騒がしい会場をこっそりと後にした。
廊下を走り出すと、魔女の帽子が勢いに負けて飛んで行きそうになって、
それから、風になびくマントが自分でもちょっとだけ格好良い気がする。
これでホウキでもあれば完璧なのにね。
ホウキはないけど、建物の中だし、走ったら多少は似たような感じになるかも。
自力でワープした先は、とある応接用のお部屋。
似たようなお部屋はたくさんあるし、もう夜も遅いから、多分周りの部屋にも誰もいないはず。
そう思って敦賀さんは私をここの部屋に呼んだのかしらね。
「失礼しまーす…」
ノックもしないで部屋に入ると、室内は真っ暗だった。
びっくりして電気を付けようとしたら、その手を誰かにつかまれる。
「わあっ」
「つかまえた」
誰かって言ったってここにいるのは敦賀さん1人なんだから、推測する必要もないけれど、
でもいきなりなのはやっぱりびっくりしちゃう。
「びっくりした…」
「お菓子いらないから、悪戯、してもいい?」
だいたいこの人は、少し体調が悪くて抜け出してる、とかいう理由をつけて
わざわざこの部屋に私を呼び出したの。
それも…社さんを使って。
もっとも社さんは、そんなこととっくにお見通しだったみたい。
ごめんねキョーコちゃん、ちょっと行ってやってくれる?なんて、苦笑い、してた。
当たり前よね…前科がどれくらいになるのかも、数え切れないほどだもの。
だけど社さんや周りの人のそういう協力なしには、2人きりで逢うなんてきっと不可能だから
周囲の人たちには感謝しか、ない。特に…社さんには。
今度、何か差し入れでも用意しなきゃ。
「疲労回復には甘いものがいいんですよ?お菓子食べてください」
「じゃあ食べさせて」
小さなチョコレートを敦賀さんに渡そうとして包み紙をほどいたら、
敦賀さんがすばやくそのチョコレートを自分の口に加えて、それから私の唇にそれを押し付けた。
いきなりのことでたじろいだものの、仕方がないからお菓子ごしのキスに応じる。
チョコの中からブランデーか何かがとろりと零れて、私と敦賀さんのキスを秘密めいた香りで満たしていく。
やがてチョコがなくなって、微かに残る甘さが互いの唾液のそれだけになっても、何度も繰り返す。
「も…息が…できないです…」
「可愛いね、その格好」
吐息の質感が変わってきてることにちょっとだけ危機感を覚えながらそう呟くと、
敦賀さんから返ってきたのはまったく違う言葉。
キスが終わったと同時に室内の明かりをつけた敦賀さんはといえば、吸血鬼風の仮装をしてる。
…それがすっごく格好良くて、一瞬で鼓動が跳ねる。
気づかれたら、どうしよう。何されても…許してしまいそうで。
「こんなに可愛い魔女になら悪戯されたいけどね」
「…耐えられますか?」
「もちろん、望むところだよ」
売り言葉に買い言葉で、そんな言葉遊びに応じてみたけれど、ややあってから敦賀さんが私をぐっと抱き上げた。
そのままソファに座らされる。
ううん、正確に言えば、そのあとすぐにソファに寝かされた。
「と思ったけど、やっぱり俺にさせてもらおうかな」
「も…」
嫌?と紡ぐ口が、私の是非を問うような口調じゃないから、思わず笑っちゃう。
こんな格好のままここで、今から人には言えないようなことをしようとしてるのも多分、ハロウィンの仮装のせいかな。
拒否する前に、いつも敦賀さんにされることを思い出す身体が一人歩き、してしまう。
喧騒を離れての、2人だけのハロウィンパーティ。
抜け出してきたことも、きっとみんなにバレバレなんだろうな…。
「電気…」
「消さない」
「もう…」
お菓子をくれたから、じゃ、ないんですからね?
こんなとこで明るいままでするなんて、今日だけなんですからね?
そんな格好で私に噛み付いたからって、仲間になるわけじゃ、ないんですからね?
2008/10/31 OUT