午前6時半のランデブー -KYOKO

From -OHTERS

空はとっくに明るいし、ずいぶん前から起きているせいで取り立てて早朝っていう感じでもない。
だから、そんな私と敦賀さんにそれを教えてくれるとしたら、夏の朝特有のひんやりとした空気、かな。
そう思って空中に手をかざした後、そっとお部屋の窓を閉めた。
しばらく2人揃って留守にするから、戸締まりはきちんとしておかなきゃね。

今日から2人で一緒に短めの夏休み。
結構長く一緒にいるのに、こんなことって多分初めてなんじゃないかな。
もちろんそれも、結婚したからできること、なんだけどね。
うん。2人揃っての数日間のオフに、どこかへ出かけることができるなんて!

決まった時からずーっと楽しみで仕方なくて、あれこれ計画を練って
どんなに今日を待ち遠しく思ってたか、言葉では言えないくらい。
あと1週間ですね、そうだね、なんて言いあってみたりして、
遠足の前の日みたいな状態が何日も続いてた。

お休みを揃えるのはかなり大変だったみたいで、
そこだけは浮かれてるままではダメなのかもだけど、でもやっぱり純粋に嬉しいかな。
芸能人だって言っても、たまには家族とどこかへ行きたいって思うのは普通のことだし。
敦賀さんが久しぶりに言ったワガママだから、社さんがすっごく、がんばってくれたんだって。
おみやげ、いっぱい買って帰らないとね?

「ん?」
「楽しみだなあって」
「うん、俺もだよ。ずーっとワクワクしてる。らしくない、かな」
「そんなことっ、ないですよ?」

エレベータの中、荷物があるからキスの代わりに敦賀さんにぴたっとくっついてみた。
夏だから半そで。私はノースリーブ。
エアコンが効いてるから少し冷たいのが、かえって敦賀さんの体温がわかって嬉しい。
キスと同じくらい、気持ちが伝わればいいのにな。

車に着いて荷物を積んでシートに落ち着くと、敦賀さんが楽しそうな顔をして、
待ってましたと言わんばかりに私にキスをした。
起きてすぐのハグもキスも、それからこうやって車でするキスも、
何もかもいつもとひとつも変わらないのに、なんだかすべてがキラキラして見えて
心のどこかがずーっとドキドキしてるのは、夏休み効果なのかな。

「じゃあ、出発」
「うんっ」

敦賀さんがアクセルを踏んで、車がするすると動き出す。
駐車場を出ると、途端に明るい朝の空が視界いっぱいに広がって、
バカンス気分をかきたててくれる。

隣の敦賀さんを見ると、やっぱりいつもより少しだけ楽しそうな顔をしてて、
そんな風に運転してるのを見てるだけで、よかったなあ、って思える。
一緒に住んでて、世界で一番大好きな人で、同じことで同じように嬉しくなって、って、
奇跡みたいな出来事なのかもしれない。
こんな風な少しおっきなイベントでも、日常のささいなことでも、
そうやってふたりの「嬉しい」とか「楽しい」が重なる幸せを、あらためて思う。
敦賀さんって、私に与えられた一番大切なもの、なんだよね。

「どした?」
「ううん、安全運転でね」
「大丈夫」

そう言った私のほっぺを敦賀さんの手がするりとなでて、
それから信号が赤のうちに小さくキスをした。

も…油断も隙もないんだから…っ



2010/08/21 OUT
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