あなたの… -KYOKO

From -LOVERS

もっと手が大きかったら良かったのに、と時々思う。
私の手。
そんなに小さくもないんだけれど、あの人のそれに比べたらずいぶん違う。
あの人の手は大きくて、私の頬なんかすっぽり包み込まれちゃって、
その手を空に伸ばしたらきっと星だって掴める。
できないことなんて、何もないんじゃないかと思うの。
そして、そんな大きな手でいろいろとこなしていく彼のことを
私はいつもとても羨ましく思う。

自分の手を天井にかざしてみた。
少しだけ伸びた爪にピンクのネイル。
これは…我ながら上手く塗れてる気がする。
うん。今度は何色を塗ろうかな。敦賀さん、また褒めてくれるかな。
眺めているうちに視界がぼんやりとしてきて、
ふと、この手があの人のそれに包まれる時のことを思い出す。
そうやって手を繋ぐのが私は大好き。
大きな手にぎゅっと掴まれているのが、本当にあったかくて幸せ。

あ…そうか。
包み込まれるために、あの人のより、小さいのかな。私の手。
女の子は、大好きな人に包み込まれるために、何もかもがちょっとだけ小さいのかな。
敦賀さんは私よりもだいぶ大きいから、抱きしめられたとき、私の体は本当に、すっぽりと包まれる。

「気分はどう?」
「ん…大丈夫です…」

敦賀さんが静かにベッドサイドにやってきた。
聞かれたことにそう答えると、敦賀さんは安心したように微笑む。
私は、ベッドに横になっている私の頬をさらりと撫でた、その手の次の動きを目で追う。
見つめていると、私に触れた時の速度とはまるで違う風にするすると動き、
あっという間に持ち主の身体に服を着せていく。

うっとりと見つめているうちに、なんだか胸がドキドキしてきた。
手を繋いでいる時の温度。私の肌を滑る時の指の感触。
大きな手の指先。
ごつごつとしているのにすらっと長くて、そんな手に身体のどこかを触れられるだけで、
そこから伝わる「敦賀さん」が、私を少しずつ融かしていくの。

触れたい。
そう思って、ベッドに置いていた手をふっと持ち上げた。
ねえ、敦賀さん…いつもみたいに、手を繋いで…?

出かける支度を終えた敦賀さんが、ふと私の方を向く。
今度はベッドに腰を下ろしてそれからゆっくりと私の方に身体を寄せた。
ダメ、移っちゃうよ、敦賀さん。
だけどそんな私の心の声とは反対に、さっきと同じように大きな手が頬に触れる。
その手を離さないように上から自分のそれを重ねて、
気持ちよさに目を閉じると、今度は額に何かが触れる。やわらかい、もの。
きっと敦賀さんの唇。おでこに、ちゅー…かな。
えへへ。

「まだ少し熱い。ちゃんと寝てなきゃだめだよ?」
「はーい…」
「…ひとりで大丈夫?」

こくん、と頷いた。
大丈夫じゃない。寂しい。なんて言ったら敦賀さん、本気にしちゃいそうね。
困らせたいわけじゃなくて、なんだか本当に少し心細かったりも、するの。
だからね、敦賀さん。
もう少しだけ、私に触れていて。その大きな、私の大好きなあなたの手で。
その温度と感触を、あなたが帰ってきてくれるまで、ずっと憶えていられるように。
あなたのお部屋だもの。寂しいけれど、大丈夫。
あなたと過ごしたたーくさんの記憶が一緒に、いてくれるもの。

「じゃあ、行ってきます。なるべく電話してみるけど、寝てたら無理に出なくていいから」
「ん、行ってらっしゃい…気を、つけてね」

電話、約束だからね。
それから今日は、なるべくはやく、帰ってきてね。
…さすがにこれはわがままか、な。

敦賀さんがベッドルームを出て行くのを見送る。
さっきまで彼の着ていたバスローブがベッドに無造作に置かれているのを見て
私は自分の手を伸ばしてそれを掴み、引き寄せた。
ふわりと漂ってくる敦賀さんの香り。
ふふ、今日はこれにもずっと一緒にいてもらおう…っと。

あなたの…何もかもが好きよ、敦賀さん。
大きな手も、優しい声も、あったかい身体も…何もかも。



2007/01/24/ OUT
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