「ん……」
2人きりの場所まで待ちきれなかった私達がキスをしているここは、敦賀さんの控え室。
スタジオから程近いこの場所まで持たせるのが精一杯だった。
私も、…きっと敦賀さんも。
ここに入ってきた後、すぐに手をつかまれて抱き寄せられて、そして唇を重ねた。
「…ぁ…もう…こんなとこ、で…」
こんなキス、されたら。
畳のスペースで向かい合って座ってるからよかったけれど、もし立ってたとしたら。
私、足が立たなくなっちゃってる、多分。
上唇を食むようにされて、歯列をなぞられてから下唇を吸われて、
すでに頭の中がぼんやりとしてる。ここから先のこと、考えてしまう。
「あれ、から、こうしてキスしたくてたまらなかったんだけどね、俺は」
君があまりにも可愛いキスをくれたから、我慢できなくて。
そんな私の心の中を知ってるのか知らないのか、唇を離してすぐに彼が言う。
あれ。
さっき、たくさんの人がいる前で、指先から交わした密やかなキス。
間接キスって言うには余りにもほのか過ぎたけど、私達に火をつけるのには十分だった。
それに、今敦賀さんが言った言葉。
そんなの…私なんかその前からキスしたかったもん。
心の中でそう呟く。
「好きな人作ってる暇ないって言ってたけど」
「あ…れはだって…」
やんわりと私を追い詰めるように、耳のすぐそばで敦賀さんが言葉を続ける。
やっぱり…怒ってたんだ。
もう…だって、あなたを困らせるわけには、いかないでしょう?
私の好きな人が誰かなんて、知ってるくせに…。
「わかってる」
うそ…
だって、目が、笑ってないもん。
「私はお仕事と敦賀さんで精一杯なの…きなひと…敦賀さんだけだって…」
そう、言いたかったの。
「…知ってる」
それに…もうひとつ。知ってた?敦賀さん。
あなたはもう「好きな人」じゃないの。
世界で一番大好きで大切で仕方ない、私の「愛する人」なの。
生きていく中で、本当に、たったひとりだけの私の。
「知ってるよ…」
言葉にする前に、また唇を塞がれてしまう。
まあ…いいか。
きっと、唇から伝わってるよね。
今も、私は何も言ってないのに、知ってる、って、言ったもの。
世界で一番…愛してる、って…口にしたわけじゃ、ないのに。
それとも、好きで好きで仕方がない、っていう気持ちが
私のどこかからあふれ出してるのかな。
敦賀さんにだけは、見えてるのかも、しれない。
ねえ、敦賀さん。大好き…ですよ?
知ってるよ…
心の中でそっと囁くと、すぐに響いてくる、敦賀さんの優しい言葉。
唇の奥から届けられたその想いを、こくりと飲み込んだ。
2006/04/29 OUT