窓から入ってくる風が心地いい。
夜が明けたばかりの独特の空気が部屋の中をまるごと洗っていくようで、
すがすがしい気持ちになれる。
大きく深呼吸をした。
少しは落ち着いたかと思ったけど、やっぱり浮かれた感じもないまぜになったままの妙な気分だ。
そんなおかしな気分なのには、ちゃんと理由がある。
今日から数日間、オフをもらった。
しかも、2人揃って。
こんな幸運なことが、しかも世間で夏休みといわれるような期間にあるなんて、
これで数年分の運を使い果たしたかもしれない。
とりあえず2人一緒で複数日のオフは当分ないだろう。
滅多にないことだからこそ、めいっぱい楽しんでやろうという、いわば完全バカンスモード。
文字通り降ってわいたような夏休み、気合いも入るというものだろう。
我ながら単純だとは思うけど。
そういうわけで、夏休みオフの存在がわかってからというもの
どうやって過ごそうかと2人であれこれ話し合っていろんな計画を立ててみた。
俺と彼女にとっての半ば永遠のテーマでもある、喧騒を離れて、より2人きりに近く、ということで
今回決まったのが…
「敦賀さん、用意できました?」
「できたよ。遅くなってごめんね」
「大丈夫、全然遅くないです」
様子を見に来たらしい彼女にそう答えてから手招きをした。
近づいてきた彼女が俺の方に歩み寄る。
「朝ごはんね、簡単におにぎりにしたから。車で食べればいいかなって」
「うん、ありがとう」
彼女に遅れること30分くらい。
昨夜の帰宅が遅かったせいで、出かける準備に少しだけ手間取ったけれど、これも予想の範囲内。
何より、今回はそんなに急がなくていい。
いつもより時間もたっぷりあるし、行こうとしているところもそんなに遠くはないところだし。
抱き寄せた彼女は白いワンピース姿で、なんとも夏らしい。
肩で紐を結ぶタイプだから露出過多な気がしなくもないけれど、すごく可愛いからまあいいか。
俺も一緒なんだし、なんといっても、Summer
Vacation。
「じゃあ行こうか?」
「はいっ」
ドアを閉めてから2人分の荷物を持つと、彼女が麦わら帽子を手に取った。
ワンピースに良く似合うだろうなと思いながら、彼女がそれをかぶった様子を想像すると、
その想像の中でワンピースの裾が風にはらりと翻って彼女が楽しそうに笑う。
とても鮮やかな風景がもうすぐ現実になるのを楽しみに思いながら、エレベーターに乗り込んだ。
2010/08/01 OUT