HEAVEN -REN

From -LOVERS

腕の中に収まってる身体をぎゅうっと抱きしめてみた。
後ろから腰に回した俺の手に、彼女がそっと触れてくる。
手で追いかけごっこをしながら絡める指先。
唇を何度も髪に押し付けて、耳にもかぶりついてみたりして
その度に、くすくすと笑いながら彼女が身をよじる。

「もう、だーめ…くすぐったいです…っ…やーだもう…」

最近やっと、こうして過ごすことに慣れてくれたみたいだ。
並んで座ってるだけじゃ物足りなくなった頃、
腕を取って膝の上に乗せたら、少しだけだけど抵抗されて傷ついたりして。
もっとも、それはただ単に恥ずかしかったからだということがすぐにわかったんだけど、。
それでもこういう風にずーっと抱きしめていることを許されるまでにはちょっと苦労したかな。
まあ、それは俺の中では苦労のうちには入らないかもしれないけれど。

こうしていたいと思うのに、理由なんかない。ただ、もっと近くにいたいだけ。
くっついていたい。それだけ。

俺よりずっと細い身体は、腕の中にすっぽりと包み込むことができてしまう。
細身で華奢だけれど、やっぱり女の子だからとても柔らかくて
そして、全身すべてのパーツが可愛く思えて仕方ない。
さらさらと揺れる艶やかな髪とか、柔らかく光を跳ね返す滑らかな肌の感触とか、
食べてしまいたいくらいぷるぷるとした耳とか頬とか、俺の肌にしっとりと馴染む指先とか
もう、列挙しようとすれば数え切れないくらいだ。
それから、何もつけていない時にもほのかに立ち上るいい香り。
彼女の全てが俺を魅了してやまない。
ただ抱きしめているだけでこんなに幸せな気持ちになれるなんて知らなかったんだ。
触れているときには、愛おしいのを通り越して、胸を締め付けられるほどの幸福感に飲み込まれる。
手が届かないと思っていたものを手に入れることができたからなのか、
それとも…

「あー…君の身体って本当、気持ちいいね…」
「え!!??…な、何言ってるんですか敦賀さんっ」

そう呟いた途端、彼女が声をひっくり返して叫んだ。
何が起きたのかまったくわからず、彼女の顔を見ようとすると
その彼女は必死に俺の腕から抜け出そうともがいている。

「ま、まだお昼なんだからダメです…っ」
「は?」

せっかく2人きりで誰にも邪魔されない時間を逃すまいと、
しばらくじたばたとする彼女と格闘しながら、さっきまでのことを振り返る。
えー…と、なんでこんなに怒って…というか顔がすごく真っ赤で…
俺、何か怒らせるようなこと言ったか?
抱きしめてるだけで、そりゃあ少しはちょっかい出したりはしてたけど、
あとはその状態をすごく気持ちがいい、って思って、
それを思わず口にしてしまったくらい。

ん?
…もしかして、気持ちいいって…あぁ、そうか。
わかった。なるほど、そういう風に…ね。

「別にヘンな意味で言ったんじゃないよ、こうやって…」
「だーかーらっ!」

気持ちいい、を、そういう意味で取り違えたらしい彼女が
言葉を繕おうとした俺を尻目にさっき以上にわぁわぁと慌てている。
違うのに。
いや、まあ、突き詰めればそういう意味にたどり着くかもしれないけど、
もっと単純に、君に触れてることがすごく俺にとっては「気持ちいい」ことで…。
抱きしめれば適度に柔らかい小さな身体、ふわふわでさらさら、という言葉がピッタリで
おまけにとても良い匂いがして、それだけで幸せだって、言いたかっただけ。

「敦賀さんっ!ダメですからね?わ、私ちょっとキッチン行って─」
「もちろん、そういう意味でもすごく、気持ちいいけどね?」

首筋に唇を押し当ててみた。
跡がなるべく残らないように用心しながらその柔らかな皮膚をそっと吸い上げる。
そんなつもりはまったくなかったけれど、1人で真っ赤になってる君がすごく、可愛くて…
うん、したくなった…かな。

「なっ…や、ちょ…敦賀さんっ、どこさわって…」
「教えてあげようか、俺が、どういう風に気持ちいいって思ってるか」
「だ、ダメですっ…いいです教えてくれなくていいですっ」

俺の言葉と行動に真剣に焦ってる感じなのが、かえって可愛くてたまらない。
さて…どうしてくれようかな…本当に。
誘ったのは君だよ、なんて呟いてみたりして。
がっついてるとか思ってるんだろうな…きっと。
そういえば昨夜もこんな風にして始まって、眠る前の記憶の中で覚えてるのは
目を閉じる前に見たベッドサイドの時計が深夜も深夜、3時過ぎだったことくらいだし。
もちろん、身体だけを求めてるのではないけれど…
愛しいと想う気持ちが、自然に身体を近づける。
言葉だけじゃなくて、唇だけでもなくて、いろいろなやり方でそれを伝えたいし、
許される限りは君と一番近いところで時を過ごしたい。

「…んー…でももう止められないかな…」

こっち向いて、と囁いて彼女の身体をこちらに向けた。
反論の言葉が出てこないように素早く唇を塞ぎ、舌をもぐりこませる。
俺の胸を押し返そうとしていた彼女の手から、少しずつ力が抜けて
その代わりにその手が俺の首に回された。

「ん…っ…」

口付けの奥でくぐもった声が響く。
繋がった唇を通して俺にも届くその音で、
身体の奥でゆらゆらと揺れる小さな炎がやんわりと煽られているのを感じた。
ほら、ね…もう、後戻りできなさそうだよ、キョーコ…。

「…こんなひ、昼間から…」
「誰も見てないから大丈夫。カーテンも閉まってるしね」

吐息混じりの彼女の囁き。
繋いだ言葉でそれをかき消しながら、彼女の服の中に手を滑らせた。
いつものように滑らかな肌は、そんな俺の手にぴったりと吸い付いて、
まるで俺の手を待っていたかのように応えてくれる。
ゆっくりと、でも確実に上がっていく彼女の体温が、俺を少しずつ満たしていく。
そんな声出して…ダメだなんて言わせないよ。

「天国に…連れて行ってあげる…」

濃厚すぎたキスの熱を逃がすかのように密やかに空気を紡ぐ唇をゆっくり見送ったあと、
彼女の手を取り、指先に口付けた。

君と「する」のも、君をぎゅっと抱きしめてるのも、
もちろん、ただ君と一緒にいるのだって、俺にとっては全てが天国。
つまり…そう、毎日がきっと天国にいるようなものなんだろう。

2人でいられるなら、どこだって天国。
君も、そう思っていてくれたら嬉しいな…。



2007/03/31 OUT
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