午後からの予定が変更になって、マンションに着いてもまだ日が高い。
思いがけずもらえた半日のオフに心が沸き立ってしまう。
仕事はもちろん大切だし、予定が延びた分は後々俺にも負担になってくるんだけど
それより何より、今日は彼女が丸々オフで家にいるはずだから。
何も言わずに帰ってきたから、ビックリするだろうな。
電話しようかとも思ったけど、驚かせようと思いなおして連絡は入れずにいた。
チャイムを鳴らしてから玄関を開けても、いつも迎えに出てきてくれるはずの姿がない。
おかしいな、まだ3時だし、眠ってるわけじゃないと思うけど。
どこからかはわからないけど物音は微かにしてるみたいだし、いることはいるんだろう。
「キョーコ…いないの?」
「おかえりなさいっ、お仕事は?どうしたの?」
廊下を抜けてリビングへ向かうと、キッチンから出てきた彼女がビックリした様子でそう言った。
手には泡だて器とボウル。
それをテーブルに置いて、俺の方へ近づいてくるのを抱きとめた。
彼女の腕を取ってそのままソファに座り、おかえりなさいのキスを待つ。
「ん……ただいま」
「おかえりなさい…ね、どうしたの?こんなに早く帰ってくるなんて…何かあったの?具合悪いとか?」
矢継ぎ早に質問を浴びせてくる彼女の頬にキスをひとつ残してから種明かしを始めた。
不意打ちの帰宅で、計画は成功したけれど、本当に心配そうな表情をしてたから…ちょっとだけ悪いことしたかな。
大丈夫、何もないよ。ただの、予定変更。
「ちょっとね、予定が変更になって」
「なんだ、そうだったの…よかった」
「寂しかった?」
朝からなんだか慌ててたから、君はそうでもなかったかな。
出かける前にくれたキスの後も、いつもどおりに笑いながら手を振って。
2人の休みが合うなんて、数えるくらいしかないから、
いつも君が休みの時には、出かけるのをやめようか、なんて少し思うんだよ。
すぐに思いなおすんだけどね。
仕事はもう1つの俺の居場所でもあるし、
離れている時間が、君のところに帰ってこれることをこの上ない幸せだと教えてくれるから。
「…ちょっと、だけ」
ささやかな俺の問いかけにそう答えてはにかむ笑顔。
でも、多分俺の方が君より寂しかったかな。
早く帰れることになって少しそわそわしてたのを、あっさりマネージャーに見抜かれたりして。
予定が狂うのはあんまり好きではないけれど、こういう風に君と過ごせる時間が増えるのは大歓迎。
「今ね、ケーキ焼いてたの」
「ああ、そうか…お客様が、来るんだったね」
「ん。もうちょっとでオーブンに入れられるから、ちょっと待っててね」
座っていた俺の膝から下りて、ボウルを持ち直しながらキッチンへ向かうその後を追う。
キッチンに入ると、甘い香りがそこらに漂うのがわかる。
ケーキ型と、余熱されてるオーブン。いちごのパック。
「普通のケーキ?」
「うん、生クリームのデコレーション。オーソドックスにいちごがいいかなと思って、いちごも買ってきたの」
「楽しみだね」
「お客様に出すのが先なんだからね?」
「わかってる」
俺がコーヒーを入れていると、生地を流し込んだケーキ型をオーブンにセットした彼女が
生クリームを泡立て始めた。
何度か彼女のケーキを食べたことはあるけれど、そういえば作るのを間近で見るのは初めてだ。
真剣な顔つきで砂糖を量ったり、泡だて器で一生懸命泡立てている様子がなんとも可愛らしい。
キッチンで何かをしている姿は見慣れてるはずなのにね。
どうしてこんなにも可愛いんだろう、君は。
「味見してみます?」
様子を隣で眺めていると、泡立て終わったのか彼女がそうやって俺の方を向いて笑いかけた。
ん、そうさせてもらおうかな。
でも…そのまえに。
「ほっぺについてる」
「うそっ。きゃ…」
気付いてなかったのか、彼女が驚くのを見ながら頬に飛んでいた生クリームをそっと舐め取った。
唇を離してから、頬を押さえて真っ赤な顔をしている彼女にもう一度キスをしてみる。
先に味見をしていたらしい彼女の方から生クリームの甘さが伝わってきて、絡む舌がより甘く思えて。
「ん…」
そのまま進めていくと、彼女が俺に縋りついてきた。
服を掴む手に触れてみると、少しだけ震えて。
唇を離してから彼女の指先にそっとキスをしながら目線を合わせると、
その瞳が少しだけ潤んでいるのが見えた。
俺の触れるスイッチが的確なのか、それとも彼女の身体が素直すぎるのか…。
吸い込まれるようにして耳に口づけた後、舌をそっと差し込んでみる。
「んっ…つ…るがさんダメだってば…」
キョーコ…君が言う「ダメ」は、否定には聞こえないよ?
どこを舐められても、感じてしまうんだよね…よく知ってるよ…。
そうして君は無意識に、君の全てで俺を煽るんだ。
ずっと一緒にいられるのに、って、
こうして隙を見ては身体を求めてしまう俺に君は少し怒ってたけど、求めてるのは身体だけじゃない。
そんなの…わかってるだろう?
想いが通じてからも一緒に暮らし始めても、その気持ちが弱くなったことは、ないんだよ。
今夜は少し、時間をかけられるかもしれないけれど、今だって少しなら…例えば、ケーキが焼けるまで。
唇は重ねたまま、彼女の身体に腕を回す。
解放した後、不安そうに、でも濡れた瞳でこちらを見つめる彼女に微笑んで、
それから身体を回転させた。
同じ向きで、後ろから圧し掛かるようにして抱きしめながら。
俺の愛撫に可愛く啼いて応えてくれる君を、見せて…。
「敦賀さ…ん何…あぁん…」
裾から手を滑り込ませ、滑らかな肌に手を這わせて小ぶりなふくらみを包むように揉み上げる。
俺の手に合わせて形を変えるその柔らかな感触を愉しんだ後、布を下げて先端を摘んでやると
少しだけど、甘く乱れた声が聞こえ始めて。
「もう…そんな声出ちゃうんだね…」
もっと聞かせて。
そんな言葉の代わりに、胸の先を指で弄ぶ。
快感を求めて硬く立ったそれを転がすたびに漏れる密やかな吐息。
そして悲鳴にも似た声が耳に届く。
君をこんなにも淫らに溶かしていく、そんな特権が許されてることと、
俺の前でだけは、感じるままの姿を見せてくれていることが嬉しくて仕方がない。
だから…我慢しないで、もっと…乱れて。
「あっ…あんっ…」
スカートの中に手を忍ばせて、下着をそっとずらしてからその繁みの先に指を伸ばすと
微かにとろりとした液体が絡みつく。
自身の声に、それから胸への愛撫に反応して、すでにもうひくひくと震え始めてるのが伝わってきた。
熱く、少しだけ狭い奥の方へ進入させると途端に締め付けられる感触。
それから、平行して彼女が一番気持ち良いところを捏ねるようにして触れていく。
少しずつ滲んでくる蜜をくるくると円を描くように塗りつけながら、その他の指を少しずつ増やし奥をゆっくりと穿つと
シンクに手を付いて、彼女が我慢できない風に腰を揺らめかせる。
指の動きに合わせて上げられる声と、指にダイレクトに伝わる粘膜と蜜がこすれあう音。
俺自身で気持ちよくさせてあげるのもたまらなく好きだけど、
こうやって君が可愛く淫らになっていくのを見るのは、それと同じくらい気に入ってるよ。
今も、切羽詰まったように呼吸と声のピッチが上がっていくのを見てるだけで俺もすごく興奮してる。
でも今は君を気持ちよくして、気持ちいいって啼く君、それだけを見ていたい。
ねえキョーコ、もう…いきそう?
「いっていいんだよ…?キョーコ…」
愛撫を少し強めて、奥を優しく抉りながらかき回す。
耳に吐息と舌を送り込むようにしてそれを促す言葉を囁くと、僅かに身を硬くした後
彼女自身が、中を蹂躙していた俺の指をきゅっと絞り込む。
ほら…気持ちいいだろう?もう…すぐ、だよ?君も、わかってるはず。
「も…ぅっ…あっっ…あ…っあぁ…!」
彼女が甘い叫びを発したのと同時に、オーブンが焼き上がりを知らせる音を鳴らす。
タイムリミット、なんとかおさまったかな。
「あ…スポンジ…見てみないと…」
ぼんやりした様子だった彼女だけど、オーブンが鳴らしたアラームに気付くと、
着衣が乱れたままふらつく足取りで俺の腕から抜け出してすぐそばのオーブンへ向かう。
そうか、すぐに取り出して冷まさないといけないんだっけ。
「危ない、俺やるから」
「ん…」
「座ってて?」
彼女の指示通りに、ケーキクーラーに取り出したスポンジは、ほとんど完璧に焼けているように見えた。
漂うバニラの甘い香り。デコレートされる生クリーム。
それでやっと彼女と同じくらい…いや、それでもやっぱり彼女の方が、甘いかな。
生クリームのケーキよりくせになる甘さ。
もちろん、俺のお姫様は甘いだけじゃないんだけど。
「これでいい?」
「ん、ありがとう…」
床に座り込んだままの彼女を抱いて、自分も床に座り込む。
腕に閉じ籠めてぎゅっと抱きしめると、
いつもセックスの後にするみたいに、唇で触れるだけのキスをねだる。
素直に唇をくれる彼女に甘えて、短い口付けを何度も繰り返す。
焼きあがったばかりのスポンジ台が冷めるまではこうやってくっついてても怒られないかな。
これからしばらくは、もうすぐやってくるお客様に君を取られちゃうからね。
「夜、続きしてもいい?」
「…ダメって言ったって…するくせに…」
2006/03/24 OUT