「私が行ってくるから待っててくださいね!」
車を高速道路のサービスエリアに停めて、とりあえず降りようとしたら
彼女がそう言って慌しく先に行ってしまった。
大丈夫だよ、と言ったら、でも敦賀さんは単体でパニックになるじゃないですか、と返された。
あげくの強行突破。うーん…。
そんなこと言って自分だって…と彼女を見ると、
なんといつの間にか黒髪ロングのウィッグをかぶっていた。
示し合わせたわけではないけれど、
車を降りて駆けていく彼女のロングヘアが揺れる後姿を見てから、自分も似たような用意をする。
ただし、俺のはブロンドのウィッグだけど。
「これでなんとかなるかな…」
サングラスにキャップ、ブロンドのウィッグで、とりあえず、身長以外のだいたいのところを
カバーできたような気がする俺も、彼女に遅れること数分、サービスエリアの建物の中に入る。
彼女を見つけようと周りを見回してみると…ああ、いたいた。
フリーザーケースの前で真剣な目をして悩んでる。
ははあ…アイスかな。
「お嬢さん、何をお探しですか?」
近づいて英語でそう話しかけてみると、彼女がそれはそれは驚いた様子で俺を見て
口をぱくぱくさせている。
大成功。
「な…つ…」
「しー、コーンでいいよ、コーン」
「な、コ、コーン…なんで、わ、私行くって」
「だって一緒に買い物したいし」
もー…心臓に悪いです、とつぶやきながら、それでも俺の手をちゃんとつかんでくれてるのが、すごく嬉しい。
身長差約30cm、黒髪ロングへアとブロンドの組み合わせ…ちょっと妙かもしれないけど、いいか。
なろうと思えば素でそんな風にもなれるんだし。
「アイス?」
「うん。冷たいもの食べたいな、って。どうかな?」
「いいね。せっかくだから外で食べようか」
目立ちすぎてる気がしないでもないけれど、一応は変装も成功したみたいだし、
ということで、普段は思いついても断念してしまいそうな提案をしてみた。
俺の言葉を聞いた彼女が一瞬の後、満面の笑みを浮かべる。
「はいっ」
*
外へ出てみると、並んで座るのにちょうどよさそうなベンチがあった。
それでもとりあえずはあまり目立たないようにと、一番端のベンチに、道路へ背を向けて座る。
「あつ…早くしないと溶けちゃう。はい、敦賀さんも早く食べなきゃ」
彼女が慌てたようにそれぞれのアイスを袋から出した。
油断したのか自然に名前を呼ぶのがなんだかおかしくて、少し笑ってしまう。
俺はカップアイス、彼女はアイスキャンディ。
彼女が袋を破くのを見ると、確かに溶け始めてて、油断するとぽたぽたと落ちていきそうだ。
ほぼ同時に食べ始めたもんだから、しばらく無口になる。
少し高くなった陽が容赦なく照りつける。都会ほど暑くないのが幸いといえば幸いかな。
確かに都会は、外にいるのをなるべく控えたほうがいいくらいのものすごい暑さだ。
それにしても、こんなところで2人して並んでアイスを食べてるなんて、ものすごく「夏休み」してるじゃないか。
計画を立てている時も楽しかったけれど、実際に行動に移すと段違いに楽しい。
2人でどこかへ行くというのがこんなに楽しいことなら、もう少し仕事を減らしてもらってもいいかもしれないな、なんて
ちょっと問題発言とも取られそうな考えが頭をもたげてきて苦笑する。
「またこうやって旅行しよう」
「ん、そうですね」
「こんなに楽しいなんて…今まで損してたな」
「その為にお仕事減らすなんて言ったらダメですからね?」
「…バレたか」
「もー、そんなだと余計にスケジュールきつきつにされるんだから」
「大丈夫。抜け道はたくさんあると思うよ」
「そうかなあ…」
「ほら、あーんして」
少し溶けかかってるバニラアイスを彼女の口に運ぶ。
咄嗟のことで驚いていた彼女も、アイスを口に含んで美味しそうに笑った。
損してた、なんて言ったらちょっと語弊があったかな。
一緒にいられたらそれだけで楽しいし、幸せだ。そのことはゆるぎない事実。
だから、損してたというより、新たな発見ができて嬉しい、と言ったほうが正しい表現なのかもしれない。
「敦賀さんと一緒だったら、どこでも楽しいですよ?」
あらためて自分のアイスキャンディにぱくついた彼女が、ぼそっとそんなことを言った。
うん、そうだね。俺もいつでもそう思ってるよ。
2010/08/21 OUT