真夜中の模様 -KYOKO

From -LOVERS

すぐ後ろから聞こえてくるのは、敦賀さんの静かな寝息。
ひとつ、ライトを点けているだけの部屋はほのかに明るくて、
目が慣れてくれば思ったよりもいろんなものが見える。
壁…天井のライト…カーテンの表情。
今はほとんど動かない空気の中で重たいままだけれど、
これが朝や昼間で、窓が開いてたりすると、入ってくる風に
そよそよと揺れたりするのよね。
同じお部屋でも、時間によって見せてくれるものが少しずつ、違う。
明るい中、軽やかに舞うカーテンの向こうには、光に浮かぶ都会の街並み。
しっとりとした闇に包まれている時には、
私と敦賀さん以外のものすべてが守る沈黙の中で、時間だけが動いていく。
ああ、でも敦賀さんは今、夢の中、よね?

身体を重ねることが増えてきて、
抱き合うのはいつも夜、っていうわけじゃなくなってから、
こうしてベッドに横たわったままで眺める景色の表情も格段に数が増えた。
お部屋は同じ、ベッドも、そこから見える風景もみーんな同じなのに、
何かが少しずつ、違う。
それは多分、時間帯の描く色だけじゃなくて、私自身の気持ち…
なんていうのかな、その日の体調の違いとか、
何週間も逢えなかった後でやっと敦賀さんに逢えた嬉しさとか、
お仕事でへこんだ日のちょっぴり憂鬱な気持ちとか、
そんなものにもきっと左右されてるのよね。
変わらないのは…そうね、敦賀さんのあたたかさ、かな。
そのあたたかさに包まれて、私はいつもゆっくりと息を吹き返す。

それから、何と言っても、いつも違うのは…模様。
暗いお部屋の中でも、明るくても、よくわかる。
今日は久しぶりに逢ったからかな、いつもよりも少し多い気がする。
枕の近くにも、小さな波模様。
さっき敦賀さんが、ブランケットをぎゅーっとかけてくれたから、
そのあたりにもたくさんできてる。
ぼんやりとしたルームライトの光の中で、
少し前に2人で刻んだいろんな模様を眺めているのも、私の習慣みたいなもの。
シーツやブランケットだけじゃない。
身体にも…紅い模様がたーくさん…。
最初の頃は、そんな余裕なんてなかったのにね。
ただ恥ずかしくて、たまらなかったのに。

「キョーコ…」

私を後ろから抱きしめている敦賀さんの手を自分のほうにぎゅっと引き寄せて、
そのぬくもりを頼りに眠りに落ちようと目を閉じた時、そんな声が聞こえた。
眠っていたはずなのに…寝言…かな?
名前を呼ばれてドキッとしたのはきっと、その声がまるで私を誘う時のような色香を
含んでいるように思えたから、かな。
今日はそんな声を何度も聞いた。
彼が最初に私に手を伸ばした時も、繰り返しキスを交わす時も、
上がりすぎた互いの体温を放熱するように声を漏らす時にも。
そんな時には多分私の声もずいぶんと違うんだろうと思う。
自分の声が耳に入らないくらい、夢中なのだけど。

「…眠ったの?」

なあんだ、起きてたのね。
ほんとに私を呼んでたんだ。わからなかった。

「んーん…起きてますよ…眠ろうとしてたけど」
「じゃあこっち向いて」

敦賀さんを見習って、私も焦らすテクニックを覚えてやろうなんて思ってみても
それは無駄な努力だってすぐにわかった。
今だって、敦賀さんが言うまで背中を向けたままでいようとしてても、
敦賀さんがそれをあっさりと口にするんだもの。
焦らされてるって思ってないのね。
もちろん、それを焦らしてると言うのかと問われたら、あんまり自信もないけれど。
それに私も、起きてる敦賀さんとは向かい合ってるほうがいい。

「はい…」
「ごめん…俺、すぐ寝てた?」
「ええ、気持ち良さそうに」

促されるままに寝返りを打って(敦賀さんの腕によって強引に打たされたとも言うけれど)
互いに向かい合うと、敦賀さんが申し訳なさそうに呟いた。
ほんと、今日は、終わったらすぐに寝息を立ててたのよ?
だからってそんなすまなさそうな顔、しなくていいのにね。
なんだかとても面白くて、しばらくクスクスと忍び笑い。

「あー…ごめん…」
「ふふ…謝らないでね」
「でも、ずいぶん時間が経ったみたいだよね…」
「いいの。夜は眠るものなんです。それに…」

あなたのぬくもりと、一緒に描いた真夜中の模様たちが私を包んでくれたから、大丈夫。
眠っていても、2人でいたことに変わりはないから。
それに、どっちかっていうと2人で眠っているよりも、眠っているあなたの隣にいるほうが好き。
眠っているあなたを見ているのが、とても好きなの。
そんな気持ちを唇に込めて、敦賀さんにそっとキスをした。
そして、その次のキスを敦賀さんからもらいたくて、すぐに唇を離す。
思ったとおり、すぐに敦賀さんの唇が私を捉える。
私があげたそっけないキスの物足りなさを埋めるかのように、深く。

2回目が始まりそう、なんてうろたえたりは、しないの。
敦賀さんに私からキスをしたのも、そのキスがとても短いものだったのもみんな、
もう一度夜の中に2人で模様を描きたいなって、思ったから。
ほら、指を絡ませて手を繋いだところにも新しい模様…。



2007/08/30 OUT
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