You are my Sunshine -KYOKO

From -LOVERS

「どした?」

2人でキッチンから出たところで、すぐ前を歩く敦賀さんの後ろからぺたりと抱きついてみた。
触れたいと思うのはよくあるけど、まさか人前でそういうことはできないから、
実際に触ってみるのはこうして2人きりの時が多い。
逆に言えば、2人きりの時はべたべたし放題、なんだけどね。
わ、私はそんなに触り放題なんてしないわよ?
そういうのは敦賀さんの専売特許だもの。

…さっきと言ってることが矛盾してる。
適度に、触れたいと、思うの。
好きな人に触れたいと思うのは、普通よね?
おかしくない、よね?

「あったかい」
「体温高いっていうからね」

後ろから巻きついた私の手を取りながら敦賀さんがそう言った。

「映画見るのやめる?」
「なんでですか?」

なんで体温の話から映画をやめるって方向に…と頭をぐるぐるさせてたら、
敦賀さんがいつの間にかこちらを向いていて私をぎゅーっと抱きしめてる。
このままベッドもいいかな、なんて言いはじめたので慌てて却下。
ど…どうせ映画の後は有無を言わさずベッドなんだから…っ。
あぁ私何言ってるんだろ…

テレビに映るのは、少し昔のヨーロッパ映画。
ゆったりとした雰囲気の中で画面を静かに見つめる。
映画を見るのは勉強の意味もあるけど、敦賀さんと一緒だと少し違ってくる。
まるで、映画館デートの代わり、のような感じ。
何を見るか、より、誰と見るか。
そんなのも映画鑑賞の重要なファクターなのかな、って、敦賀さんとだと、思う。

誰かと一緒に過ごすことの意味を、私は知っているようで知らなかった。
自分以外の人が近くにいると、その人から発せられている微かな熱が
空気から伝わって、視覚とは別の感覚を通じてそれを私に教えてくれる。
ただそこに、その人が存在していること。
世界にひとりきりじゃないこと。
自分の存在を許容してくれる人がいること。
ただ誰かと同じ空間にいることが、そんなものへと通じてる。

相手が敦賀さんだとなおのこと、はっきりと感じられる。
恋人同士、だからなのかな。
私はそういう相手を持つのは初めてだから、他に比べようがないのだけど。
その人の存在はときどき言葉よりも強く、そのことを自覚させてくれる。
受け入れてくれる人がいて、存在自体を許されていて。

だけどこうして隣にぴったりくっついていると、いろいろな理屈をつけて考えてることが
もっとシンプルになっていく。
敦賀さんから流れてくる彼の体温があったかくて、
寄り添ってるだけでまるでひなたぼっこしてるみたい。
彼の存在にただ、感謝したくなる。
私と一緒にいてくれることより前に、ただ、そこにいてくれてありがとう。
そんな気持ち。

敦賀さんの肩に頭を乗せていたら、私を抱く手に少しだけ力が入る。
上を見やると、流れるような手際のよさで敦賀さんが私の額にくちづけた。
離れた唇からかかる吐息がほんのり熱くて目を伏せるとすぐに、唇もふさがれてしまった。

直前に見た画面の中は、ラブシーン。
もしかしてタイミング合わせたのかな、なんて考える暇もなく何度もキスをした。
離れては触れるたびに、少しずつ姿勢を変えながら、
次第にそれだけでは済まなくなりそうな雰囲気に包まれていく。
絡ませた指も、重ねた唇も、交わす吐息も…みーんな…熱い。

それがどっちの熱なのか、もうわからないくらいに混ざり合っていく。
何度目かのキスの後、唇を離してから敦賀さんの胸に頭をつけて目を閉じた。
少しずつ熱を逃がしていくように静かに呼吸を整える。
敦賀さんももう、次へと進めようとはしないで、そのまま抱きしめてくれてる。

よく抱きしめられるとは思うけど、私も決して敦賀さんのことは言えない。
そばにいると自然の手が伸びていって、彼の身体にまわしてしまう。
そして、全身でその存在を感じることで、ものすごく安心する。

抱きしめられているときに目を閉じると、暗い中にキラキラする星空が見えているのだけど、
最近は、宇宙に浮かぶ太陽みたいな気がしてる。
私が…地球かな。
太陽がいなければ、生命活動の何もかもが不可能。
うん。
何もかもが、とはいかないかもしれないけど、
敦賀さんがいなかったら多分今の私はいないし、生活も全然違うし、
知らなかった頃にはもう戻れないんじゃないかって、思う。
なくてはならない人、になりつつあるもの。

暗い中に絶対的な安心感と、自分自身で強烈に光と熱を放ってること。
小さく煌めく夜空の星よりずっとずっと強い存在。
一緒にいたら、身体だけじゃなくて心もぽかぽかになるし、
やっぱり、君は僕の太陽だって言葉がぴったりくるのかな、って思ったり。

「終わったから…始めようか?」

しばらく神妙な気持ちになってたのに、
そんなセリフと一緒に敦賀さんの手がカットソーの裾から入ってきた。

……こういうのも含めて、この人は私の太陽、なのよね?
そうなの、よ、ね……?


2010/5/25 OUT
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