私の唇を覆っていた彼の唇が離れていくのをぼうっとしながら見送る。
濃密なキスの名残が唇の上で密やかに踊るのを感じて、
その口寂しさから、もう一度キスを求めてしまいそうになるのをなんとか押しとどめた。
この人と、何度そんなキスをしてきたか、今ではもう数もわからない。
だけど、数はわからなくても、どれも大切な想い出、になってるのかな。
キスを交わすのが当たり前になった今も、こうして彼とキスをするのは、特別に好き、なの。
この先もきっと、キスをする相手は敦賀さんだけ。
「な…に…」
「ん、冷たい、かな…?ごめんね」
狭い車の中で、倒したシートに横たわる私の身体を、敦賀さんの指が滑りながら弄んでる。
煩悩って108個あるって言うけれど…敦賀さんと、それから私には、
もしかしたら108個じゃ足りないくらい、あるのかもしれない。
だって、もうすぐ新しい年を迎えようかというところなのに、こんな風に「いけない」ことをしちゃってるなんて。
最初はちょっとしたドライブで終わるはずだった。
だけど大晦日の何となく浮かれた気分が、私と敦賀さんをそっと後押しでもしたんだろうか。
セックス、とまではいかないけれど、時々するドライブで交わす唇だけのキスには終わらなくて
結局こんなことになってる。
それを、ダメだと思いつつも、敦賀さんに手を伸ばしておねだりする時点で、私ももちろん同罪なわけで。
「ひゃんっ…あ…」
「気持ち良い?」
さっき敦賀さんが私の身体につけたものが、細かく震えだした。
柔らかめのテープか何かでぴったりと張り付いていて、それがピンポイントな場所にあるから、なおさら。
敦賀さんに舐められたり吸われたりするのとはまた違った感触が、快感に切り替わって身体を駆けていく。
そうでなくても、敦賀さんにあれこれされるのに慣れた身体がすぐに準備を始めてしまうのに。
「あ…っ…」
エアコンが効いていて寒くはないのだけど、スカートの奥に少しだけ冷やりとした風が忍んでくる。
下着の上からそこに触れた敦賀さんの指が、何かを確認するかのように何度も往復する。
奥に飲み込もうとする私と、表面にただ指を滑らせる敦賀さんが、まるで駆け引きをしているみたい。
いつの間にかタオルみたいなものが、私の下に敷かれてる。
じゃあ、シートを汚す心配なんてしなくてもいいんだ、とか、
身体がまだ少しだけ冷静さを残している分、頭が妙に回る。
「ん、洪水…してるみたいだ」
そう呟いた敦賀さんが私の脚を持ち上げる。
膝を折るようにして身体に押し付けると、露になった場所に唇をつけた。
多分、どろどろに濡れてしまっているんだろうと思いながら、
彼が私に与えるものに次第に溺れていく。
「ん、あ、あぁ…っ…あんっ」
指と、それから舌で触れられたところは、
自分の身体の中で一番、敦賀さんを感じてきたところでも、ある。
こんなところでも敦賀さんにそうされれば簡単にこんな風になってしまう自分が不思議で、
でも今までを思えばちっとも不思議じゃない、
そんなことを散漫に考えながら一度目にそこへたどり着き、熱を逃がすように息をつくと
さっきまでのとはまったく別の感触を覚えた下半身に驚いて敦賀さんを見た。
細かく震えるモーター音、生身のものとは違う冷たさ。
あ、多分、あれと同じもの、なんだ。
「敦賀さ…っ…」
気持ち良いだろう?、と、問われて、口とは裏腹に潤んでいく目が、
何よりも雄弁にそれを語っているようで、ちょっと悔しい。
結局、何をされても構わないと私が思ってるから、なのよね。
でも…この人を拒むことは多分、私にはできない。
それに、
私が本当に嫌だと思うようなことは、敦賀さんはしない。
自分の指の代わりに私の中にそれを置いて、
耐え切れずに時々声をあげる私の唇を優しく塞いだ後、敦賀さんは運転席に戻った。
その間にも、増幅されていく快楽が私を揺さぶる。
また、いってしまいそう…
走り出す車の中で、ホテル、行こうか、という敦賀さんの声が聞こえた。
ホテル、って…ラブホテル、かな…
そんなところ、行っても、大丈夫なのかな。
あぁ、お正月だから誰も気づかないかも。
大目に見てもらおう。
何より、このお返しを、敦賀さんにしなくちゃいけないし、ね…。
2009/01/20 OUT