CLOUDY MEMORY -KYOKO

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*SCENE OF CUTIE WEATHER

あれはそんなに晴れた日じゃなかった。
少し重たい雲が空を覆っていた曇りの日。
多分そのうち雨が降ってくるんだろうな。
そんなことを思いながら外で遊んでいたっけ。

曇ってきて、雨が降り出して外で遊べないことなんてたくさんあったのに
何故か憶えているのは、湯水のようにあった時間の中のほんのひとコマ。

いつもみたいにお昼寝をしていた私とショータロー。
数日前には母親が来て、すぐ去って行って私はまた置いてけぼりで。
目が覚めたらショータローが先に起きていて隣には誰もいなかった。
昼寝の後にショータローがひとりでどこかへ行ってたなんて、別に珍しいことじゃないのに、
気が付いたら何故かとても悲しくて、私はまた、泣いていた。
行かないでと懇願した私を置いて、黙って遠ざかる母親の背中。
そんな日からまだ日にちが経っていなかったから、
普段なら気にも留めないのに、放っておかれたことがただただ寂しかった。
必ず隣にあるはずの、鼓動、体温、そんなものが跡形もなく消えていたことで
やっぱり自分はひとりなんだと、思い知らされたような気が、したから。

いつになったらお母さんは私を迎えに来てくれるんだろう。
私は、いつまでここにいればいいんだろう。

周りの人も良くしてくれて、とりあえず遊び相手もいた。
だから、普段はそんなこと思いもしないのに、何かの拍子に心に影を落とす。
私はきっと、私だけの居場所が欲しかった。
無理しなくてもいい、必要以上に気を使わなくてもいい、ありのままの自分でいて許される、そんな、居場所。

「起きたの…?」

頭のすぐ上から聞きなれた声が降ってきた。
ここは敦賀さんのお部屋のベッドルーム。
目が覚めた時には敦賀さんはまだ寝てるみたいだったから、
そのまま目を閉じたり開けたりしながら考え事をしてた。
今日のお天気は、曇り空。
昨日の天気予報で言っていたとおり。そして流れてくる空気は少しだけ湿っぽい。
もう少ししたら、きっと雨が降る。

私の目の前には敦賀さんの身体。頭がちょうど敦賀さんの胸のあたり。
耳を澄ますと、かすかに聞こえてくる、ゆっくりと脈を打つ敦賀さんの鼓動。
昨夜はずっとこの音を聞いてたような気がする。
だからかな…あんなことを、あんな昔のことを思い出したりして。

「おはよう」

前髪をそっとかきあげて、敦賀さんが私の額にキスをひとつくれた。
なんだかくすぐったい。
そのまま頭を何度も撫でられて、気持ち良くてまた目を閉じた。
起きなきゃダメだけど、もう少しだけいいかな、時間…。
そんなことを考えていたら、敦賀さんが口を開く。

「今日はどこかに行こうか…」

え?
今日は私達2人ともお仕事、のはずだけど…。

「仕事済んでから、夕食食べに行こう?」

怪訝な顔をして見上げた私に微笑んで。
あ…そういう意味なの…。びっくりした。
でも、いいのかな。
2人で食事になんて行ったら…ダメだよやっぱり。
今一緒にお仕事してるわけでもないし、2人きりになんてなって誰かに見られたら
…きっと敦賀さんに迷惑かけちゃう。

「社さんに来てもらえばいいよ、大丈夫。…それとも、君は嫌?」
「う、ううん…嫌じゃない…」

嫌なんかじゃない。
嬉しいな…どんな形でだって、一緒に居られるのはすごく、嬉しい。
今日別れたら、次はいつ逢えるのかな、って思ってたから
敦賀さんの申し出にはビックリしながらも、すごくウキウキしてしまう自分がいて
それがなんだか可笑しい。

「よかった」

敦賀さんも、そう言って嬉しそうに微笑んでくれる。
もしかして、私の頭の中、覗いてた?
置いていかれて寂しかったことなんか思い出してたから、それがバレちゃったのかな。
でも今は、目が覚めたときに敦賀さんの姿が見えなくても、きっと平気。
そりゃあ…ちょっとは寂しいけど、でも、あなたはすぐそばに居てくれるから。
私に黙ってどこかへ行ったりは…しないから。
こうやって伝わってくる敦賀さんの体温や鼓動が、離れてても大丈夫だって教えてくれるから。

手に入れたとっておきの居場所。
敦賀さんの隣は、私が私でいられるかけがえのない、居場所。

改めて私に気付かせてくれた空模様を見ながら、雨の訪れを予感させる空気を吸い込んだ。
今日はまた夜に敦賀さんに逢える。
お仕事がんばらなきゃ。

ね、敦賀さん。


2006/03/28 OUT
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