目を開けると、窓の外が明るい。
上半身を起こして隣を見ると、敦賀さんの寝ていた跡だけがベッドに残ってる。
先に、起きちゃったんだ。
一緒に起こしてくれても良かったのに、と、一瞬だけ思うけど。
でも、多分私を起こさないように、気づかってくれたんだよね。
わかってる。
「おはよ…敦賀さん」
ほんのりと彼のぬくもりが残るその跡をそっと撫でた。
手のひらから伝わるかすかな温度ですら、とっても愛おしい。
敦賀さんと迎える朝は、いつもこんな優しい気持ちになれる。
毎日は無理だけど、そのぶんこうして一緒にいられる時間が
私の中で何よりもかけがえのないものに、なっていく。
「あ…雨降ってる…」
天気を確かめようと窓辺に立ってカーテンをめくると、鈍色の空から落ちてくる大きな雨粒。
時おり窓を掠める水滴が、じわりと跡を残すのが見える。
なーんだ、雨、降っちゃった…。
「明日、晴れたらドライブにでも行こうか」
なんて敦賀さんが言ってくれたから、ちょっと…ううん、かなり期待してたのに…。
ドライブって言ったって、車で出かけてぐるぐるして帰ってきて終わり…なんだけど。
でも、オフが合うことなんてめったにないし…。
おでかけ、楽しみにしてたのにな。
どこがいい?と聞かれた私は、ある場所を敦賀さんにおねだりした。
そこは少し山の中にある、川がせせらぐ綺麗なところ。
…似てるな、って思ったの。
私と敦賀さんが初めて出逢った、あの場所に。
さすがに京都に行くわけにはいかないけれど、懐かしさを呼び起こすには十分。
理由は言わずに場所だけ伝えたら、敦賀さんは笑ってOKしてくれた。
だけど、そこに着いたらきっと敦賀さんもわかるはず。
ビックリさせたかったのにな…。
でも…雨が降ったら行くのがちょっと大変だもの、やめた方がいいよね。
「今日はおでかけは無理、かな…」
こっそり呟いて、大きく伸びをした。
おでかけはできなくても、今日は久しぶりに一日中敦賀さんと一緒にいられる。
楽しいオフの始まり。
「起きた?」
何しよう、なんて考えてると敦賀さんの声が聞こえてきた。
声のする方へ顔を向ければ、敦賀さんがパジャマ姿のままでこちらにやってくるのが見える。
ベッドから降りようとする前に、ぐっと抱きとめられて、
そのまま腰を下ろした敦賀さんに抱きしめられてしまった。
それから、いつもの、「おはよう」の挨拶。
「おはよう」
「おはようございます」
「雨、降っちゃったね」
私のおでこにキスをした後、敦賀さんが残念そうに呟いた。
自分のせい、みたいな表情してる。
敦賀さんのせいなんかじゃないのにね。
「ちょっと残念だけど、お天気はしょうがないですから」
「すごく楽しみにしてたのに、天気も調べなくて、ごめん」
「今日がダメでも、またいつか行けますよ。大丈夫、気にしないで?」
それより、今日は何しよう?
敦賀さんのために、食事を用意したり、おうちのことをいろいろしたり。
美味しそうに食べてくれる顔をながめて、食痔が終わったら一緒にお片付けしたりして。
それから、途中になったままのDVDを観るのもいいな。
それとも…ただ寄り添って他愛もないことで笑いあったり。
なあんだ。
私、結局敦賀さんといられたらそれでいいみたい。
だって、そうやって考えただけでなんだか幸せになれるんだもの。
敦賀さんの腕に抱かれて、他の人が見たら気持ち悪いくらいニマニマしていたら、
髪をくしゃっとされて、それから敦賀さんが私の耳元に顔をぐっと近づけてきた。
なあに?ちゅー、するの?
そう思ったけど、敦賀さんはそのまま、内緒話をするように口を開く。
「わかったよ、君がどうしてあそこに行きたいって言ってたのか」
え?
「似てるから、だろ?」
彼の言葉に、思わず心臓が早鐘を打った。
すごーい…敦賀さん。
何でも、わかっちゃうんだ。
私の方がビックリさせられちゃった。
その後から、じわじわと嬉しい気持ちがあふれ出す。
あれだけのキーワードで気付いてくれたってことは、
私と同じくらい、あなたもあの頃の記憶を大切にしててくれてるからだよね?
ありがとう…すごく、嬉しいな。
そう言いたいのに、敦賀さんが気付いてくれたことが嬉しくて、顔が緩んじゃって
他には何も言えなくて、ただ笑って敦賀さんにぎゅっと抱きついた。
「今度は絶対、一緒に行こう。天気のいい日に、ね」
「…うんっ」
朝から私たちは何度も抱き合って…それから、何度もキスをした。
おでかけできなくても、同じ空気の中で過ごせるだけで幸せ。
ふたりきり、雨の日だって、最高に幸せ。
2006/04/30 OUT