七夕は、幼い私にはどこまでもロマンチックなお話。
…だった。
だいたい、怒られるくらいにお互いに溺れるなんてバカのすることよ。
仕事を放ってまで、1日中2人でいたりなんかして。
自分の務めをきちんと果たしてからこそ、権利を与えられるんじゃないの。
それこそ、愛する人と一緒に過ごしたり。
なのに、ずーっとベタベタしてりゃ、怒られるに決まってるわよ。
ほんとバカ。
それで1年に1回しか逢えないんだから世話ないわよね。
自業自得もいいところ。
…一向に天の川が見えそうもない夜空を見上げた私の脳裏に、
激しくすさんでいた頃の思考回路が蘇ってきた。
ただ頭に思い浮かべただけなのに、なんだかバツが悪くなって、
上目遣いでそっと彼の表情を確認する。
「ん?」
「やっ、な、なんでもないです…えっとあの」
「また何か見えてた?普通の人には見えないもの」
すぐそこにあるけど、暗くてなかなかわからない敦賀さんの表情。
クスクスと忍び笑う口調からして、きっとまた私に少し呆れてるんだろうな…。
だって…。
あまりにも自分の手のひら返しが衝撃的で、なんだか少し謝りたくなったんだもの。
織姫と彦星に。
2人の気持ち、というか行動。
今ならわかる。半分だけね?
好きな人とずーっと一緒にいたいな、っていう想い。
だけど、一緒にいたいからって本当に何もかもほったらかしてしまうのはやっぱり無理よ。
お互いが目標になったらダメなの、きっと。同じ目標に向かっていけるようにならなくちゃ。
2人の抱く目標が、ずっと2人でいることなら、それに向かっていけばいいだけのこと。
それをしなかったから、怒られたのよね。自分の立場や責任を忘れてしまったから…。
なんて…単なる伝説なのにあれこれ考えてしまうのは多分、私にも大切な人ができたから、かな。
さっき、2人の気持ちがわかるって思ったのは、一緒にいたいって想うことだけ。
敦賀さんのことは好きで、そりゃあ、できたらずーっとそばにいたいって思うけど、
私と敦賀さんの関係を、そんな風に自分勝手なものにはしちゃダメだし、できない。
それに、私はだいぶ欲張りになったから、自分ががんばったことに対しては、
敦賀さんのこと以外にもきちんと報われたいもの。
でも、私にとっては敦賀さんが一番のご褒美。それは多分、あの2人と同じよね。
「晴れますように、って祈ったんだけどね」
「大丈夫、ほら、こうしたらきっと見えますよ…?」
私が天の川を見たがってることを知ってた敦賀さんが残念そうに呟く。
少しは心残りだけど、平気。
目を閉じればまぶたに浮かぶでしょう?
私が見せてあげる。とっておきの天の川。
心で念じて振り向きながら、敦賀さんにそっとキスをした。
敦賀さん…見えてる?
これが、私がいつもあなたからもらってる、いっぱいの星空。
あなたは私の心にいつも、たくさんの小さな瞬きをくれるの。
だから、私は迷わないで済む。迷わずに、あなたと歩いていける。
でも、本当に1年に1回しか逢えなくなったら、どうしよう?
…やっぱり織姫と彦星みたいに、その日を励みにして1年がんばっちゃうかもしれない。
ああもう、人のこと、言えない…。
こういうの、何ていうんだったっけ?
人の振り見て…?
2006/07/07 OUT