ナイトメア -KYOKO

From -LOVERS

「…ョーコ、キョーコ?…キョーコ、大丈夫?」

気がついたら、隣にいた敦賀さんが心配そうに私を覗き込んでいた。
夢の世界からいきなり現実に引き戻されて、
目の前に敦賀さんがいて、その手が私の身体に優しく添えられていて、
そのことにひどく安心したのかもしれない。
私を見る敦賀さんの目を見つめているうちにその輪郭がぼやけていった。
それを見て驚く敦賀さんも、少し歪んでる。
ああ…それとも、夢の中で私が、泣いてたからなのかな。

「ゆめ…見てて…」
「そうか…怖い夢?」

とりあえず落ち着こうとして身体を起こした私に付き合うように、
敦賀さんも起き上がった。
ヘッドボードに背中を預けた敦賀さんにもたれかかる。
彼の身体に頬を寄せると、そこからじわりと体温が伝わってきて、
それが、さっきまで私のいた世界が夢の中なんだと改めて実感させてくれた。
よかった、夢で。
夢じゃなかったら…なんて、想像するだけで心の底から冷たいものが上がってくる。
なんだろう、なんであんな夢なんか…。

「…敦賀さんの夢…なんだけど…」
「俺が出てきたんだ?」

私がそれだけ言うと、敦賀さんは少し嬉しそう。
そうだったらいつも見る夢と同じ。怖くなんて、ない。
夢の中でもいつも一緒で、起きてて一緒にいる時と同じことしてる。
そんな夢を見るたびに、どれだけ敦賀さんのことが好きなんだろうって
自分でもなんだかおかしくなるの。そして、夢でも逢えたことが本当に嬉しい。

「夢の中で、私は敦賀さんを探してて…」

夢の中で私は、出会った人みんなに片っ端からその行方を尋ねてる。
事務所の人もいれば、道行く人も。
私が探し始めたのは、敦賀さんが逢いに来てくれる、その約束に遅れたから、なんだけど
別に来てくれないことに怒ってたわけじゃないの。
待っているうちに急に不安になって、敦賀さんに何かあったんじゃないかって、心配で、
それで、いろんな人に敦賀さんのことを聞くのに、誰も知らなくて…本当に泣きたくなって、
道端にしゃがみこんで半泣き状態で、敦賀さんどこ行ったの…、って呟いてる。

「何、約束破ったとか?」
「違うの、破ったんじゃなくて…敦賀さんが時間になっても来なくて、急に心配になっちゃって…」
「うん」
「でね、いろんな人に聞いてるんだけど誰も知らなくて、ほんっとに誰に聞いてもわからなくて、
 どうしようって、もう何がなんだかよくわかんなくなって涙が出てきて…おかしいですよねほんと」
「…ごめんね」
「え?」
「怖い思いさせてごめん」

思いがけない敦賀さんの言葉に少し驚いていると、あっという間にぎゅーっと抱きしめられてしまった。
ごめん、って…別に敦賀さんが悪いわけじゃないのに。
私の夢の中まで行動に責任持てないわよね。うふふ。
でも、そんな敦賀さんの「ごめん」が、心の中にすうっと落ちていって、そこがほうっとあったかくなる。
もうちょっと起きないで待ってたら、敦賀さんが私のところに来てくれたかもしれない。
息せき切って、ごめん、って謝りながらきっと今みたいに私のことをぎゅーっと抱きしめてくれる。

「大丈夫、今度からは夢の中でもいなくならないように気をつけるよ」
「どうやってそんなことするんですか?」

密着していた身体を少しだけ離して、敦賀さんの唇が私の頬にそっと触れた。
その後で敦賀さんがそう言って笑う。
いくらあなたが何でも出来るからって、そこまではきっと無理よ、敦賀さん。
何だか真面目な顔をしている彼がおもしろくて、つい吹き出しちゃった。
さっきまでの心臓が破裂しちゃいそうな不安なんてどこかに行ってしまったみたい。
夢の中では確かにとても悲しくて焦っててどうしようもなく不安だったけれど、
こうして起きたらすぐそこに敦賀さんがいてくれて、うなされてる私を起こしてくれた。
夢の世界のことなんだから仕方がないことなのに律儀に謝って、次は大丈夫って。

「キョーコの夢の中に入れるように努力してみる」

笑う私に負けないくらいクスクスと笑いながら敦賀さんが呟いた。
そうね、きっと敦賀さんならそれくらい簡単に出来ちゃうかも。
だったら私も信じるからね。夢の中で、本当にあなたのことを待ってるから。

「まだ時間あるから、もう少し寝ようか…大丈夫?落ち着いた?」
「ん、大丈夫…ごめんね敦賀さん」
「キョーコは悪くないよ…悪いのは多分俺」

ここんとこ、俺の方が忙しいせいでなかなか逢えなかったしね、と少し寂しそうに敦賀さんが言う。
うん、それはそうなんだけど、でも…大丈夫。
忙しい中でもこうやって逢える時間がちゃんとあるし、
短くてもこまめに逢ってる分、離れてる時間でも敦賀さんの温度をしっかり覚えてるから、
1人きりの夜に同じ夢を見ても、私はきっとすぐにあなたのことを思い出して、安心する。
あなたは私に、そんなゆるぎない「安心感」をくれた。
それを私はいつも大事に、持ってるの…。

「キョーコ」
「はい?」
「ずっと、そばにいるよ…おやすみ」
「…はい…おやすみなさい…」

唇にひとつ、額にひとつキスをもらって、敦賀さんの腕の中そっと目を閉じた。
ずっとそばにいるって…約束よ?
言葉通り、ずっとそばにいてくれなきゃ、今度は私があなたの夢に出ていっちゃうからね?



2008/01/31 OUT
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