「じゃあまた明日。お疲れさん、気をつけて」
そう言って自分の部屋へ帰っていく社さんを見送った後、
すぐに車を出す気にもなれずにその場で大きくため息をついた。
車内の時計の表示が、もうすぐ日付が変わることを示している。
23:49。
身体は疲れているはずなのに、気持ちだけが急いて仕方がない。
だけど、どうしても、電話を手に取ることができずにいた。
離れている間、散々彼女との空間を繋げる為に何気なくしていたことが、
今、同じ空気の下に帰ってきた途端にためらわれるなんて。
きっと彼女はもう仕事を終えて帰宅し、もしかしたら夢の中かもしれない。
忙しい毎日。
自分だけのワガママで、彼女を振り回したりするのは良くないことだと知っているのに
時々そんな自制心が邪魔されてしまう。
当然、邪魔をするのも自制しようと努力するのも自分自身なのだけれど。
「やっと日本に帰れるよ。でもそっちの時間だと、マンションに着くのは夜中かもしれないな…」
すぐにでも逢いたいけど、…無理かな。
搭乗前に、帰国時間を伝えるために電話をした時。
自分の願望をごく控えめに呟くと、ややあってから電話の向こうで少し怒ったような声が聞こえた。
「敦賀さん、次の日からまたすぐにお仕事でしょう?無理して私と逢うよりも、ちゃんと休んでください」
俺の身体を心配してくれているのはよくわかってる。
でも…少しの空き時間でも俺に逢いたいとか、思っていてくれたりはしないんだろうか。
にべもない彼女の言葉にがっかりする自分に気がついて、自分の矛盾さに苦笑してしまった。
もちろん…彼女の言うことのほうが正論なのは自分でもよくわかっている。
「気をつけて帰ってきてくださいね…待ってますから」
予想通りとも思える彼女の反応に頭を廻っていたマイナス思考。
だけど、ほんのつかの間のやり取り、その最後の一言で、それは跡形もなく吹き飛ばされた。
いつだって、君の言葉は俺をどこまでも翻弄する。
そして、それがずいぶん心地いい事も、俺はちゃんと、わかってる…。
「うん、ありがとう…じゃあ、またね。連絡、するから」
静かに心を満たすあたたたかな想い。
社さんに促されて搭乗手続きに向かう間も、そして機内に乗り込んだ後も、
はやる気持ちを抑えるのが大変だった。
そこで急いだとしても何かが変わるわけではないのに、本当に本当に、彼女に逢いたくて仕方がなくて。
空港に着いてすぐにメールを打っておいた。
時間も知らせてあるし、これからしばらくの予定も教えてある。
今日は…とりあえず帰って眠ろう。
明日、時間が合えば少しでも逢えるかもしれない。
停めておいた車を再び動かした。
風景が流れ出すと、あることに気付く。
少しだけ遠回りすれば、彼女の部屋じゃないか。
それから、俺は思いついたことを実行するために、進路を少しだけ修正した。
と言っても、それはほんの些細な確認作業のようなものだ。
そこからほんの数分で到着したのは彼女の部屋がある小さなマンション。
何度か足を踏み入れたことのある場所はもう、勝手知ったる、という感じで
彼女が暮らすその灯りの位置までも、頭にしっかりと刻み込まれている。
街灯から少し外れた、影のかかる場所に車を停めて、その位置へ目をやった。
ああ、まだ点いてる。
目に入ったと同時に、何とも言えない安心感みたいなものが胸に込み上げてくる。
今日はこれで十分だ。
心の隙間が満たされていくような、そんな気持ちのまま、
もう少しだけ見ていようと思ったその時、部屋の灯りがふっと闇に帰る。
深夜と言っていいくらいの時間だから、眠ったのかもしれない。
自分が部屋に着いたと偽ってここで電話をしようと思ったけれど、やめておこう。
…おやすみ、キョーコ、いい夢を。
そんなことを呟きながら車に戻ろうとすると、エントランスの前にタクシーが1台滑り込む。
何気なく眺めていると、そのタクシーを呼んだと思われる人が小走りで出てくるのが見えた。
慌しく乗り込むその姿に自分の目を疑う。
変装の為なのか、黒っぽい服装に帽子をかぶっていたけれど、俺がそれを見間違えるはずもない。
キョーコだ。
…何でこんな時間に。
突然の出来事に少し混乱しながらも、慌てて車に戻ると、
走り去るタクシーを追いかけるために方向転換をしてアクセルをぐっと踏み込んだ。
どうしたんだろう、仕事でもないだろうに、こんな遅くにしかもあんな格好をして。
次々と浮かび上がる、運転するのには邪魔ないくつもの疑問を抑えながら
彼女が乗るタクシーの後をつけてしばらく経った頃、それはあっけなく解決した。
タクシーを見失わないようにするのに精一杯で気付くのが遅れたけれど、
この道は…そこで右に曲がるのは…俺のマンションへ行くための経路じゃないか。
案の定、マンションに程近い、植え込みの影になるところでタクシーが停車する。
その横を走り抜けながらタクシーを見ると、下車した彼女が俺のマンションの方角へ走るのが見えた。
きっと。
いや…間違いない。
俺に、逢いにきてくれたんだ。
確信めいた想いを胸に抱いて、駐車スペースへ車を停める。
エンジンを止めるのも、キーを抜くのも、ドアロックをかけるのも、
何もかもがわずらわしく思えて却って手間取ってしまう。
逢いたいと…焦がれていた、もう今日はダメだろうとあきらめていた、
そう言い聞かせていたのが、ガラガラと崩れ落ちていく。
今の状況を言葉で自分に説明するのももう、やめだ。
開いたエレベーターに駆け込んで、自分の部屋がある階のボタンを押した。
永遠に続くかと思われるほどの時間の後、
エレベーターの扉が開くと同時に部屋に向かって走り出すと、
ドアの前で鍵を開けようとしている恋人の姿が飛び込んでくる。
そのまま、スローモーションのように駆け寄って抱きしめ合う姿はきっと
ドラマのクライマックスシーンよりも遥かに感情が昂ぶってしまっていたと、思う。
腕に舞い込んできた彼女の身体をしっかりと抱きしめた。
捕まえる前に彼女の頭から離れた帽子が廊下にひらりと落ちていった。
しばらく逢えないまま海外ロケに出ていたから、直接触れるのはもうどれくらいぶりだろう。
とにかく、その感触を確かめるように、強く、強く…抱いた。
言葉より早く伝わる互いの温度に想いを乗せて。
「逢いにきて…くれたんだ…?」
しばらくしてからの俺の問いかけに、恥ずかしそうに頷いた後、
目線を外した彼女がゆっくりと口を開く。
身体は隙間なくくっついたまま。
消え入りそうな声で、だけど、しっかりと。
「帰ってきたんだって思ったら、どうしても逢いたくて…ごめんなさい、迷惑…でしたか?電話ではあんなこと言っておいて…」
「…いいんだよ…ありがとう」
それだけでもう…十分だ。
迷惑だなんてそんなこと、あるわけないだろう?
君は本当に…。
胸のあたりにある彼女の頭に手を添えて、改めて力を込めて抱きしめる。
飛行機に乗る前のやり取りで、少しだけ拗ねていた自分を思い出した。
逢いたいと思ってくれてもいいのにと、そうごちていたっけ。
彼女は俺に迷惑をかけまいとしてなのか、そんなことはいつもは口にしない。
だけど…十分わかってるはずじゃないか。
俺のことを好きでいてくれていることくらい。
持てる愛情のすべてをきっと、俺だけに向けていてくれることくらい。
「…お帰りなさい、敦賀さん」
誰よりも彼女にそう言って欲しかった。
その言葉を手に入れることができて、呆れるほどの嬉しさを噛み締めた。
「ただいま…キョーコ…」
やっとのことでそう言うと、それ以上はもう、我慢することができなかった。
差を埋めるように互いを強く引き寄せ合い、キスを交わす。
離れていた時間を取り戻すのには、一番の方法のようにも思えた。
不器用な俺と、そして君の、言葉よりも直接的な愛情表現のひとつ。
「…続き、してもいい…?」
何度も繰り返したキスの後、唇を離してすぐに柔らかくその先をねだる。
だけどイヤだって言ったって、今夜は帰さない。
やっと触れられた。今日はもう逢えないと思ってた。
そう自分を宥めたと思ったら、君から逢いにきてくれた。それでも…我慢できるなんて、できるわけないだろう?
だから…もう離したく…ない。
部屋へ入ると、なだれ込むようにベッドルームまで彼女の手を引いて走る。
こんなことは初めてだと思いながら。
いつもはこんなに性急に求めたりはしない。その勢いに呆れてる自分もいる。
だけど今日は…何もかもがもう、我慢できなくて。
ベッドルームのドアを閉めるのも忘れ、2人でベッドに倒れこみ、再び口付けを交わす。
何度も唇を繋げたり離したりする間に、もどかしくお互いの服を脱がせ合った。
すべての衣服を脱ぎ去った後、薄明かりの中。
ベッドに横たわり、自分を見上げる彼女の頬に手を伸ばし、包み込むようにそっと撫でた。
すぐにその手を握り返し、彼女が小さく微笑む。
ねえ、キョーコ。
どれだけ離れてたと思う?
2週間。
たった、2週間だよ。
2週間なんて、普通の恋人だってそれくらい逢えないことだってきっとあるかもしれないのに。
「これからは2週間だってもう我慢できそうにないよ、俺はどうしたらいい…?」
「私も…逢いたくて本当に苦しくて予定が早まったりしないのかなって…思って…ました」
彼女が途切れ途切れに告げた言葉に、少し驚かされた。
いつもいつも好きでたまらないのは俺の方で、彼女はそんな俺をいつも暖かく迎えてくれる。
表面上は年上で余裕のあるふりをしているだけ。
本当は君を繋ぎとめておきたくて必死なだけなんだ。
応えてくれたということは、多少は好かれているんだろうと思っていたけれど
…今こうやって言葉にしてくれたことが、ただただ嬉しくて。
自分よりも大切な存在が確かに目の前にいてくれることが、嬉しくて。
そして、彼女が今日起こしてくれた行動のすべてが、嬉しくて。
窓から差し込む月灯りに、彼女の顔が照らされて浮かび上がる。
少しだけ潤んだ瞳が、どうしようもなく俺を誘う。
「敦賀さん…」
静かに名前を呼ばれた。
やがてその瞳が閉じられ、腕が俺の頭に伸ばされる。
そのまま引き寄せられ、口付けた。
ついばむように繰り返す、触れるだけのキス。
「キョーコ…」
存在を確かめるように名前を呼ぶ。
自分の唇から零れ落ちるその名前すらも愛しくて、胸が苦しくなる。
少し見つめあった後、再び閉じられる瞳、キスを合図に―…。
唇を離した後、彼女の小ぶりなふくらみに手をやって、
手のひらと指で同時に刺激を与える。
ゆっくりと回すように、そして中心の紅い尖りはふたつの指で絞るように。
「っ…あ…」
手を動かすたびに、降ってくる小さな喘ぎ声。
白くなめらかなその肌が手に吸い付くように応えてくれる。
その感触を愉しみながら、やがて指で転がしていたその先端が
快感を訴えるように硬く尖ってきたのを見て、口に含んだ。
彼女に聞こえるように、ちゅ、と音を立てて。
吸い上げるたびに、びく、と彼女の身体が反応する。
「あぁ…んっ…く…」
声を上げるまいと唇を噛んで、
それでも口の端から零れた密やかな声が空気を伝わって届く。
もっと彼女を感じたくて、施している愛撫を少し強くした。
舌で弄るように吸い上げて、ねっとりと転がして、表面を掻くように軽く歯を立てる。
「っ…ん…っ…あぁ…っ」
ベッドに置かれていた手が俺の頭を掴む。
髪に指を絡ませて、もたらされる刺激に耐えるかのようにして。
何度もこうして身体を重ねてきたのに、
まだ慣れない様子の彼女が、微笑ましくてつい笑ってしまう。
愛おしい。
言葉にしてしまえばただそれだけのことが
自分の中でそれ以上の意味を持っていることを知る。
彼女への想いを全て言葉になんて、できるわけがない…。
「…すごくかわいいよ、キョーコ…」
少しずつ乱れていく姿に加速をつけさせたくて、わざと耳元で囁く。
もっともっと…いいんだよ?
彼女が感じている快感に比例するように目元からつたい落ちる涙を吸い取って、
そのまま頬に唇をつけた。
「…キョーコ、ちょっと起きて」
そういって彼女の身体をを起こすと、同じ方向を向かせ、自分にもたれさせた。
胸へ手を伸ばす。
「っ…は…あぁん」
片方の手で胸への愛撫を続けて、もう片方を彼女の口腔内に挿入し、
キスの代わりに指を舐めさせる。
唾液が指に絡まり、ぎこちなく動く舌のぬめる感触に、何かが背中を撫でるのを感じた。
自分で仕掛けておいたくせに、おかしいくらいに身体が震える。
だけど、だめだ…まだ。
「そう…上手だよ…」
俺に丁寧に愛撫を施してくれた口から指をそっと抜き取る。
ちゅく…と音を立てたそれで、名残を残すように唇を撫で、
再び、やわらかなふくらみの頂点へと辿らせた。
先端が指先に残る粘液に飲まれて、くちゅ、と鈍い音を放つ。
「んん…っく…」
先程とはまた違っただろう感触に、
思わずのけぞった頭が肩に乗せられる。
ぎゅっと閉じられた瞳。上気している額にそっと口付けた。
そして、今までもたれかかっていた身体を少し押し返して
乳首への愛撫を続けながら、なだらかな曲線を描く背中へと唇を落とした。
匂い立つそのやわらかくて甘い彼女自身の香りに
めちゃくちゃに攻め立ててしまいたい衝動が煽られる。
肌に押し付けた唇できつく吸い上げることでそれを紛らわせた。
「んぅ…っ」
触れたそばから小刻みに身体が震えだす。
艶やかにもたらされるため息。
それだけじゃとても足りない。もっと確かめたい。
帰ってきたことを…君のもとへ。
もう一度彼女をベッドに寝かせて、閉じられていた脚を膝からゆっくりと開かせた。
高い嬌声がベッドルームに響く。
イヤだなんて言わせない…よ。
開かれた腿の内側を触れるか触れないかの所を
撫でさする。膝から付け根までをゆっくりと。
触れて欲しそうに少し揺らぐ身体を焦らしながら…
それでも俺の方が我慢できなくて…。
「あ、つ、敦賀さんっ…そんな、トコ、やめっ…汚いからっ…シャワー浴びてないからダメ…ですっ」
「ん、汚くなんかないよ?…はやく食べさせて」
彼女自身のその周りから順番に、印をつけて辿る。
すぐに触れられない刹那から、焦れたように少し動かされる身体。
浮かされて僅かに踊り始める腰を押さえつけたまま、
その合わせ目を割り込むように舌でつつくと顔を出す…甘美な…蜜。
「ん…あ……っ」
目をやると、きゅっと閉じられた瞼。
開かれた唇から乱れた呼吸が届けられる。
素直な身体に、喜びを感じながら。でも。
…まだ夜は長いんだから…お楽しみはもっと後…だよ?
「あ、あっ…っは……あ…っあ…ん…」
彼女の喘ぎ声に比例してあふれてくる蜜を舌で丁寧に絡め取る。
あふれそうになっているそこにそっと唇をつけた。
頭に置かれた彼女の手に力が込められる。
「ああっ…ん…っはあっ…」
彼女に聞こえるように、わざとぴちゃぴちゃと音を立てる。
薄暗い部屋にこだまする淫らな水音。
切れ切れに聞こえる彼女の声、吐息。
ほんのり紅くなった身体が、快感を求めるように動き出す。
ともすると浮き上がりそうになる腰をもう一度ぐっと捕まえて
さらに舌を差し込んだ。
入り口をぐるりと舐めまわし、唇全体に含んで吸い上げる。
割れ目をゆっくりとなぞったり、敏感な芽をわざと舌で弾いたり。
その度にあふれ出る液体が、シーツへとつたい落ちる。
「あぁ、や、だめっ…も、ああぁ…」
声のトーンが変わって、彼女が、そろそろ、なのだと告げている。
欲しそうにヒクついているそこに、ゆっくりと指を進入させた。
誘うように締め付けるその奥を、かき回しながら、数を増やして。
数回出し入れさせると、入り口のあたりで受けきれない液が気泡を作り出す。
さっきからとめどなく溢れ出すそれが、シーツにまるく滲んで。
俺の愛撫に素直すぎるほどに反応して
溶け出す身体が…彼女自身がどうしようもなく愛しい。
こういうことできるのも、俺だけだよね?
内側は、とろけるほどに緩められ、ざわざわとうねり、
進入物をさらに奥へ奥へと誘う。
存在を感じさせるように大きくかき回した。
「…は…っあ…ああっ…や…だもぅ…っ」
もう少し、快楽に身をゆだねて与えられるままに乱れる彼女を見ていたい…。
「気持ち良い?…もっと声…ちゃんと聞かせて」
次第に速度をつけて繰り返し、同時に彼女の内側にある敏感な場所を少し強く押しながら
あふれる蜜に溺れそうになっているその蕾を口に含んで吸い上げた。
「ん…あ、あぁっ、敦賀さんっ、あ、は、あぁっだめえ…っ」
ひときわ高い声を上げて、身体がビクビクと跳ねる。
「いっちゃった…ね?」
「…敦賀さ…っ…」
目を閉じて、余韻に身を任せている彼女を抱き上げて、額に口付ける。
もうちょっとしたら、また可愛い声を聞かせてくれるかな…。
少し震えている身体を抱きしめたまま再びベッドに寝かせたその時。
彼女が、俺の唇を求めて手を伸ばした。
交わされる口づけ。
摩擦で痺れたように疼く唇が…もっと…と、求め合う。
「…ん…ふ…っ…」
「ん…」
離れた唇同士が微かに透明な橋で繋がれ、ちゅぷ…と音を立てる。
いつもより積極的に俺を求める彼女が、めちゃくちゃにしてしまいたいほど可愛い。
「気持ちよかった?」
「ん…」
耳元で囁くと、吐息混じりの声にならない声。
「すごくやらしくて、かわいかったよ?」
久しぶりのせいなのかな。
慣らされた身体が全身で、俺を、俺の愛撫を求めて、感じて溺れて…。
だけど彼女はそんな言葉に恥ずかしがって目を閉じてしまう。
快楽に潤みきった瞳を覆う瞼にキスを落とした。
しばらくそのままでいると、
やがて彼女が…もどかしそうに俺の身体に手をかける。
「どうした…?」
「…っ」
なんでもない、というふうに首を振る。
わかってる…。
「…もっと…しようか?」
さっき愛撫だけでイカせたのは…
その後に君から俺自身を求めて欲しかったからで。
ただそれを確かめたかっただけで。
言葉はなくても、俺を欲しがってくれてる。
それだけで…情けないくらいに、舞い上がってしまう。
君も、俺と同じように…欲しいって、思ってくれてるんだよね…。
離れてることがこんなにももどかしくて、
でも、2人だからこうやって身体を繋ぐ喜びもある…だから…、
求めてしまう俺を決して拒まない君が…ただもう愛しくて。
全て受け入れてもらえてることが…ただもう幸せで仕方ない。
もうさっきから、彼女を求めてやまない…俺自身を、
彼女の中にそっと埋め込んでいく。
登り詰めてまもない彼女のそこが、すぐに敏感に反応を始めて
キツく俺を締め付けて…。
長い時間をかけて熱く焦らされていたそれが…俺の意思とは関係なく
彼女にぶちまけてしまいそうなのを、懸命にこらえる。
自分自身にやっと許したその感触を、もっと味わいたくて…。
お互いのため息が重なり合う。
触れ合った肌から、粘膜から…伝わる、熱。
眩暈が、しそうだ…。
自身を全て収め、少し間を置いてから、問うように彼女と目線を合わせる。
気付いた彼女が頷くのを待って、ゆっくりと、それを始めた。
「あ、あっ、あ…っん」
次第に漏れ出す声。
すぐ下で、喘ぐ彼女の表情が、甘く紡がれる快楽を告げる響きが、
そして俺に縋りつく華奢な腕も、包み込んで離さないその場所も
何もかもが、俺を駆り立てて止まない。
いつも優しくしたいと思うのに、身体が走り始めてしまう。
ごめん、もう…。
突かれたように動くスピードを速めていく。
零れる声のトーンが高くなって、
背中に回された手が…跡を付けるように強く押し付けられる。
…キョーコ、気持ちいい?
「…っん…あ、あぁあん、やあぁ…っ、あ、ああ―…っ」
抜き差しを続ける合間にも高まる身体の温度が思考回路を奪っていく。
ただ目の前にいてくれる君が欲しくて…一部分を繋げていても
数センチの距離がもどかしくて、不自然でも、貪るように唇を、舌を絡めては放し、
吐息で交わす会話が短くなってスピードが最高潮に達した頃、彼女の声が限界を告げる。
絶頂を目前にした強烈な締め付けに耐え切れずに自分を解き放つと、
音にならない叫びと共に、彼女が俺の肩に額を押し付けて身体を震わせた。
呼吸を整えて…顔に張り付いた彼女の髪を掻きあげて…
「気持ちよかった…」
「ん…」
今度は言い聞かせるように…耳元でそっと。
君としていて…気持ちよくなかったことなんて、ないんだ…。
欲望のままに、壊しかけるほど攻め立てても、君は俺を拒んだりしなくて
だから甘えてしまって…俺を、受け入れて欲しくて。
愛してるよ。
何度も告げた言葉も、多分この気持ちを表すのには、足りない…。
想いが伝わるようにと、唇で、額やまぶた…頬をなぞりながら
振り切ってしまった彼女の熱を逃がしてやる。
…すると、彼女の手が、そっと俺に触れて。
抱き合うようにして身体を重ねる。
2人でこのまま眠りに落ちよう?次に目を覚ますまで…繋げたままで。
「…だいすき…つるがさ…」
やがて彼女がうとうとする中で呟く。
普段はなかなか口にしてくれないその言葉。
もっと言って欲しくて、俺はこうして彼女を甘く強く追い詰めているのかもしれない。
本当はそばにいるだけで十分なはずなのに…。
今日だって、部屋の灯りを目に焼き付けて、それだけで十分だと思ったのに
姿を見ただけで身体が駆け出してしまっていた。
自分の欲深さを思い知る。
想いを告げられずにいた頃からは考えられないくらい君を追い求めてしまう。
気持ちが繋がったかと思えば…いつも近くにいたくて仕方なくて
身体を手に入れてしまったらその先が欲しくて…
俺だけを見ていて欲しくて。
安心しきった愛しい恋人の寝顔を見つめながら…少しだけ胸が苦しくなる。
君の気持ちは手に入っても、君自身を手に入れることは、できないんだ。
わかりたいと思うだけ、離れていく気がして、そして俺はまた手を伸ばす。
その繰り返し。
永遠に君に焦がれてもがいてる。
そんな俺でも、君は笑って隣にいてくれる…?
「俺もだよ…」
夢の世界へ入ってしまった彼女に、そっと囁いた。
身体で確かめたわけじゃないけど…
それでもやっと、帰ってきたんだという思いが大きくなっていく。
彼女の寝息が届く距離で、ゆっくりと目を閉じる。
同じ熱を持つ君がそこにいる。
帰ってきたんだ。君の元へ。
仕事なら…こういうこともまたあるだろうけど
その度に、こんな想いをするのかと思うと…。
でもとりあえず、今は君のそばにいさせて。
ただいま、キョーコ。
2006/05/08 OUT