「つーるーがーさん…おーきて…」
お休みの日に珍しくちょっと早めに目が覚めた。
今日は敦賀さんもお休みだって言うし、久しぶりの2人揃ったオフで
もちろん昨夜から私は彼のお部屋にお邪魔してる。
お付き合いを始めてからずいぶん経つから、こういうことは
もう何度も経験してきたけれど、時間を気にしなくてもいい朝はすっごく幸せ。
幸せというか、すごく自由でうきうきしちゃう、そんな気分。
今日は何をして過ごそうかな、とか、晩御飯、ちょっと凝ったものも作れそうかな、なんて、
そんなことを考えてると、ほんとに眠れなくなっちゃった。
その代わり、というわけではないけど、敦賀さんにちょっかいをかけてみた。
髪をくるくるしたり、すべすべの頬に指を這わせてみたり。
無防備に眠る姿が何だか可愛い。
一緒に夜を過ごすようになってからすぐの頃は、
こうしてるだけでドキドキしちゃって、落ち着かなかったこともあるのに、
今はそういう気持ちがちょっとずついなくなって、
引き換えに、そんな敦賀さんをそばで見ていられることへの感謝とか、幸せ、
そんな想いが胸を満たしていく。
毎日生まれ変わる細胞の分だけ、ドキドキした気持ちもちゃんと、あるんだけれどね。
そっと囁いて起こそうとしてみたけれど敦賀さんは一向に起きそうにない。
ま、いっか…。
敦賀さん、昨夜帰ってくるのちょっぴり遅かったもの。寝かせておこう。
いつもだったら、私の方が早く目が覚めれば、
朝食の準備をしようかとベッドを抜け出す頃だけど、
今日はそれよりもこうして敦賀さんのそばにいたいな、なんて。
枕に混ざってたくさん置いてあるクッションを2つ掴んで頭の下に敷いた。
少しだけ目線が高くなって、敦賀さんのことが良く見える。
私の方を向いて寝てるから、斜め上からの横顔なんだけど、
さらさらした髪とか、長い睫毛とか、ブランケットの上に出ている腕とか、指とか、
キスをする時に触れるすべすべの頬も、耳も、みーんな、
今は私から少し離れた所で敦賀さんと一緒に静かに眠ってるから
観察するにはちょうどいいのかも。
それに、いつも起きてる時にこんなことしてると、
すぐに敦賀さんのペースに持ってかれちゃう。
ゆっくり敦賀さんに触れるなんて、実はなかなかないもんね。
「…何してるのさっきから…」
「やだ、起きてたんですか?言ってくれたらいいのに」
髪にキスをしたり、まぶたに唇で触れたり、手を握ってみたり、唇を指でなぞったり、
敦賀さんが寝てるのをいいことに、いろんなふうに敦賀さんを構ってたら、
ついに腕をつかまれちゃった。だけど別に不機嫌な感じではなくて、むしろ楽しそう。
起きるのずーっと待ってたのに、と呟いたら、伸びてきた手に抱きしめられてしまった。
お互いに何も身に着けてないから、素肌から伝わる熱がほんのりあったかい。
さっきまで隣で眺めてたその腕の中にいるってことも、夢のようで、ふわふわしてる。
すごく不思議な気分だったの。
敦賀さんのいろんなところに触れてたら、これまでのこと、たーくさん思い出した。
いろんなことがあったなって。
そしたら、今こうして敦賀さんのそばにいることが、すごく不思議に思えたの。
「…ずっと起きてたの?」
「んー、30分くらい、かな。楽しかったです、眠ってる敦賀さん」
「…ずるいな…」
「え?」
「いや、なんでもない…そっか…ちょっと恥ずかしいけど」
「敦賀さんだって同じことしてるじゃないですか」
「ん…そ、だね…」
こんな風にして、何気ないことについて言葉を交わす日がくるなんて。
何も特別な用事がなくても、2人でいることが楽しくて、嬉しくて、
そしてそれが私にとって当たり前すぎるほど当たり前のことになった。
ただ私が彼を好きなだけで、それを彼に受け入れて欲しいなんて思わなかった頃、
近くにいる時、例えば仕事で一緒になってお話したりしてても、
すぐそこにいるはずなのに、逆に敦賀さんの存在がすごく遠くに思えて、
何かテレビの中の人を見てるような気にすら、なってた。
同じ役者だけど格が違うとか、そんなことじゃなくて、
自分の人生とこの人の人生がこれ以上交わることはないんだという、悟りとか諦めにも似た気持ち。
敦賀さんのことをそんな風に想うようになるまで何のためらいもなくできたことを、
いちいち気にして思いとどまったりして。
あの頃、ぼんやりと眺めていた彼のことが…さらさらの髪や大きな手、
瞳を縁どる艶やかな睫毛も、優しい声も、逞しい身体も、
みーんな、自分とは別の次元に存在してるんじゃないかと思えるくらい遠かった。
ただ、同じ事務所にいて、知らない同士じゃないからこうやって話してるだけだって、そう思ってた。
だからかな、敦賀さんと私と、お互いに好きっていう気持ちを抱えて向かい合って
こんな関係を結ぶようになったことの奇跡、を、改めて考えてた。
もしかしたら恋人になんてならずに終わったかもしれない。
だけど、今、こうして2人でいることを選んで、その為に私も敦賀さんもがんばってる。
2人だから、がんばれる。そうだよね、敦賀さん。
いろんなことが、あったな、って思うの…本当に。
「…覚えてる?」
「ん…?」
初めて逢った時のこと。
初めて手を繋いだ時のこと。
初めてキスをした時のこと。
初めて…同じベッドで朝を迎えた時のこと。
少しずつ近づいて、想いを交わして、触れて…深いところで繋がって。
そんな風にして2人で築いてきたものを、改めて私に確かめさせてくれた敦賀さんのカラダ。
あの日何の予感もなく不意に触れた手と手が、今はしっかりとした想いの元で繋がり合う。
そんな不思議な奇跡と、一緒にいてくれる敦賀さんに、たくさんの、ありがとうを込めて。
「今日…どうする?どこか行こうか?」
敦賀さんが私の髪にキスをしながら呟いた。
夜のデートと同じ調子でそんなこと言うんだから…もう。
だからって、明るいうちから2人で出かけることもないわけじゃないんだけ…ど、
でも、今日はずっとこうしていたい気分。
なんて言ったら、どんなことになるか簡単に想像がつくから、
はっきりとは口にしないで、その代わりにキスをしてみた。
唇を離すと、嬉しそうな敦賀さんが流れるような動きで身体の位置を私のと入れ替える。
…はっきり言うよりもずっと、効果的だったことに遅れて気づいた私だったけど、観念して目を閉じた。
カラダごと触れていたい。そう思う気持ちが行動を後押ししてくれたみたい。
でも、それって、観念したとは、言わないわよね…?
2007/11/23 OUT