SWEET NIGHT CRUISING -REN

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*SCENE OF CUTIE DAYS HAPPINESS

昼休みに彼女からメールで出されたクイズの答えを持って
心が沸き立つのを抑えきれずに家へと向かう車の中。
自分が彼女にしてやれることのあまりの少なさに、少し鬱屈としていた昨日が嘘のようだ。

実際、本当に、俺が彼女にしてあげられることというのはほんの少しだ。
昨夜はそれを真剣に考えていて、その事実に少々凹んでしまった。
好きだという気持ちしか持たないままで彼女に触れているだけで、
彼女が参っている時に何かの助けになれているのかもわからない。
俺はいつだって彼女という存在から、悩んでいたことが何もかも些細なことになってしまうくらいの幸せや
元気、他にもいろいろなものをもらっているというのに。

結局今日も、彼女から元気をもらってしまった。
仕事の事か何かで悩んでいただろうに、そしてそれを察していながら
俺に助けを求めようとしない彼女から…。
歯がゆく思わないわけではない。
だけど、それが彼女のやり方なら、俺はそれを尊重したい。
そうやって自ら乗り越えていく間も、何も変わらずに俺の隣にいてくれる。
それだけで、十分に満足なんだ。

彼女との関係は、本当に俺を成長させてくれる。
相手のいろいろなことを知って、接し方を学んで。
それから、自分の持つ全てで想いを伝えようとして、いつも一生懸命になる。

それにしてもキョーコ。
君が昼休みにくれたメールの添付画像と添えられた文面を見て、
謎が解けたときの俺の気持ちが君にわかるだろうか?
最初は何の暗号なのかと思ってビックリしたけど、何のことはない。
いつも、俺と君がくっついて過ごす、その俺の部屋のバスルーム。
バスタブにちょこんと置かれている「オデット」の写真。

自分の悩みに俺が気付いたと知ってたのかもしれない。
そうだとしても、自分のことはなるべく自分で解決したいという意志を持つ君のことだ。
何とかして欲しいなんて君が直接俺にいうことは、滅多にない。
それでも君の助けになれるなら、何だってしようと思うけれど、
君が自分と向き合おうとする、その場所に俺の部屋を選んでくれたことが何よりも、嬉しかった。
夜までの時間がもどかしく思えて、仕事が少しだけいつもよりはかどったような気がするんだ。
君にそんなことを言ったら怒られるかもしれないけれどね。

駐車場に車を停めて、いつもなら枠線にきちんと平行になっているかも確かめてから降りるのを
その時間も惜しく思えて慌しくドアを閉めてエレベーターに向かった。
クイズに対する俺の答えが正しければ、彼女が部屋で待っていてくれているはずだ。
ここしばらくは、俺の部屋で逢う時にはいつも一緒に帰ってきていたから、
彼女が待つ部屋に帰る、ということ自体がとても久しぶりでそれもなんだか新鮮に思える。
そうやって俺が帰ってきた時に彼女が部屋にいると、いつも彼女が玄関まで来てくれる。
そして嬉しそうにおかえりなさい、と微笑んで、背伸びをしてキスをしてくれようとする。
それを抱き上げて、挨拶代わりにキスをするのが…そういう時の楽しみなんだ。

ある種の確信を持って、自分の部屋の前に立つ。
昨夜の落ち込んだ様子ではない、彼女がいてくれることを。

「お、おかえりなさい…っ」
「ただいま、キョーコ」

チャイムを鳴らしてからドアを開けて少しすると、予想通り彼女が小走りに玄関へとやってきた。
そして迷わず俺の腕に飛び込む恋人を抱きしめて、そう挨拶をしたすぐ後。
少しだけ身体を離した彼女が、そっと背伸びをした。
こちらを見上げる顔。頬にかかる髪をそっと後ろへ流してから、ゆっくりと口付けを交わす。

近づいていく距離に俺よりも少し早く目を閉じたその表情を見つめて、俺も目を閉じた。
唇から伝う、自分と同じ温度の熱を感じながら、口には出さずに問いかける。

キョーコ…俺の部屋は…君を癒す助けになれたのかな…?
何でも言ってくれればいいのに、君は本当に頑固なんだから…。
だけど、そういうところも好きだよ。
何もかもを全て含めて、君という人間だ。
俺にとってはかけがえのない、世界で一番大切、最愛の、ただひとりの。
だから俺も俺なりの方法で君を心配するくらいは、許されるだろう?
そして、いつだって俺が君のそばにいる。君は…ひとりじゃないんだ。
それだけは…わかってて欲しい。

「もう1回、してもいい?」
「キスだけですよ…?ご飯食べてくれなきゃ困ります」
「じゃあ…ご飯が終わったら、その続きをしよう」

俺の言葉に口をぱくぱくさせている彼女を見て、それからゆっくりとその柔らかい唇を塞いだ。
直接聞かなくてもわかる。良かった…もういつも通りの彼女だ。
俺の部屋という場所が、彼女に何かを与えたのかもしれない。
それとも、そうではないのかもしれない。
そんなこと、どっちでもいいことだ。
いつもどおり、心穏やかに笑う彼女がいてくれれば。

ふたつもらってしばらく我慢するはずだったキスの先をねだるように、
彼女の唇を追いかけて捕まえた。

そしていつもと同じ、幸せな夜の時間。


2006/11/28 OUT
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