないのにね。
でも敦賀さんが私に見せたいと思うものを…見てみたい、な。

エレベーターの中でも、それが一体何なのかをちっとも教えてくれない敦賀さんは、
だけどとても楽しそうに笑っていて、私もそれがとっても嬉しくて、2人でニコニコしながら外へ出た。
手を繋いだまま見上げた月がとても綺麗で、
芸能人でもなんでもない、ただのキョーコが、大好きな人と一緒にいる、
そんな小さくてこれ以上ない幸せを、そっと見守ってくれているように思えた。
いつか、きっと、そんなことを思わなくても、こうして手を繋いで歩くことが普通になる日が来たら
やっぱり今日と同じように月がとても綺麗に、見えるかしら。

「ほら、あの公園」

敦賀さんが指をさす方向に、小さな公園が見えた。
いつも私が敦賀さんのお部屋のベランダから見ている、公園。
都会だけど、公園というだけあって緑がたくさんで、ベランダが高いせいもあって
中に何があるのかはっきりとは見えなくて…

「あ」
「わかった?」

近づいていく道すがら、そんなことを考えていたら、いつか自分の言った言葉が頭に浮かぶ。
同時に、視界の中にブランコが目に入る。
敦賀さんと繋いでいる手にぎゅっと力を込めた。
本当に…敦賀さんは、私のことをよく見ていると、思うの…


2008/12/22 OUT
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