独占欲 -KYOKO

From -LOVERS

んん…
まぶたの向こうが明るい…
眩しくて、掛けているお布団を顔の上まで引き上げた。
もう朝なんだ、起きなくちゃ。
起きなくちゃって思ってるのに、こうして眠っているのがなんだかとても気持ちよくて
それに身体もちょっと重たいし。
…ん?…重たい…なんでだろう。

えっと…昨夜。
昨夜は…あ、そうか、お酒飲んだんだった。
お酒、あんまり飲まないようにしてたのに、しまったな。
飲んだというか飲まされたというか。
ほとんど目が覚めてはいたけれど、
とりあえず記憶がまばらな昨夜のことを思い出そうと目を閉じてみる。
ドラマで一緒に仕事してる人たちと一緒にお酒飲んで、
別にその場ではおかしなことは何も起きなかった、わよね。うん。
時々しか飲まないのに、昨日は少し飲みすぎて
そのせいでなんとなく頭がすっきりしなくて…身体も重た…い

…あ、れ?

わ、たし…服、着てない?
ううん、ちょっと待って。かろうじて下着は着けてるみたい。
でも、上半身は…ハ、ハダカ…あれ?あれれ?

「おはよう…酔っ払いさん、頭、痛くない?大丈夫?」

服を着ていないことにパニックになっていると、
上から声が降ってきて、その後すぐに影が私の方に伸びてきた。
この声…聞き間違えるはずなんかない。
振り向くと、敦賀さんがにっこりと微笑んで私の額にキスをした。

ちょっと待ってどうしてここに敦賀さんが…って!
良く見たら、ここ、敦賀さんのお部屋じゃない…!
それに…酔っ払いさんって…

「あ、あの…酔っ払いって」
「すごく、酔ってたよ?覚えてないの?」
「ええいやあの…えっと…」
「昨夜はすごかったね、キョーコ…あんなことやこんなこ」
「まっ、ちょっと待ってくださいっ、わ、わたし昨夜どうやって」
「いいからほら、これ着てて」

敦賀さんに詰め寄ろうとして、でも明るい中でハダカなのが途端に恥ずかしくなって
記憶が途切れ途切れで上手く思い出せないのがもやもやして
布団をかぶろうとしたら、敦賀さんが私を引っぱり起こして、それから何かを着せてくれた。
それは敦賀さんがお部屋でよく着るシャツで、着せられてすぐにふわっといい香りがしてきて、
肌を滑る感触がくすぐったい。
そして私は、昨夜からずっとこの香りに包まれてたことを思い出した。

「あ、あのね敦賀さん…」
「うん?」
「ゆ、昨夜私…あの…」
「俺に、逢いに来てくれたんだよ?」

ああ…約束してなかったのに、来ちゃったんだ…私。
敦賀さん忙しそうだからしばらくお部屋では逢わないってことになってたのに
無理矢理押しかけちゃったんだ。
酔っ払ってたからなのかな…ちょっと自制しないと私そのうちとんでもないことしでかしそう。

「覚えてない?」
「えっと…お酒飲んでて…なんで…」
「思い出させてあげる」

なんとか昨夜のことをちゃんと思い出そうとして下を向いたら
敦賀さんがそう言って私の身体をぎゅっと抱きしめた。
そして、いきなりの「ぎゅう」に慌てている私をよそに手を握る。
握るというよりも、私の手を掴んで逆に自分の手首を掴ませた。
私の手が、敦賀さんの手首を握っている、っていう状態。
あ、あれ?

「こっちの手も、同じようにしてみて」
「へ?」
「両手で俺の手、握ってみて」
「え、えっとこう…ですか」

言われるままに敦賀さんの手首を握ると、
敦賀さんがにっこりと笑ってヘッドボードにもたれかかる。
少し引っぱられたから、敦賀さんの胸におでこがゴチンとぶつかった。

「膝をついて俺にまたがってみて」
「えっとあの…こ、こうですか…?ってあの…私、服…」
「いいからいいから」

何だかすべてが上手く言いくるめられてる気がする…
けどとりあえずそれも言われたままに敦賀さんに近づいていく。
こうやって向かい合うとすごく顔が至近距離。キスする手前みたい。
それに、こんな風にしてると敦賀さんよりも私のほうがキス…
…ちょ、ちょっとこれじゃあまるで私が敦賀さんを襲ってるみたいじゃ…あっ…!

「思い出した?」
「…私…」

私の顔色が変わったのに気づいたのかどうか、敦賀さんが私に問う。
その声がすごく楽しそうなのはどうしてなの…?
思い出した…みーんな、思い出した。
酔っ払って敦賀さんにどうしても逢いたくてマンションまで来ちゃって
眠ろうとしてた敦賀さんを…私を見てほんとにビックリしてた敦賀さんに飛びついて…
それで、敦賀さんに誘導されたよりももっとすごいことして…た…

「こうやって俺を押さえつけてね、キスして…それもかなりすごーいキス…それから俺を押し倒」
「わあっ…やめてください…そんな実況今更しなくったって…」
「だって昨夜のキョーコはほんとにすごかっ」
「なんでそんなわっ、私にされるままになってるんですか…っ」
「んー、でもずっとされるがままじゃなかったよ?最後はちゃんと俺が押し倒」
「知ってますっ…じゃなくて!昨夜の話はもうやめてくださ…んっ…」

敦賀さんが楽しそうに昨夜のことを話そうとする度、頭の中に浮かぶ映像。
口ではとても言えない、朝に不似合いな昨夜の恥ずかしい出来事を、
とりあえず頭の中から追い出そうとしてぶんぶんと振ろうとした時、
不意に敦賀さんの唇が私のそれを塞ぐ。
…敦賀さんとするキスは…といっても私はちゃんとしたキスはこの人としかしたことがないけれど、
私を一瞬にして蕩けさせるくらい効果抜群のキス。
初めてした時からそうだったけれど、
唇だけでなく身体を繋ぐようになってからは、その効果が倍増した気がするの。
身体が、全身でこの人のことを憶えているからなのか、
とにかく、敦賀さんとキスをするといつにも増して、身体がこの人でいっぱいになる。
そうでなくても、敦賀さんでいっぱいなのに。

「ん………」
「来てくれて嬉しかったよ、ありがとう」
「……ごめんなさい…」
「謝らなくていいのに」

酔ってるときに言っても覚えてないかと思って、と敦賀さんが微笑む。
もうほんとに…それについては申し開きもないです…
なんで私、敦賀さんとこ来ちゃったんだろ。
酔っ払ってる私なんか見たくなかっただろうに、もう…何て言って謝ったらいいのかな。
それに、そんなのとキス…はいいかもしれないけどその先まで…

「酔っ払ってたから嫌だってわけじゃないんだよ、気にしないで」
「…私…ヘンなこと言ったりしなかった?」
「…言ってないよ」

何…その…間…

「うそっ!その顔絶対嘘ついてますっ、わっ、わたし何て言ってたんですかっ!」
「ヘンなことなんて言ってないから大丈夫…そうだね…敦賀さん大好き、とか、そんな感じだよ」
「っ…」

それを敦賀さんの口から聞かされることはとんでもなく恥ずかしくて
一瞬にして顔がゆでダコになったに違いないんだけど、
多分、ううん、絶対、もっと何か違うことたくさん言ってる、はず。
敦賀さんがすっごくニコニコしてるんだもの…!
あれはイジワルしたりからかったりする時の顔。
だけど、これ以上何か問い詰めようものなら墓穴を掘ってしまいそう。
もう私は何も聞けなくなって、その代わり敦賀さんにぎゅっと抱きついてみた。
抱きしめ返してくれるその腕よりも強く彼を抱きしめて、胸に顔を押し付ける。

…決めた。もう絶対、あんなになるまでお酒飲んだりしない。
あんなに前後不覚になるまで飲んだり、しないもん。
…社会人として当たり前なのに、私…
というよりも、お酒飲むようになってからあんなになるなんて、初めて、よね?
なんでだろう、って、思い出すのも憚られるような昨夜のことをもう一度考え始めた。
確か、芸能界での最強イケメンとかいう話題が出て、誰かが敦賀さんのことを言い出して
でも、それはどっちかっていうといわゆるファンみたいな明るいノリだったはずなのに、
聞いた途端に身体の中の血液が沸騰するくらいに嫉妬、なのかな、
とにかくヘンな気持ちになって、敦賀さんは私のものなんだもん、って…
そしたら逢いたくてたまらなくなって彼の恋人は私だ、って、確かめたくなって。

ああ…そうか…
思い出した自分の気持ちの揺れ動きに、頬が熱くなる。
好き、っていうピュアな気持ちに、独占欲みたいな気持ちが入り混じって
それにお酒がプラスされてヘンな方向に作用した、のかな…。
ううん…だからってお酒のせいにしちゃ、ダメよね。

「気分、悪くない?大丈夫?」

しばらく黙ったままだった私を気遣うように敦賀さんが私に問う。
大丈夫。ごめんね敦賀さん。本当に、ごめんね…。

「大丈夫です…あ、朝ごはん…」
「うん、簡単だけど用意してきたから、一緒に食べよう」
「あ…ありがとう…」
「機嫌、直して?」

…どうにも恥ずかしくて顔があげられない。
ごめんなさい敦賀さん。違うの。気分も悪くないし、機嫌だって悪くないのに…。
何だか、あなたに合わせる顔がなくて。
あなたのことが好きで、本当に大好きで、だけど、そんな気持ちをあなたの前で
素直に言葉にするのは私にしてみたらかなり恥ずかしいことで、
いつも「好き」って言ってくれるあなたにどこかで甘えてる。
キスしたり、抱きしめたり…身体を繋げたり、そんなことで伝えられてるって思ってた。
だけど…違ったのよね。思い出した。
昨夜、私は…あふれる気持ちを表す術がそれしかないくらいに「好き」をいっぱい口にしてた。
好き、好きです…大好き。
言葉にしなくてもわかってもらえる、んじゃない。
わかってもらえてるって確認するために、それから、自分の気持ちを改めて知るために言うの。
…いつか言いたくても言えなくなる日が来たときに後悔しないように、何度でも言わなくちゃ。
何度でも…言いたい。そう思ったの。
普段なかなか言えなかったから、きっと私の中の「好き」が爆発しちゃったんだ。

「歩ける?」

ベッドから先に降りた敦賀さんが私に手を伸ばした。
大丈夫です、と微笑んでみせてから、その手を取った。
スカートを身に付けて、それから2人でリビングへ歩き出す。
ドアを開けようと少し先に歩みでた彼の、背中にぎゅっと抱きついた。
伝わる熱が、おさえきれない気持ちも、昨夜のとがった独占欲も、優しく言葉に変えてくれる。

敦賀さん。

「っと、キョーコ?」
「…だいすき」

だいすき。
せかいでいちばん、だいすき。



2007/10/25 OUT
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