ひとりの夜。
こんな日は、ベッドに潜るといつも敦賀さんのことを考える。
一緒に暮らし始めて結構経って、2人での生活が当たり前になって
でもだからといって、ひとりでも平気かっていうとそうでもない。
ううん、平気。平気なんだけど、寂しくないかと言われたら
そりゃあ、少しは寂しかったりする。
結婚して、恋人同士の時みたいに夜帰る時間のことを気にしなくて良くなったり、
それこそ、敦賀さんと一緒にいる時間が比べ物にならないくらい増えて、
夜お別れしなきゃいけない寂しさなんかと無縁になると思ってたのよね。
実際に結婚してからやってきたのは、恋人同士とはちょっと違う寂しさ、かな。
どっちにしてもそういう気持ちはあるんだなあ、って感心しちゃった。
だってやっぱり寂しいもん。
根っこにはちゃあんと、ゆるぎないものがあるんだけれどね。
一応ね、今日は朝も逢ってるし、お昼には電話もしたし、昨夜も一緒に眠ったし。
だからその時にきちんと言ってあるの。
ただ、朝はやっぱりばたばたしてるし、昨夜は日付が変わってすぐに寝ちゃったし、
じっくり今日のことを想う時間がなくて、結局こんな夜更けになっちゃった。
仕事から解放されて2人で眠るこのベッドに帰ってきてからやっと、
私は今日の…敦賀さんの生まれた日のことを想う。
誰でもそうだと思うんだけど、大好きな人の生まれた瞬間って、知らない。
もちろん私は敦賀さんよりも年が少し下だから当たり前なんだけど、
だからその分、想像力を駆使してみる。
本人に話を聞いたり、当時のことを知ってる人に話を聞いたりも、する。
一緒にいられなかった頃の敦賀さんに少しでも近づきたくて。
タイムマシンがあればきっと私、逢いに行っちゃうかも。
もちろん影から見てるだけ…にしておくつもりだけど…どうかな。
大好きな人のことを知るのって、とっても嬉しい。
それが、今の彼のことでも、昔の彼のことでも。
知らなくてもいいことだってもちろんあるんだろうけれど、
そんなんじゃない、好きな食べ物とか、クセとか、そういう些細なことでちっとも構わない。
いろんな過去が今の敦賀さんを創ってきたんだし、これからの敦賀さんを造っていく。
私は、一緒にいるようになってすごく長いとは言えないけれど、
これからの敦賀さんのことはずーっとそばで見ていたいな。
なんだかあくびが出てきちゃった。
ダメダメ、今日は遅くなってもやりたいことがあるんだから、起きて待ってないと。
そんなことを思いながら携帯電話を眺めていたら、ディスプレイが光るのにやや遅れて、
着信音が鳴り響き始めた。誰だろう、なんて思わなくてもすぐわかる。
こんな時間に私に電話をかけてくるのはひとりしかいない。
「敦賀さん?」
『もしもしキョーコ?あと10分くらいだから。遅くなってごめん』
「ううん、大丈夫。気をつけてね」
電話での会話が短い分だけ、逢えた時にたくさんお話できる。
それに、そんな会話が、長い付き合いって感じがして、そんなこともとても嬉しく思える。
私はもうお風呂も終わってパジャマ姿だけど、電話を切ってすぐにベッドから出た。
リビングには、ワインクーラーにワイン、それから少しだけ食べ物も。
冷蔵庫にはケーキ。お茶の用意もしなくちゃね。
そう、もうすぐ終わってしまうけれど今日は敦賀さんのお誕生日。
敦賀さんの帰りを待ちながら、パジャマのまま2人きりの小さなパーティの準備を始めた。
夜に少し時間が持てた時にはよくこんな風に2人で何かを飲んだり食べたりするの。
そうやっていろんなことを話して、触れ合って…キスをして。
忙しい毎日の中でコミュニケーションを取るための、2人の時間。
もちろん、今日みたいな特別な夜もいつもの夜も、私にとっては大切な、ふたりの夜。
早く帰ってこないかな、敦賀さん。
あ、ピンポンが鳴った。
「はーいっ」
2008/02/10 OUT