SNOW WHITE -KYOKO

From -MARRIED

「くしゅっ…!」
「ほら、だから言っただろう?マフラー要らないの?って…」
「だって…」

お天気は雪。
窓から見える白い街が嬉しくて、敦賀さんに教えたら、「散歩にでも行こうか」って。
寒くないように、ちゃんと用意したつもりだったの。
手袋は…敦賀さんと手を繋ぐから片方だけ。コートに毛糸の帽子。
冬のおでかけの準備は万端だった。
…ひとつだけを除いては。

「そんなに首元が開いてたら、寒いに決まってる。ほら、これしてて」

思わずクシャミをしてしまった私に少し怒りながら、敦賀さんが自分のしていたマフラーをかぶせてくれた。

「あったかーい…」

そう呟いて隣の敦賀さんを見たら、もう怒ってはないみたい。

「今度はちゃんとマフラーもすること」
「はーい…」

私の視線に気付くと、優しく微笑んで、そう言ってまた歩き出した。
手を繋ぎながら、私も並んで歩き出す。

「東京でもこんなに雪が積もるなんて知らなかった」
「京都は…積もらない?」

京都は…そんなに積もらない。

「すっごく寒いの。でも…雪が積もったのって数えるほど…じゃないかな?」

遠い日の記憶を手繰り寄せる。
底冷えのする寒さと…乾いた空気。冬は、鋭く刺さるような季節だった。
速度を上げて身体を通り過ぎる、千切れそうに冷たい風。
今日みたいに、穏やかな寒さとは違う。
もっともっと誰かと身体を寄せ合いたい、それでも埋められない、そんな…寒さ。

「雪が積もるのって、寒いけど、でもなんだかあったかい気がしない?」
「そう…かな」
「うん、雪がこうやってたくさん積もったらなんだかワクワクして、
 こうやって出かけたり雪だるま作ったりしたいなって」
「じゃあ…あとで雪だるま、作ろうか」
「ほんと?」
「ん。部屋に持って入れるように小さめにして」
「あ、じゃあ早くしないと溶けちゃう、ね、早く帰ろう敦賀さん」

雪だるま!
雪だるまってテレビで見るみたいに大きいのばっかり想像してたから
作ってみようかななんて思いもしなかった。雪がたくさんないと、ダメだもの。
でも、敦賀さんにそうやって言われて、途端にすごく嬉しくなって、
彼の手を引っ張るようにしてもと来た道を走って戻る。
時々足を取られかけながら足元を見ると、既に道路の雪は溶け始めてる。
出てくるときはもうちょっとあったはずなのに、雪。

「あ、あそこの雪すごく綺麗!あれだったら大丈夫?」
「あぁ、そうだね。少しあれば小さいのはできるから」
「じゃあ私、頭の部分作るね」

慌ててマンションまで戻ってきたところで見つけた新雪のままの白さが残る雪。
私と敦賀さんは小さな雪だるまをひとつ、作った。

*

「お部屋に持って入ったらやっぱり溶けちゃうよね…」
「でも、外にあってもいつかは溶けるんだよ」
「そんなのわかってるけど…」
「置いてくる?」
「やだ、持って帰る。ねえ、冷凍庫に入ると思う?」
「その大きさじゃ、ちょっと無理じゃないかな、冷凍庫は…」

エレベーターの中でも、もう私が持ってる雪だるまからはポタポタと雫が落ちている。
隣から敦賀さんのくすくす笑いが聞こえてきた。
どうせ、子供だなぁ、とか思ってるんでしょう?いいもん。

部屋の鍵を開けて、すぐに窓まで走って雪だるまをベランダに出した。
溶けちゃうのは…もちろんわかってるんだけど、でもなくなっちゃうまでは見ていたいな。

だって、敦賀さんが作ってくれた雪だるまなんだもん。

「ほら、コート脱いで、マフラーも」

窓に向かってしゃがみこんでいた私の後ろから声が聞こえて
敦賀さんが私からコートを脱がせていく。
それから、さっき巻いてくれたマフラーも。

敦賀さん。
出かける前にね、マフラーもちゃんとしようと思ってたんだよ?
でも…あなたがマフラーをしてるのを見て、ちょっとだけ思っちゃったの。
そんなに敦賀さんとくっついて、いいな、マフラー…って。
ヘンだよね。
マフラーに包まれて、あったかそうな敦賀さんの顔を見てたらうらやましくなった。

あなたは、外に出て私が「寒い」って言ったら、きっとマフラーを貸してくれる。
風邪を引いたらシャレにならないんだけど、ちょっとだけイタズラ、しちゃった。
だから、敦賀さんの熱があったかくて嬉しくて。

雪がある街の冬はなんだかあったかい。
そう思うのは敦賀さんが貸してくれたマフラーのせいだったのかも。
それとも、敦賀さんがそばにいてくれるから、なのかな。
今はマフラーがなくても大丈夫。
一緒に歩いたり、雪だるま作ったりしたから。

私が敦賀さんのマフラーなんかになっちゃったら、そんなこともできないんだもんね。
でもマフラーじゃなくても私がいることで…ちょっとはあったかいなって思ってもらえるかな。
コートを仕舞うその後姿にぎゅっと抱きついてみた。

「ん…どうした?」
「…内緒」

あったかい。敦賀さん、だーいすき。

「もしかして、お誘い?」
「なっ…違いますっ」

そうか、まだ明るいからね…じゃあ、夜になったら、する?
なんて笑いながら私の方に向き直ってぎゅーってしてくる。
もう…敦賀さんのバカ。当分しないっ。
…でも、離れてやんないんだからね。
寒い日は、こうやってくっついて過ごすの。
外でも、おうちでも。

そうだ、敦賀さん。
今日は雪が降ったから、夕ご飯はみぞれ鍋にするね。
ビールもまだあったはず。
一緒に夕ご飯なんて久しぶりだから、お話しながらゆっくり食べましょうね?



2006/02/21 OUT

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