メリークリスマス。 -REN

From -LOVERS

「敦賀さんっ」

期待はしていなかったと言えば多分嘘になる。
恋人、であると同時に同じ事務所に所属しているというのは
俺と彼女を繋ぐもう一つの絆みたいなものだ。
第一、それがなければこの世界でめぐり合うこともなかったかもしれないし、
ましてや恋人同士になれたかどうかもわからない。
君に出逢えたから、この世の中で奇跡と呼ばれるものが
自分の身にも降って来るんだと実感したんだ。

近づいてくる恋人にそっと微笑んだ。
抱き寄せてしまいたいところだけどここは人目につく場所でもあるから
とりあえずやめておいた。
クリスマスの飾り付けが仰々しい、LMEのロビー。
ロケーションだけなら、最高なのに。

「もう上がり?」
「はい、敦賀さんは?」
「俺はもう少し、次はTBMに移動」
「そういえば社さん…」
「用事があるみたいで、上にいるよ」

こうして外で偶然に出逢うのはとても嬉しいんだけど、
どこか他人行儀な感じがなんとなく寂しい。
自分もそう振舞っているくせに、彼女の言う「敦賀さん」までもが
ただの先輩に対しての言い方みたいで。
ここ、では仕方のないことなのに、いつもみたいに呼んで欲しい。
なんてワガママな感情が首をもたげてくる。

「実は私も用事があって寄ったんです」
「そうなんだ、なんならそこまで送っていこうか?俺も社さん気になるし」
「じゃあ一緒に行きましょう」

少しだけでもいい、2人きりになれる場所がないかと考えていた矢先の
彼女の言葉に我ながら耳ざとく反応したと思う。
用事があるということだからあまり時間は取れないと思うけど
どうしても今日、言っておきたいことがあるんだ。

「階段、行きませんか?」

エレベーターに乗って少しした後、彼女がこっそりそう呟いた。
階段…ああ、時々こうして事務所で偶然逢って時間が取れるときに
2人で行くあの場所のことか。

「あれ、用事は大丈夫?」

だけど用事があると言っていたのに、そんなところに行く時間なんかあるんだろうか。
そう思って彼女の方を見ると、彼女は俺に向かってにっこりと微笑んだ。

「嘘です」
「え?」
「ほんとは、用事なんて大したことなくていつでもいいことなの。
 敦賀さん、次移動しちゃうって言うから今しかないかな、って思って」
「そうだったんだ…嬉しいな」
「え?」
「少しだけでも、2人きりになりたいって思ってたから」
「ふふ、明日はゆっくり逢えるのにね」

そうだね。
明日、2人でクリスマスをしようって約束してる。
いつものことながら、なかなか24日や25日に恋人としてゆっくり過ごすことはできないけれど
それでも2人で逢える日があればいつだっていい。
そう思っているのに、やっぱり今日逢えたことが、予想外で素直に嬉しい。

イベントごとが好きな君のために。
嬉しそうな君を見るのが何よりも幸せな俺のために。
それから、君と俺をこの地上に送り出してくれた神様がいるなら、神様のために。

踊り場に着いてすぐに何かをカバンから取り出そうとした恋人をぎゅっと抱きしめた。
さっきからずっとこうしたくて仕方なかった。
彼女を腕の中に閉じ込めたことで、やっと「恋人」に逢えた、そんな気がして目を閉じる。
わずかな時間でも、こうやって君と過ごせることが本当に幸せだ。
クリスマスは、大切な人にめぐり逢えた幸せを感謝する、そんな日なのかもしれない。
少なくとも、俺にとってはそういう日だ。
だから。

「メリークリスマス」

耳元にそう囁いた。
君も、俺と同じ気持ちであってくれたらそれ以上の幸せはないのに。
そう思いながら。

今年最初のメリークリスマスを、君に。


2007/12/25 OUT
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