SPECIAL TREATMENT -KYOKO

From -LOVERS

あ、まただ。
また私、敦賀さんに見惚れてた。
そう気づいて、あわてて敦賀さんから視線をそらした。
…違うの。別に、見ててもいいんだし、それについて誰にも何も言われることはない、んだけど。
だってここは敦賀さんのお部屋だもの。

私があの人に見惚れちゃったりするのは、今に始まったことじゃない。
敦賀さんは、芸能界イチ良い男とか、ナンバーワン俳優とか
そんな風に言われちゃうくらいだから、本当に格好いい、んだと思う。
もちろん、私だって格好いいって思ってる。
好きになってからはもちろん、こうして恋人同士になってからも、
見つめられたり目が合ったりするとドキドキが加速しちゃうし、
横顔を見てるだけでも、体温が少し上がっちゃうみたいだし、
毎度毎度、敦賀さんには本当にドキドキさせられっぱなし。

優しくて、それ以上に情熱的でまっすぐな瞳とか、
敦賀さんが動くたびに一緒になって揺れるさらさらした髪とか
整った顔とか、そこに浮かぶいろいろな表情…
私のほうがとろけてしまいそうな笑顔とか、誘う時の色香たっぷりの微笑みとか
もう、すべてにドキドキしてる。
本当に、私の全部が敦賀さんに向かって溶け出してしまうくらい。

だけど私は、敦賀さんの見た目を好きになったわけじゃあ、ないの。
見目の良さは、後からくっついてきた感じかな。
格好いいから好き、なんじゃなくて、好きになった敦賀さんが
たまたま格好よかった、っていうことかしら。

本当は内緒だけど、シミュレートしてみたことがある。
敦賀さんのほかにも芸能界には格好いいって言われてる人がたくさんいて、
そういう人たちと、こんな風になったら…どう思うかなって。
違う意味ですっごくドキドキしたけど、やっぱり違うの。
そこで初めて気づいたわけじゃないけれど、
外側と中身とセットで敦賀さんなんだ、って改めて思った。
敦賀さんの顔は大好きだけど、中身が違ったらきっと、今みたいにときめいたりしない。
顔で好きになったんじゃないって言っておきながら矛盾してるかもしれないけど、
その反対でも多分、違うって思っちゃう。
今あるものすべてひっくるめて存在してるのが、あの人だから。

洗濯物をたたみ終えて、敦賀さんの様子を窺ってみた。
私がまだ洗濯物と格闘してると思ってか、敦賀さんも自分のことをしてるみたい。
何か本を読んでる、のかな。
少し離れたここからでもわかるくらい真剣な目つきをして、本と向かい合ってる。
時折ページをめくる指の動きが綺麗。
休日だから服装がラフで、それがいつものオンの服と同じくらい似合ってて、
かえってセクシーな感じさえ、しちゃう。

あぁ、芸能人としての敦賀さんのファンってこんな感じなのかな。
触れることのできない距離から、ただ、好意だけを持って見てる。
私もこんな気持ちになったことはあるのだけど
それは、敦賀さんへの想いを1人でもてあましていた頃。
芸能人とファン、っていう立場ではなくて、中途半端に近かったからやっぱりそういうのとは少し違うかな。
気持ちがつかめなくても、言葉を交わすことは当たり前だったから…全然違うかも。

でも、なんていうかな…
やっぱりちょっとだけ、同じようなところがあるんじゃないかなとも、思う。
敦賀さんのことを、もっといろいろ知りたいと思ったり、
いろんな表情や、動作、所作なんかを見てみたいと思ったりするのは、私だって同じだもの。
そうだ。写真集なんか、そんな感じよね。
写真だからもちろん動きは止まってるんだけど、いろんなパターンの敦賀さんがたくさんいて
カメラのほうを向いてたり、遠くを見ていたり、テレビでは見ることができない表情を見せてたり。
テーマが設けてあったりして、例えば部屋で過ごしてるっていう設定だったりとか、
ドライブとか、見ている人を巻き込んでデート風、とか。

「ん?」
「な、なんでもないですっ」

いつの間にか敦賀さんが私のほうを見つめて不思議そうな顔をしてた。
慌ててそう取り繕って顔の前で手を振ると、敦賀さんが私に向かって手招きをする。
なんだろ?
洗濯物を床においてとりあえずソファに近づくと、いきなり伸びてきた敦賀さんの腕に
つかまれたと同時にバランスを崩した私は、敦賀さんの上に倒れこんでしまった。

「きゃあっ」
「捕まえた」
「…な、何するんですかもう、びっくりした…」

突然のことに驚いている私を見て敦賀さんはくすくすと笑った。
笑い事じゃないってば…ほんとにびっくりしちゃった。
とりあえず姿勢を整えてから、敦賀さんの膝の上に座ってみる。

「何、考えてたの?」
「へ?」
「さっき。すごく嬉しそうにニコニコしてたから」

な…!
ちょ、ちょっと待って。ほんとにいつから見てたのかしらもう…。
あなたのことですとは、言えない、けど。
言えないけど!

「…写真集」
「ん?」
「写真集のお話って、ないんですか?」
「誰の」
「敦賀さんのです」

あながち嘘ではないわよね。
敦賀さんの、写真集のことを考えてたわけだし。
私の唐突な切り返しに、敦賀さんが乗ってきてくれてちょっとだけほっとする。

「ない、かな?そもそも俺、そんなに出したことないよ、写真集」
「そうですか?売れてるアイドルとか、若い俳優さんとか、出すじゃないですか」
「それがどうかしたの?」
「あ、えー…っと、こんな風にお部屋でゆっくりしてる敦賀さんの写真集とか…いいんじゃないかなって」
「そんなこと考えてたんだ」
「うん。だってこんな風に過ごす敦賀さん、テレビの中からじゃわからな─」

そこまで言って、私はあることに気づく。
さっき考えてた、敦賀さんの写真集ってこんなのがいいかなっていうイメージ、
全部私目線から見た敦賀さん、よね?そうよね?

「いや、な、なんでもない…ですっ」
「…2人の間に隠し事は無し、だったんじゃなかったっけ?」

そう、それはそうなんですけどっ!
こんなの、隠し事にも何にもならないじゃない。
写真集がいいんじゃないかなとか思ってた理由が実は、私が見たいから、だなんて言えるわけない。
さらには、それが実際に出版されたりしても本当は面白くない、なんて。
今更気づいた事実に、自分の顔が真っ赤になっていくのがわかるのだけど、
どうすることもできないで、ただ言葉に詰まってしまう。

はああ…。
意外と、というか、想像通り、というか、私ってやっぱりすごく欲張りなんだ。
恋人のいろんな表情を見たいって思うだけじゃなくて、本当はそれを全部ひとりじめしていたい。
こんな風にゆるく流れていく時間の中にいる敦賀さんを知ってるのは私だけでいい、だなんて。
さっき思ってたことと見事に矛盾してるわよね、わかってる。
だってここにこうやって座ってて、私を膝の上に乗せてくれて、極上の微笑みを見せてくれてる敦賀さんは、
他の誰でもない、私の恋人、なんだもの。
ここで過ごすすべての敦賀さんは、私だけが見ることができる特別な彼。

「まあ、いっか…」

顔を赤くして黙っている私を楽しそうに見つめていた敦賀さんが、
そう言って私をぎゅっと抱きしめた。
キスしてもいい?なんて唇が触れる手前でそっと呟く。
ダメって言ったってするくせに。…ダメなんて、言ったことはほとんどないけれど。

こうして2人でいたらすぐにキスしたがるなんて、誰かに話してもきっと信じてもらえないかも。
それどころか、寝起きで少しだけ、うつろな感じとか、ちょっとだけ髪についた寝癖がすごく可愛いとか、
テレビで見せるラブシーンなんかよりずっとすごい、ベッドの上で私に囁いてる時の夜の帝王っぷりとか、
車を運転してる横顔がちょっと楽しそうだとか、お風呂上がりで濡れた髪が破壊力抜群なくらい色っぽいとか、
そんなのみんなみんな、私しか知らない敦賀さんだもの。
そういうのを全部見せてもらってるだけじゃ足りなくて、
いつでもそんな敦賀さんに逢うためにはどうすればいい?…だったら写真集なのかな?
なんて考えてたんだ、私…。

じゃあ…あ、そうだ、カメラ。カメラ買おうかな…。

「…デジカメ?」

唇を離して、気づいたら上下が入れ替わってて、私はいつの間にかソファに横たえられてた。
すぐ上に見える敦賀さんの唇がそんな風に動いて、同時に耳へと届く。
うん、デジカメ。デジカメ買って、あなたをたくさん撮って、アルバム、つくろうかなって。
私だけの特別な、「敦賀蓮 写真集」。

ん、あれ、私…口に出してたの?…どこから、聞いてたの?敦賀さん。

まあ、いっか…



2008/04/30 OUT
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