24/7 -KYOKO

From -LOVERS

目を開けたら敦賀さんの顔がすぐそこにあった。
彼の目も半分くらい開いてて…そう、いつもの神々スマイルで私を見てる。
何度も何度もそうやって私に微笑んでくれるのを見ているはずなのに
いつ見ても、顔から火が出そうになるくらい照れてしまう。
普段、人がいるところでは見せないその笑顔を独り占めしていることが
彼の想いを言葉の代わりに改めて教えてもらってるような気がするから、かな。
好きだよ、って…。

もう、やだな、私ったら。
朝っぱらから何考えてんだろ。
でも、敦賀さんの笑顔に逢えるのは…やっぱりすごく嬉しい。
私…私も大好きです。
って…なかなか面と向かっては恥ずかしくて言えないのだけど。

どれくらいこうして見つめられてたんだろう。
私が目を開けたのも、柔らかく射るような視線を感じたからなのかな。
ねえ敦賀さん、私、眠ってる時ヘンな顔してなかった?
ヘンな顔だなあって思いながら見つめてたんじゃないよね。
うるさいくらいにドキドキする心臓の音を遠くに聞きながら、
目を逸らせずにいると、敦賀さんの手がにゅうっと伸びてきた。

あ…

その大きな手が私の頬に触れるのをスローモーションのように眺めていると、
おまけなのかなんなのか、敦賀さんの顔までもが近づいてくる。
唇を見つめていると、何か呟いてるみたい。

なあに?何て言ってるの?

そうこうしてるうちに、敦賀さんの唇が額に触れた。
触れられたところがじんわりと熱くなる。
熱に導かれるまま、顔を包み込む敦賀さんの手をぎゅっと握り返した。
そのまま敦賀さんは、その柔らかでほんのり熱い唇を額からまぶた、頬に滑らせる。

「すべすべで…気持ちいい…」

なっ…あ、朝から何言ってるんですかもう…
唇を私の頬に押し付けながら敦賀さんが言った言葉に、ますますドキドキしてしまう。
き、気持ちいいって、敦賀さんが言うと何か違う…って、そういう風に想像する私も私だけど…

そんなの、敦賀さんの方が、すべすべですよ…

敦賀さんの頬に伸ばした指先をするすると滑らせてみると
本当に滑らかでつるつるでしっとりしてて、なんだかうらやましい。
ずーっと触っていたくなっちゃう。
手のひらや、指先で知る敦賀さんの感触から離れられなくなって、
しばらくずっと、敦賀さんの頬に触れていた。

そして、そんな間も私が敦賀さんにされてるほっぺたへのちゅー。
何度も繰り返されるうちに感触がくすぐったくなってきて、
目を閉じたりうっすら開けたりを繰り返してると、やがて唇同士がふっと触れた。

やっと…キスしてくれた。
ほっぺやおでこが不満なわけじゃないけど…やっぱり唇へのキスは特別。
これをするから、私と敦賀さんって本当に恋人同士なんだって、思えるの。
忍び込んでくる彼の舌がすごく甘い。
ねえ、もっと…キス、して?
舌と同じように指同士もぎゅっと絡ませる。まるで先をねだるよう。
朝なのに…おはようのキスのつもりなのに、何分こうして触れ合ってるんだろう、私達。
お仕事…準備しなきゃ…ご飯の準備もして、敦賀さんに食べてもらわなきゃ。
ああ、でも、もう少し、もう少しだけキス、してていい?

目を閉じている分、敦賀さんの感触がとてもよくわかる。
唇の柔らかさも、舌の感触も、少しの隙間から零れる吐息も、手のひらの熱も。
それから、私に少しだけのしかかってる敦賀さんの身体の重みも。
お仕事は別なんだもん。今日お別れしたらしばらく逢えないかもしれない。
敦賀さんのことちゃんと覚えていたいよ。だからもう少しだけ私に触れていてくれる?
離れてても、大丈夫なように。敦賀さんのこと、思い出して幸せな気分になれるように。

控えめに射す光に照らされたベッドルームの中で、キスをしている私達以外、時が止まったみたい。

*

ピピピピピピ…

「ん…」

すぐそばで鳴り響く携帯電話のアラーム。
いつものように手を伸ばした。指先でスイッチを探り、音を止める。
何もかもが予定通りの行動。いつもの景色。

え?

も、もしかしてさっきのって、夢、なの?

混乱する頭を押さえながら上半身をがばっと起こした。
隣を見ると、敦賀さんがまだ眠っている。
ああ…敦賀さんの部屋にいたのは同じだ…。
だけど、さっきの濃厚なおはようのキス、は…夢、なんだ。
ででででもっ、夢とは言っても、ものすごーく、リアル、だったんですけど…。
思い起こしながら指で唇に触れてみる。
その途端に、さっきの夢の中のキスがまざまざと蘇ってくる。
触れた指よりも先に唇が思い出すのは、敦賀さんの唇の感触。

というか、私、昨夜さんざん敦賀さんとくっついてたのに、
えっちするどころか、その前のお風呂まで一緒に入ったのに
食事の準備をしてる途中でさえ、敦賀さんがべったりくっついてて
もう、食事の準備が出来ないです、なんて言ってたくせに
ゆ、夢に出るほど敦賀さんのことを考えてるなんて…!

こ、こういうの何て言うのかしら…?色ボケ?…違う?
恋人同士になってもうずいぶん経つのに、私の頭の中、敦賀さんだらけなのね。
想いを交わして、繋げ合った頃からずーっと、そう。
ううん、きっとその頃よりもひどいくらい今、敦賀さんのことで頭がいっぱいなのかも。
触れている時は、敦賀さんと一緒の時は、彼から流れ込んでくる「敦賀さん」でいっぱい。
そばにいない時には、一緒にいる時に補給しておいた「敦賀さん」で幸せ。
私の中にきっと、敦賀さん専用の場所があるのね。
だから、お仕事の時も、お仕事以外の時も変わらずに敦賀さんを想っていられる。

だけど。まいったな…私、欲求不満みたいじゃない。
思わず苦笑い。
そんなにもずーっと「敦賀さん」で満たされてるはずなのに、
夢の中でさえ、敦賀さんに逢いたくて、あんな夢を見てしまう。
ああ…そうか、一緒にいても、眠っている時には別々なのが寂しくて、
夢でも一緒にいたくて、敦賀さんが夢に出てきちゃうんだ。
なんて甘えたがりなんだろう、私。
敦賀さんと一緒にいると、強くなったり弱くなったり、甘えてみたくなったり。
自分の知らなかった私がたくさんいることに気付かされる。

恋をするってすごいことなんだな…。
そう思いながら改めて敦賀さんの寝顔を見つめた。
恋人じゃなかった頃は、敦賀さんに恋をする前にはそんなこと、考えもしなかったくせに
こうやって無防備に眠りこけてる顔なんか見たら、可愛い、って思っちゃう。
こんな時には、敦賀さんのことをぎゅーって抱きしめたくなる。
体格がかなり違うから、抱きしめられてるって言ったほうが正しいのかもしれないけど、
敦賀さんの身体に包み込まれてるとき、私も彼を抱きしめてる気分なの。
あ、でも…可愛い、なんて面と向かっては言えないかな。

「…敦賀さん、だーいすき…」

さっきの夢の中で、言葉に出来なかった想いが口から滑り落ちた。
敦賀さん、私の中は24時間×7日間ずっとあなたでいっぱい。
あなたは、どう思ってくれてる…?

しばらく眺めてるうちになんとなく、眠ってて動かない敦賀さんじゃ、物足りなくなった。
夢とは逆に、そっと敦賀さんの頬にキスをする。
それとも、そばでじっと見つめてたら、いつか起きてくれるかな。

ね、敦賀さん、早く起きて?
おはようのキス。いつもみたいにいっぱい、しようね。



2006/10/17 OUT
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