シャワーを浴びて、手早く着替えを済ませた。
今日も朝から1日忙しいけれど、気分はかなり、いや、とても良い。
昨夜も愛しい恋人と過ごせることができて、しっかり充電したし、
今も、この先にその彼女が居てくれると思うと…顔が緩んでしまってもしょうがないだろう。
その顔を引き締める間もなくリビングに入ると、朝食を用意していた彼女が俺に気付いてにっこりと笑った。
出かける用意を終えてから、朝食のテーブルに着く。
彼女と過ごす朝。
そしてそのまま仕事に出る日はなるべくそういう風にして過ごすようにしている。
出かけるまでの時間を少しでもきちんと君と向かい合って過ごしたい。
朝食をきちんと食べるという習慣もあまり意識したことがない俺だけど、
こうして彼女と過ごす朝の食事は自分でも信じられないくらい美味しく思える。
朝食の重要性に気付かなかったのも、我ながら問題ではあると思うけど、
それを気付かせてくれたのが彼女であることが例えようもなく嬉しいだなんて、
きっと彼女に言えば怒られてしまいそうだ。
そんなのに関係なく、朝ご飯は大事なんですからね、って。
おはよう、キョーコ。今日も美味しそうだね。いつもありがとう。
だけどその前に、今日はまだ朝の挨拶をもらってないよ?
彼女に近づいて腕を取ってぎゅっと抱き寄せた。
「おはよう」
「おはようございます」
唇を繋げたまま、ソファになだれこんでしばらく口付けを交わす。
朝なのに、このまま昨夜と同じことを始めてしまってもいいくらいに濃厚なキス。
ややあってから唇を離すと、頬を少し染めた彼女が恥ずかしそうに微笑んだ。
「起こしてくれれば良かったのに」
「ん、敦賀さん忙しいんだから、なるべく眠ってなきゃダメなんです」
「君も一緒だろう」
「私は…大丈夫です。敦賀さんのほうが忙しいもの。ほら、ご飯食べましょう、ね」
手を引かれるままにテーブルに着いた。
今日は目玉焼きなんだ。
この間はオムレツだったっけ。
そんなことを考えながら皿に目を落とすと、いつもの目玉焼きと少し違うことに気が付いた。
「この目玉焼き、卵ふたつ?」
「ううんっ、あのね、すごいの」
自分の皿に乗った、黄身がふたつ並んだ目玉焼き。
目玉焼きならいつも卵はひとつのはずなのに、今日はどうしたんだろう。
そんな疑問を口にしてみたら、彼女が待ってましたとばかりに目をキラキラさせて話し出す。
「ひとつの卵から、双子の黄身が出てきたの、もうビックリしちゃって!」
「へえ…そうだったんだ。言われてみれば少し小さめだしね」
「たまにしか見たことないから、何かいいことありそうだなって」
「うん」
「だから、敦賀さんにあげますね。敦賀さんに今日1日いいことがありますように、って」
へへ、と照れくさそうに笑ってから、いただきまーすと手を合わせて彼女が食事を始めた。
…彼女の言葉や行動の端から見えてくる想いを探すのが好きだ。
確信があるにしろ無意識にしろ、気付けば彼女は俺の為にいろんなことをしてくれてる。
その度に、何か得がたい宝物を見つけた気がして、それだけでとても幸せになれる。
今の言葉も、きっとそれのひとつ。
思わず、心の中が暖かい想いでいっぱいになる。
朝からなんてことをしてくれるんだ…本当に。
ニコニコ笑いながら食事を続けている彼女をそっと見つめた。
あったよ、キョーコ、俺の「いいこと」
そう呟いてから、皿の上の目玉焼きを横に半分に分けた。
「ほら、キョーコ、君にも」
「え?」
「いいことは、半分に分けないとね」
君にもいいことがありますように、と願いを込めて。
…というよりも、君に何かいいことがあって、
それを喜んでる姿を見られることが俺の「いいこと」なんだ。
そして、君が俺を想っていてくれてることこそが、俺の一番の「いいこと」。
俺には「いいこと」があったから、次は君の番だね。
君の「いいこと」は、何だろう?
俺と同じように思っていてくれたら嬉しいんだけど、ね。
2006/09/30 OUT