年始 / 09:寝正月

From -OHTERS

カチャカチャ…トントントン…
パタパタパタ、と室内を走り回る足音、そして食器がぶつかる音…
何かを切る音?

そんな物音の中で目が覚めた。
少しだけ、重たい身体を動かして、隣にいるはずの恋人の
スペースへ手を伸ばした。

いない。

そうだよな…あれは彼女がキッチンで立てている音だ。
考えをめぐらせて、そしてベッドで1人、心の中があたたかくなる。
1人で目覚めた新年の朝だけれど、彼女が隣にいないことが寂しいのではなく、
こうして同じ空間にいられることがたまらなく嬉しい。
俺の為に、2人の為に何かをしてくれようとする彼女が愛しくて。

それに、今日は新しい年の初めの日、だし。

君と一緒にいられるだけで、
あまり気に留めたりしなかったカレンダー上のただの1日が
この上なく特別な日に、なる。
2年越し、のキスをして、それから隙間もなく繋がって…
こうして新しい朝を迎えて、
それを何度も繰り返して、2人の歴史を少しずつ紡いでいきたい。

「敦賀さん、目、覚めました?」

恋人が眠っていたシーツ跡をするすると撫でていると
そんな声と共に彼女がベッドルームに入ってきた。

とてもとても艶やかな、着物姿。

「おはようキョーコ…あぁ…綺麗だね、すごく。よく似合ってる」
「えへへ…お正月だから、着物着ちゃいました」

小さな頃から着慣れているという着物。
それにたがわず、振袖姿がとても板についている。
この姿のままで食事の用意をしていたんだろうか。
それとも、準備を終えてから着替えたのかな…
俺が眠っているうちに起きだした彼女が、食事を用意する。
こういうことは、別に初めてじゃない。
何度もあるけれど、どうしてだろう、今日は、すごく…嬉しくて幸せだ。
これも、新しい年が連れてきてくれたのかな。それとも、君かい?
きっとそうだな。
朝陽が眩しくて、嬉しそうに俺の方に手を伸ばしてくる彼女が…眩しくて。
そして限界に達した可愛いと思う気持ちが暴走して、彼女をベッドに引っ張り込む。

「きゃ…ちょ、敦賀さんっ、お雑煮できてますからっ」

こうやって一緒にいられるのって、あとどれくらいなのかわかってる?
もちろん、お雑煮もおせち料理も君と一緒に食べるけれど…
着物の君をまず最初に…食べたいな。

だから。

「もうちょっとだけ、寝正月、していい…?」



2006/12/31 OUT
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