欲望を彼女の中に解き放ち、それと共に深く息をつく。
少しだけ先に達した彼女の身体が、その快楽の大きさを示すように
何度も小刻みに痙攣しているのを、とても満ち足りた気持ちで眺めた。
包み込まれている感触を改めて自身に感じていたくて、静かに動きを止めた。
薄い膜に隔たれているとはいえ、もう3回…
数えられるだけでも、始まりと終わりを3回繰り返したおかげか、
2人の身体の温度が同じくらいになってる気がする。
君の持つ熱に侵されて…俺の熱で燃えさせて。
身体を宥めるように、短い呼吸を繰り返す彼女。
その肌に手を添えてから、そっと覆いかぶさった。
そんな俺に応えるかのように、彼女が俺の身体をぎゅっと抱きしめてくれた。
隙間なく身体を重ね合わせて、やがて世界の全てが彼女になる。
君とただセックスに没頭するのも好きだ。
自分が経験として知っていたものとはまったくの別次元での快感に
毎回目が眩みそうになる。いや…既に眩んでるか。
何度身体を重ねても不思議とそれは変わらない。
だけど、それが終わった後の気だるく甘い時間も、同じくらい好きなんだ。
特にこうして繋がったまま、ぽつりぽつりと言葉を交わして
眠ったり、時にはまた激しく求め合ったり。
余韻を噛み締めようとして目を閉じたら、彼女の手が頬に伸びてきた。
俺の頬の上でさわさわと動くそれを自分の手で捕まえて、
その代わりに、額に唇を押し当てた。
キョーコ…それは4回目へのお誘い?それとも、俺が目を閉じたのに気付いて?
大丈夫、君をおいて眠ったりなんかしないから。
君の身体にうっとりしてしまってるだけなんだ…。
「どした…?」
「ん、なんでもない…」
夢うつつのように呟く声を聞きながら、額にくりかえしキスを降らせた。
捕まえた彼女の手に自分の指を絡ませながら、身体ごと摺り寄せて、
恋人の肌の感触を全身に記憶させることに夢中になっていく。
肌と肌を触れ合わせることが、こんなにも気持ちいいものだとは思わなかった。
自分よりも大切な存在が確かにそこにいてくれるという証拠。
その熱が、自分の心の中に溜まっていった何かをじんわりと溶かしてくれている気がする。
何のしがらみもない、まっさらな自分で、好きだという気持ちだけを持って彼女に向き合える。
身体を重ねることが増えていくにつれて、もたらされる快楽よりもそのことがただ、幸せで仕方がない。
絡めた手を口元に寄せて、綺麗に彩られている彼女の指先にキスをひとつ。
君は、俺とこうして身体を繋げている時は、何を考えてる…?
「気持ち良かった?」
戯れに思ったことを口にしてみる。
事後のどことなくゆったりとして気だるい空気の中でなら
彼女も少しは普段口にできないようなことも言葉にしてくれるから。
今日の俺は、君に優しくできたかな。
君に触れてる時の君の表情を見てる限りでは、とても感じてくれてたみたいだけど、
君に無理を強いたりは、しなかった?
ああ…でも、今日もすでに3度も求めてしまってたね…。
貪るように求めるよりも、君の身体を丁寧に愛して味わって…
そんな抱き方が、やっとできるようになったのかな、と、
最近はそう思ったりもしていたのに、まるで反対だ。
俺も、まさか自分がこんな風になるとは思ってもいなかったんだ。
君が…普段はあんなに可愛くて、少女みたいに笑う君が、
こうやって、恥ずかしがりながらも身体を預けてくれて、
俺に応えて、快楽に溺れていく様を全て曝け出して見せてくれる。
ただそれだけのことも、俺を変えてしまうには十分すぎるくらいだった。
溺れてる。
自分で認めるまでもなく、君に…どうしようもないくらい溺れてるよ。
こうして、身体を繋げている間にも、満たされたと思ったところから乾いていく。
求めずには、いられなくなるんだ。わかってもらえるかな…。
ストレートな俺の問いに、少しだけ頬を染めて。
頷くでも首を振るでもないけれど、その表情から読み取ることだってできる。
長い間こうしていたから、君の方から先に眠ってしまうかと思っていたけれど、
今日はまだ起きててくれるんだ。身体も離さないでいてくれてるし…。
腕の中で目を伏せている恋人の表情を伺いながら、
もう一度、今度は明確な意志をもって、身体にそっと触れてみた。
頭に顔を埋める。
甘い香りに酔って、目を閉じながら、
さっきまでの快楽の渦の中に自分を溶かしていくような感覚を思い起こす。
飲まれるように喘いで、全身で俺を受け入れてた彼女の様子も。
「ん…」
愛撫のくすぐったさに思わず漏らす君の吐息すらも、逃すまいと。
どうしてそんなに可愛いかな。
可愛くて、綺麗で、そのくせ、こうして身体を重ねれば
恥ずかしがりなのにどこまでも妖艶で淫らだなんて本当に…
もう…止められなくなるよ?
矛盾してるかもしれないけど、今日はまだまだ君の体温に溺れていたい。
いいかな…いいよね?
「あ…、ま、敦賀さ…ん?」
いつの間にか彼女の中で少しずつ力を取り戻していた自身。
伺うように腰を少しだけ動かしてみると、彼女が少し困惑した表情を見せた。
あぁ…そんな顔して見せるから…
「もいっかい、しよう?」
目を細めてそう告げると、慌てたように彼女がパクパクと口を泳がせる。
本当に、わかりやすいね。
でも、やめてあげられない、かな。
「っ…もいっかいって…もう3回も…っ」
うん、そうだね。
ここまで来たら、もう何回でも構わないような気がするんだけど、君はどう思う?
ほらもう…君が欲しくて仕方ないってくらい、大きくなってる。
それに。
「まって、今の訂正っ…」
ん?間違ってないよ。
そして、今日初めて身体を繋げてから今まで、それと、これからしようとしてるのも入れると
「じゃあ、4回目」
4度目も、天国に連れて行ってあげる。
彼女の答えを待たずに、隙間なく繋いでいた指と指の間を摺り合わせる。
さっきから少しずつ施していた愛撫が、効果を連れてきてくれたみたいだ。
ぴったりとくっつけた下肢を揺らめかせてみると、そこから微かに濡れた音が聞こえてくる。
ほら…ね…
表情だけで促すように、彼女を見つめた。
水の膜を纏ったみたいにとろんとした瞳がこちらを捉えたかと思うと
腕が伸びてきて、引き寄せられるままに唇が重なる。
柔らかいそれが触れたかと思うとすぐに、彼女の舌が俺を探るようにもぐりこんできた。
思いがけないキスに、身体が大きく反応するまま深く応えてしまう。
ああもう…キョーコ、そんなことされたら…
そうか…これが、俺のお誘いに対する答え、なんだ…
もう、君には本当に、敵わない。
我慢できずに手を伸ばして、彼女の身体を奏で始めた。
快楽の淵に手をかけながら。
4回目を誘ってるのは俺だったつもりなのに、
思い返してみればきっかけは彼女の方だったような気がする。
君を精一杯リードしてみてるつもりなのに、本当は違うのかもしれない。
気付いたら捉われてる。
そして、それはひどく魅惑的でやめられない。
…本当に、君に溺れてる…
2006/10/01 OUT