MELLOW AFTERNOON -REN

From -PatiPati's Thanks TEXTS -SERIES*SCENE OF CUTIE DAYS HAPPINESS

「はーい、1時間休憩でーす!」

昨夜声を聞いたとき、少し元気がなさそうだったのが気にかかって、
なんとなく仕事の隙をついて心に流れ込んでくる彼女のこと。
嬉しいとか悲しいとか楽しいとか、表情がくるくる変わるところは相変わらずで
俺にしてみてもわかりやすくて重宝しているし、とても気に入ってるところなんだけど…
悲しいとか気に入らないとか、そういうことを表情から読み取っても
その奥までは踏み込ませてもらえないことが多い。

俺に愚痴を言わないのは、仕事絡みのことが原因なんだろうという察しも簡単につく。
彼女のことに関しては随一だと勝手に思っている俺の観察力も、最近は発揮する機会がめっきり減ってきた。
そんなものを使わなくてもいいくらい、距離が近くなったから。
と、俺は勝手に思っているんだけど、でも、やっぱり俺は彼女にはなれないし
内側に入り込むこともできないわけで。

くどくど考えてみたけど要は、心配でたまらない、ってことだ。
こんな時は、ひどくむずかしい。
仕事で感じた嫌な出来事を俺に言わないのは、自分がそれに屈してしまうことに無性に腹が立つからなのだろう。
違う仕事をしているのならまだ、愚痴の聞き役くらいにはなれそうなものだけど、
同業者だとそうはいかないらしい。

俺はどんなときだって君の支えになりたいと思ってるんだけどね。
君のことを思うのは、それがどんな内容だって嫌だと思うことはひとつもない。
病める時も健やかなる時も、って言うだろう?
俺が支えになる方法は、直接作用する何かを持ち出すことだけじゃない。
それはわかっているけど、心配の余りどこかで口を出してしまいたくなる自分も存在する。
もどかしいものだ。

昼食の休憩と言うことで、撮影スタッフや共演者の面々はそれぞれの場所へと散らばっていく。
俺は、待っていてくれた社さんに一言断わって、人目のないところへ移動した。
タイミングが合うだろうか。電話に…出てくれるだろうか。
もしまだ少し沈んだ声だったとしても、俺は普通どおり話をするから。
そこから君が浮上できる何かを、俺にできることがあるならそれを、掬い出したい。
そう思いながら携帯電話を見ると、メールが着ていることに気付く。
慌てて画面を呼び出すと、当の彼女からのものだった。

「え…?」

ついさっきチェックした時には気付かなかったのに、いつの間に。
もどかしく先を追ってみると、それはとても短いものだった。

件名:なぞなぞ
本文:ここ、どこだかわかる、かな?当ててみてね。

そしてスクロールしていくと展開される1枚の添付写真。
一瞬狐につままれたような気分になって、だけどその写真を良く見ると、そこがどこなのかすぐにわかった。

キョーコ、君は…。
彼女につられて少し暗くなっていた気分があっというまに晴れていく。

「はははは…簡単ななぞなぞだね、キョーコ…」

正解したら何かごほうびがもらえるんだろうか。
さっきとは打って変わった気持ちで、指が返信のボタンをたどる。

件名:答え
本文:後で直接言わせてもらってもいいかな。気をつけて。また、夜にね。

本当は電話をしようと思ったけれど、それはやめておいた。
どうせ今日は後で逢える。
その時に、昼の分も、夜の分も声を聞かせてもらえればいい。
俺の方が年上で、先輩で、それで「彼氏」なんだから、と気負っていたことに改めて気付き、
なんとなく拍子抜けさせられた。
彼女のことを心配するのは当然だ。それは多分いつまでもやめられそうにない。
だけど、一緒に歩いていくと決めたんだから、ふたりの荷物はふたりで背負えばいい。
彼女だって、俺にはない様々な能力を持っていることくらいわかっているくせに。

自分よりもはるかに頼もしい恋人に、いつもたくさんの元気をもらってる。
そして、今日も。
目を閉じて壁に寄りかかると、まぶたに浮かぶのは彼女のとびきりの笑顔。
ほら、いまもそれだけで少し憂鬱だった午後の始まりがどこかへと消えていく。



2006/07/31 OUT
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