SWEET NIGHT CRUISING -KYOKO

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*SCENE OF CUTIE DAYS HAPPINESS

ピピピピピピピ…

鳴り響く携帯電話のアラームを止めてディスプレイを見ると、時刻はそろそろ夕方の6時になるところだった。

「もうこんな時間なんだ、早くご飯作らなきゃ…」

そう呟いて、広くて大きなベッドから降りた。
ベッドルームを後にしてリビングに戻ってから、パジャマ代わりに羽織っていた敦賀さんのシャツを脱いで畳む。

「ふふ、借りちゃった…ごめんね、敦賀さん」

だけど、その分敦賀さんの香りに包まれて、まるで彼に抱きしめられてるみたいに眠っていられた。
いつの間にか、凹んでいた気持ちも浮上した。
敵わないな、敦賀さんには。
そばにいるわけじゃないのに、こんなに手助けしてくれるなんて、ね。

冷蔵庫から材料を出して、考えておいた献立を作り始めた。
作りながら、自分のしていることがなんだか新婚の奥様みたいで照れくさくて少し笑ってしまう。
それで、ダンナ様が帰ってきたら、奥様は玄関まで出て行ってお出迎えするんだ。
きっと、キスとかも、するのかな。おかえりなさい、って。
敦賀さんの為に食事を作ることは何度もしているけど、こんな風なシチュエーションなのは珍しいかも。
食事の用意をしながら、敦賀さんの帰りを待ってるなんて。

鍋の中でぐつぐつと音を立てている煮物を見ていると、それだけで幸せな気分。
大切な人の食事を作るって、きっと自分のためでもある。
美味しそうに食べてくれる顔が見たいなって思うの。
そう思いながら作ると、自分のためだけに作るよりもはるかに美味しくなる気がする。

「よし、でーきた…」

敦賀さん、早く帰ってこないかな。
今日のお料理は、いつもよりもかけられる時間が長い分、少し凝ったものを作ることができた。
早めに帰れるって言ってたから、もうすぐ帰ってきてくれるかな?

早く、逢いたいな。

とりあえず食事の用意を終えてからリビングに移動して、眼下に広がる綺麗な夜景を眺めていたら、
昼間の気分、ううん、昨日からの落ち込んだ気分が晴れていくよう。
何で、あんなにめり込んでたんだろう、なんて思ってしまう。

何か落ち込んじゃった時、自分だけでは浮上できないって思った時に
敦賀さんに逢うと、不思議とそれが少しだけ和らいでいくの。
やっぱり王子様、魔法が使えるんだなって思ってたけど、それは敦賀さんだけじゃないみたい。
敦賀さんの纏う空気もそうだし、このお部屋だってそう。
さっきまで借りてた服もそう。
昼間に来た時よりもずいぶん気分が明るくなってきたもの。
いつもいつも敦賀さんが過ごしているお部屋だもんね。
同じ効果があったってちっとも不思議じゃない。

それに…昼間からのことを思い出す。
敦賀さんに写真付きのなぞなぞメールを送ってから、お掃除をしたり、お洗濯をしたり。
冷蔵庫の中身を見ながら今晩の食事のことを考えたり。
そうそう、さっきまではお昼寝もしちゃってたし。
そんなことをしてたら、私をつかまえていた暗い思考がどこかへ行ってしまった。
今回は、気分転換まで敦賀さんに頼っちゃったけど、またいつもの明るいキョーコに戻るから心配しないでね?

多分、敦賀さん心配してる。
だからこそ、いつもの私に戻ってちゃんとお出迎えしたいの。
本当に、もう大丈夫だから。
早く帰ってきて、ご飯一緒に食べましょう?
少しだけしかゆっくりできないけれど、その代わり、一緒にいられる間はずっとくっついていようね。
帰る時には、ドライブもできる。別れる前にはキスもしてね。

過ごせる時間はわずかだけど、
今日もいつもみたいに楽しいものに、なるよね。
敦賀さん。

畳んだシャツをそっと抱きしめたら、チャイムが鳴った。
ダンナ様の帰りを待っていた新婚の奥様みたいに、玄関まで走る私。

そして、帰ってきたダンナ様に、おかえりなさいのキスを、するの。


2006/08/31 OUT
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