ひとりじめ -KYOKO

From -LOVERS

敦賀さんと…恋人同士みたいなものになってから、
少しだけ変わったことがある。

仕事の依頼を受けるときに、ちょっとだけ考えてしまう。

…敦賀さん、怒らないかなって。

自分に来た仕事なんだから…決めるのは私。
敦賀さんも面と向かっては何も言わない。
でも…ちょっと怒ってるかな、って思うときも、あるの。

ちょっと前に、報告をしたときも、そんな感じだった。

念願だった化粧品会社のコマーシャル。
新しく出来るコスメラインのCFを撮ることになったとき、
相手役に男の人がいるって聞いて
声のトーンが…空気が…変わるのがわかった。

*

「…相手役いるの?…誰…?」
少し不機嫌そうに、私がもらってきた台本をぱらぱらとめくる敦賀さん。
「怒って…ますか?」
隣の私が恐る恐る訪ねると、
キュラキュラと神々スマイルが混ざったような笑顔が返ってきた。
怒ってるじゃない…。

「怒ってないよ?」
同時に膝の上に乗せられて、後ろから抱きすくめられる格好になる。
「つ、敦賀さんっ」
「でも、あんまり面白くない、かな」
「…仕事です」
「わかってる。キョーコが化粧品のCF、撮りたがってたことも、ね」
「相手の人よく知らないし、キスするわけじゃないし、何にもないですよ」
「何かあったら困る」

髪をなでられながら、耳元で響く低い声に、
さっきからドキドキしっぱなしなのに。
敦賀さんはそういうことを平気で言う。
やきもち妬いてくれるのは…
敦賀さんが私のことを想ってくれてるっていう証明になるから
嬉しくないわけじゃ、ない。
私だって…敦賀さんのキスシーンとか…あんまり面白くない。
…役者の恋人としてはまだまだなのかなあ…。
これ以上、好きにさせないで欲しい。
何口走るか、わからないもの…。

「まあ、いいか。こうやって独り占めできるの、俺だけだし」
敦賀さんの体温に包まれて、つられて温度が上がってしまった私に
そう言うと、私の身体をくるっと回転させた。
向かい合う。
今度は…ちゃんと、私だけに見せてくれる笑顔。
嬉しくてほっとしてしまう。

もっといっぱい、私だけに見せて。
笑ってる顔も、真剣な顔も…独り占めしたい。
2人でいるときくらい、
仕事とは関係なく、ただの恋人同士で…いたい。

「私にも、独り占め、させてください」

「もうされてる。独り占め」

呆れるくらい、キョーコでいっぱいなんだけど、と、近づいてきた唇が紡ぐ。
その言葉に舞い上がってしまう私も、自分から誘うように絡めて…。

*

思い出して、ちょっと恥ずかしくなる。
敦賀さんが怒るかな、って思って躊躇するのも本当だけど
実はやきもち妬いて欲しくてわざとそう仕向けてるのかも。

言って欲しくて。
言葉で。
いつも振り回されてるだけじゃ寂しいから。
あなたも私のこと想ってくれてる、って確かめたくて…。

それくらい、いいよね…?
疑ってるわけじゃないの。ただ、確かめたいだけ。
敦賀さんのこと大好きだから。

敦賀さんにも、私のこと、いつまでも好きでいて欲しくて。



2005/09/17 OUT
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