鏡に映った自分の姿を見てみた。
胸元に小さく光るネックレス。
王冠のモチーフとシンプルなプレートがついたとても可愛くて華奢なもの。
ついさっき、もらったばかりのもの。敦賀さんがくれた…もの。
今日は確かにホワイトデーだったけれど、
私は誰かからお返しがもらえるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
バレンタインだって、日頃お世話になってる人に、と思って渡しただけなのに。
恋愛的な意味なんてまったく持たせてなかったのに。
ただ、社さんから敦賀さんのお誕生日を教えてもらってたから、
どうせなら、お誕生日もお祝いさせてもらおうと思って、それで…。
敦賀さんには本当にいつも助けてもらってて、こんな時くらいしかお礼もできなくて…
それなのにこんな物をくれるなんて。
またひとつ、借りを作ってしまったみたい。
それに、男の人にこんなアクセサリーをもらうのは初めてで、改めて胸のあたりがくすぐったい。
そんな意味じゃ、ないはずなのにね。
びっくりしている私にそっと近づいて、慣れた手つきで首に掛けてくれた。
あの時のこと、ついさっきのことだけど、思い出すとなんだかドキドキしてしまう。
すぐ近くにある敦賀さんの身体と、首の後ろに触れられた感触。
もらい物だから、と言って、こともなげに私にくれたけれど、
アクセサリーをプレゼントするような相手が、私で…良かったのかな。
敦賀さん、好きな人いるはずなのに…良いのかな。
あの人は優しいから、きっと気を使わせちゃったのかもしれない。
お誕生日を祝ってくれたから、とも言ってたけど
本当に、おめでとうございます、ってくらいで、大したこと、してないのにな。
誕生日に、誰かに「おめでとう」って言ってもらえるのってすごく嬉しいから、私もそうしただけで…。
自分が生きてることを喜んでもらえてる気がするから。
もらい物、だなんて、本当は高そうですよ?敦賀さん。
多分嘘はついてないと思うけど、じゃあ、敦賀さんにくれた人って誰なんだろう。
どうして、敦賀さんがつけられないレディース物をあげたんだろう?
改めて、胸元で揺れる王冠にそっと指で触れてみた。
いろいろ考えちゃうのは、もうやめよう。
すごく可愛い。敦賀さんが私に、ってくれた。
これはもらい物で、敦賀さんが持ってても仕方のないもの。
そして、ホワイトデーのお返し。
それで…いいじゃない。敦賀さんだって、きっとそれ以上の意味なんて持たせてないはず。
私だって…敦賀さんは尊敬できる事務所の先輩で、それ以外の何者でも…ないんだから。
お仕事中につけてたら、ダメかな、やっぱり。「坊」なら見えないし、いいのかな。
せっかく敦賀さんがつけてくれたんだから、もうちょっとだけつけていよう。
それから、つけたり外したりしているうちに失くさないように…どうしたらいいかな。
…あ!
そうだ、コーン。
コーンと一緒に入れておこう。
くれた人は違うけれど、どっちも私にって言って、受け取った大切なものだから。
ありがとう、敦賀さん。大切に…しますね。
2006/04/10 OUT