気付くとずいぶん明るくて、窓の隙間から流れてくる空気があたたかい。
陽の高さから言ってもう午後、なんだろう。
良く眠ったという満足感と、失われた少しの時間を思う。
朝早くに一度目が覚めたけれど、腕に眠る彼女を起こしたくなくて目を閉じた。
あれからまた少し時が過ぎている。
早起きするって言ってたけど、疲れてるだろうから、きちんと休んで欲しい。
それに…昨夜も。
「おはよう、昨夜はごめんね…キョーコ」
こうやって自分の方が先に目覚めると、
まだ夢の中にいる恋人にそっと謝るのが日課になってしまっている。
いつもいつも逢いたくて、逢えたらその次は触れたくなって、求めてしまう。
逢うたびに欲しがる俺を拒まない彼女に、甘えてる。
それでも満たされない自分が可笑しくなる。
いや、もちろん満たされてはいるんだろうけれど、
こうやってそばにいる時にも過ぎていく1秒ごとに君を好きになるから、
そんな感情の揺らぎに追いつけないだけ、なのかもしれない。
タイムラグに生まれた僅かな隙間を埋めるようにして君を想い、そして触れたくて、ひとりもがいてる。
格好悪いけど、それも含めての俺、なんだと思う。
何度こうして一緒に朝を迎えたとしても、変わらないんだろうな。
断言できるよ。
「ん…」
穏やかに眠っている恋人を起こさないように気をつけながら身体をそっと起こすと、
となりの熱が少しだけ身動きする。
ひとつ大きく呼吸をして、それから掛けていたブランケットをかぶるようにして。
ああ、ごめん。まだ君は眠ってて。
ここに残していくのはちょっと寂しいけど、でもすぐ近くにいるから。
頬を撫で、それから昨夜からずっと繋がれていたもう片方の手をゆっくり解いていく。
そして離れていく彼女の手にそっと口づけた。
眠ってていいけれど、でもやっぱりなるべく早く起きて、また触れさせて?
一緒にいられる時間が終わりを告げるまでは離れていたくない。
これから食事をするなら、もう昼ご飯に、なるのかな。
今日は俺が作るから。
起きて、きっと俺を探してキッチンに走ってくる姿を想像して少し笑った。
リビングのカーテンを開けると晴れ渡る都会の空が目に入る。
なんで何も予定を入れない日に限って晴れるんだか…。
少し前に、彼女を行きたいところに連れて行く約束をしながら雨が降った日のことを思い出す。
今日が終わればまた、しばらくはまともに逢えるかわからない日々。
できることはすべてしてあげたいと思うのに、天気だけは思い通りにならない。
だけど…まあ、そんな日があってもいいか。
ひとつずつの時間は短くても、それはかけがえのない宝物のようなひととき。
君がいたら、それだけで。
「敦賀さんっ」
湯を沸かし、入れたコーヒーを飲みながら冷蔵庫に手をかけたところで後ろから声がした。
「起こしてくれたら良かったのに」
口ぶりは少しご機嫌斜め。
でもいつものように微笑みながら近づいてくる彼女の腕を引き寄せて、額にキスをする。
おはよう、キョーコ。
眠ってる君もとても可愛いけれど、やっぱりそうやって動いてるのがいちばん、いいな。
「気持ち良さそうに寝てたから」
「おなかすいたの?敦賀さん。私作るから座って待ってて」
「今から作ろうとしてた。出来たら起こしに行こうかと、思ってたんだよ」
「じゃあ、一緒に、作るっていうのはどう、かな?」
俺の言葉に少し考えてから、彼女がそう言った。
ああ…そうだね。
一緒にいられる日は、ふたりで一緒に。
2006/02/26 OUT